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王都での生活

「しあわせーー!」

 私は目の前のベッドに跳びこみ、足をばたつかせる。久しぶりに体を洗って、久しぶりのベッドだ。


「まったく、来た早々騒がしいやつだな。私は疲れたからもう寝るぞ」

 ロウは私が今ごろごろしているベッドの隅に潜り込みすっかり寝る体勢だ。

 どうやら今日は今の仔犬の姿から、あの大きな姿に長時間変わったため魔力をたくさん消費したらしい。


 ロウとの契約者である私自身はというと、お腹いっぱいに食事したのですこぶる元気である。食事と魔力が関係するかは不明だが。


「えー、ロウもう寝るの?」

「下に行けばグロウやラネ達がいるはずだから、起きていたいのならそっちへ行けばいいだろう。ヒナを乗せて1日中走ったんだ、休ませろ」


 どうやら妖精でも疲れというのはあるようだ。おそらく魔力を大量の使う事で、人間でいう疲れ、になると思われる。


 ここしばらくはロウに頼りっぱなしで、確かに疲れさせてしまった意識はあるので、そっとしておくことにした。

 私もロウの眠るベッドの中へ入っていく。ロウの温もりですでに少し暖かくなっている布団に包まれながら、今夜のやり取りを思い返す――






「よう、ラネさん。今日も飲みに来たぜ」


 行き先を案内してくれるらしいグロウさんがある一軒のお店の中に入って行った。私たちもその後に続く。


 ドアについた鈴の音が店中に響いた。どうやら繁盛店のようで、多くの客で賑わいをみせている。

 食堂と思われる店内では仕事帰りの人たちであろうか、何人かがテーブルでお酒を飲んだり、ご飯を食べたりしていた。


 ひと通り店内をぐるりと見渡す。グロウさんが奥のカウンターらしきところで1人のおばさんと話をしていた。


「お、こっちだ! ヒナ、この人が多分ヒナが探していた人じゃないか?」

 手招きをしながら私を呼ぶのでそちらに向かう。近くで見ると、かなり恰幅のいいおばさんだ。


「この子かい? ――知り合いに私を紹介してもらったと聞いたけど、いったい誰に紹介されてきたんだい?」

 女性はあんたみたいな女の子を持つ知り合いなんていたかね? と首を不思議そうにかしげている。


 その通りである。知らなくて当然だ。だって、トリアおばあちゃんたちは私のことを知らせていないと言っていたからだ。だからこうやって直筆の手紙を持参したのだ。


「――私はトリアおばあちゃ、……ごほん。トリアさんから紹介されてきました。えと、トリアさんからの手紙も預かっています」


 私はトリアおばあちゃんから預かった手紙をおばさんに渡す。受け取った彼女はその場でその手紙を読み始めた。


 ……なんて書いてあるのだろうか。

 受け取った手紙を読み進めるおばさんを見ていると、しばらくして読み終わったらしく、私の方に顔を向けてきた。


「ヒナは私の母さんたちのところで一緒に住んでいたみたいだね」

「あ、はい。数ヶ月ほどでしたがお世話になりました」

「そして――家族や親類はいないんだね」

「……はい、森の中で祖母と暮らしていたんですが、その祖母が亡くなったので。身元も不確かな私に良くしてくださった村のみんなにはとても感謝してます」


 どうやら手紙には私のことについていろいろと書いてあるらしい。

 お世話になった経緯は村でも話していた通りだ。

 トリアおばあちゃんたちにもトリップのことだけは伝えていないかったから。いつか打ち明けることがあるかもしれないが、今ではない。無闇に言いふらす事は避けたかった。


「そうかい、それはさびしい思いをしたね……。それからヒナは今日から一緒に住むことになったからね」

「はい。………って、え?!」


 大きく驚いた私に、おばさんが手紙の内容を教えてくれた。


「簡単に言うと、『家族が増えた。あんたの目の前にいる娘は義理の妹だ。初めての王都で困っているようだから助けてあげな』ということだよ」


 母さんの言うことには逆らえないからねー、と笑っている。

 笑う時の目元がトリアおばあちゃんに似ていて、見た目は迫力あるけど優しい人なんだと分かる。


「でもそんな急だし、……迷惑かけちゃいます」

 突然押しかけて、なおかついきなり一緒に暮らすだなんて、自分で言うのもなんだが迷惑極まりない。

 まだ大人――とは言えないかもしれないけど、小さな子供でもないし、どこか働けるところでも紹介してくれたら、と思っていたから予想外である。


「家族が困っているなら助けるのが当たり前だろう? 知らない間にできた義妹というよりも……娘だけど、母さんたちがあんたは良い子だって書いてあったし、それに困っている子を外に放り出すわけにもいかないしねえ」


 ……家族。トリアおばあちゃんたちが私のことをそう思ってくれていたなんて。

 一緒に過ごした時間は短いものだったが、知らない世界で不安も不自由もなく過ごすことができた。それだけでも有難いのに、家族という風にみてくれていたなんて、感謝してもしきれない。


 そういうわけで王都でも幸運なことに、住む場所が決まったのだった。





 ロウも一緒でいいと言われたし、こんなに円滑に物事が進んでいいのかな、と思ってしまうほど。

 私たちはあれから旦那さんとも会って軽く挨拶をして、グロウさんも一緒に夕食を食堂でとらせてもらった。


 おばさんの名前はラネットさんで、旦那さんはウィンスさん。


 ラネさんはやっぱり豪快なお母さんって感じで、ウィンさんは優しいお父さんって感じ。

 2人はこの食堂兼、宿屋を夫婦で切り盛りしている。


 2人には息子が1人いるらしいが、今は学校の寮に住んでいるとのこと。休日にはたまに帰ってくるらしい。

 私が与えられた部屋はその人、名前はイアンとかいうラネさんたちの息子さんの部屋だった。


 ほとんど帰ってこないから服などの荷物は寮にあるとのことで、借りた部屋はベッドやタンスなど必要最低限しかない。

 自由に使っていいと言われたのでトリアおばあちゃんのとこでもそうだったように、ここでもお言葉に甘えることにした。


「この家族にはお世話になりっぱなしだね。せめてものお返し、になればいいけど明日から頑張ろうっ」


 部屋の明かりを消し暗い中ベッドで独で意気込んだ。ロウからは返事がなく、熟睡中らしい。


 突然の事だったが、ラネさん夫婦は私(と一匹)を快く受け入れてくれた。その恩返し、になればいいのだが、明日からお店の手伝いを申し出たのだ。


 私は「ふあぁっ」と大きなあくびをすると、下の階からうっすら聞こえるラネさんたちの声を聞きながら眠りについた。

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