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うーーん、やっぱりお兄ちゃんって料理上手だ。
そう思いながら、今私が食べているのは兄特製の手作りプリン。
さっき夕食のハンバーグを食べ終わったばかりなんだけど、女の子にとってデザートは別腹よね。
兄の作るプリンは市販のものよりも甘さ控えめで上品な感じ。
お兄ちゃんの作る料理を食べていると、お兄ちゃんの妹でよかったって思う。
その兄も今、和室にあるこたつに私と向かい合ってプリンを食べている。お父さんはお風呂だ。明日はおばあちゃんの1回忌だが、父さんは仕事の都合で参加できないらしい。お寺へは週末に改めて3人で向かうが、明日は私と兄でお墓まいりに行くことにしている。
「ねえ、明日って朝から行くの?」
「んー、墓参りだけだから、昼から行こうと思ってる。天気予報だと明日の昼から晴れるって言ってたしな」
兄は私たちが食べ終わったプリンの容器を持ちながら立ち上がりながらいった。
「昼前に家を出て、墓に着いたら掃除して、墓参りしても夕方には帰ってこれると思う。朝から軽く弁当でも作っていくのもいいな」
思いついたって感じで兄はキッチンへ行く。母のいない我が家では兄がもっぱらお母さん代わりとなっている。
さっそく明日のお弁当で何を作るか、材料を見ながら考えるのだろう。
「やっぱり私たち以外だれもこないんだよね」
私も兄の後ろについて、キッチンへ行きながら言った。
「もともとばあちゃんがそういったのしなくていいって言ってたんだよ。葬式のときもそうだったろ? 家族と近所の人くらいしか参加しなかったし。それにばあちゃんの家族ってここでは俺らだけじゃん?」
兄は冷蔵庫のなかを見ながらそう言うと、やっぱサンドウィッチか? おにぎりでもいいしなー、とさっそく明日のお弁当についてぶつぶつと独り言を始めた。
……兄の言っていたようにおばあちゃんには私たちしか家族はいない。いや、正確に言うと日本、地球にはいない、だ。
驚くことに私たちのおばあちゃんは若いころ、異世界から日本にトリップしてきたらしい。
トリップしてきて右も左もわからないおばあちゃんに一目惚れして助けてあげたのが今は亡きおじいちゃんらしいのだ。
おばあちゃんの見た目は西洋人のようで、髪色は金で巻いてもないのにきれいにカールしていた。肌の色も日本人のような黄みっぽいのじゃなくて、日焼けしなさそうな白い肌だった。
特におじいちゃんの目を引いたのはおばあちゃんの瞳だって言ってた。
私たちがいる世界ではないような、深い深い紫色。
おばあちゃんがトリップしてきた当時はまだ戦後直後で、白人の見た目をしたおばあちゃんはあまりいい思いをしなかったらしい。
そんなおばあちゃんをほっとけなくて、猛烈にアタックして結婚したっていわれてる。
親に反対されたりもしただろうに、じーちゃんナイスファイト!
普通は自分のおばあちゃんが「私は異世界からきたのよ」って言っても信じないだろう。
ただの嘘か、おもしろがって言っているとしかおもえないから。
でもうちの家族、父も兄も私もそれが本当だと知っている。
おばあちゃんが毎夜聞かせてくれたお話が本当にどこかにある世界のものだと知っている。
キッチンで明日の下ごしらえをしながら私に「弁当なにがいい?」と聞いてくる兄の瞳は紫色。
「おにぎりがいい!」そう答える私の瞳も紫色。
明日はおばあちゃんが亡くなってちょうど1年。
日本にいる私たち家族はおばあちゃんが亡くなったことをしっている。
でも異世界にいるおばあちゃんの家族は? 友達は? おばあちゃんが幸せだったということをしっているのだろうか。
おばあちゃんは私たち家族に愛されて幸せだったよ、と伝えられたらいいのに。
そう思いながら私はおばあちゃんと同じ紫の目で首にかけているゆびわを見つめた。