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 太陽が沈み月が輝き始めると、いくつかある王都への門は静かに閉まっていった。あたりは時を知らせる鐘の音が強く鳴り響いている。暗くなり始めても人々で賑わう様子はさすが国の首都、王都と頷ける。


 風の妖精たちが私たちを歓迎するかのように、さわさわと私とロウの間を通り、心地良い風が吹いた。

 妖精たちは森など自然豊かな場所に多くいると思っていたが、どうやら思い違いだったみたいだ。今まで過ごしてきた村や周囲の森よりも随分と数が多く魔力も満ち溢れているようにみえた。


 私とロウは丘の上から王都全体を見た後、足早に丘を下りなんとか無事に王都へと着いていた。

最初は小走りで走るくらいだったが、ちょっと間に合いそうになかったので

「な、なんとか着いた……、こんなに……本気で走ったのって、いつぶり……」

 最終的には風の妖精の力を借りて、全速力で走るはめになってしまったのだ。


 すごい形相だったのか、門を閉じようとしていた中世の騎士のような恰好をした人たちがちょっと待ってくれたくらい。


「お嬢ちゃん大丈夫かい?」

「はい……なんとか。走り過ぎて、息が、苦しいですけど」


 私は呼吸を整えながら騎士らしいおじさんに声をかけられたので返事をする。

 私が疲れながらもにっこりと返事をかえすと安心したのか、「若い娘は元気だなー」と笑われる。


 どうやら私が最後だったらしい。おじさんは同じ格好をしたもう一人の人と門の施錠を行っていた。


 私は門から入ったすぐのところにいた。

 あたりには手続きするようなところもないし、トリアおばあちゃんたちも何も言っていなかったからこのまま入っていいんだと思う。たぶん。


 そわそわしながら周りを見渡すと、私よりも先に来た人たちであろうか、旅人風の人や商人風の人達がまだ何人かいるみたい。

 彼らも何も手続きしてないし、大丈夫なんだろう。


「ヒナ、本格的に夜になる前に渡された手紙の住所のところに行くぞ」

「そうだね。とりあえず、今日はトリアおばあちゃんの娘さんのところにでも泊めてもらえたらいいけど」


 息が整ってきたし、ここに居続けるわけにもいかないので移動することにした。

 数少ない荷物を持ち直し、私とロウは目的の場所を探すためにまず、大通りへと目を向けてみたんだけれど。


「えーと、このまままっすぐでいいのかな……?」


 もちろんここは知らない町、どころか異世界であったことを思い出した。どうやら簡単には行きそうにない。






「ねえ、ロウは王都に行ったことがあるんでしょ? なんとなくとか、道分からない?」


 門のすぐそばからたくさんの店が並び、路地には家が立ち並んでいる。村とは違って通りには灯りがあり、家路につく人や飲食店に入って行く人などでわいわいと賑わっている。さすが王都となると、私たちがいた村や途中で通った町とは比べ物にもならない。


 街並みもきれいに整備されていて、建物はどの村、町もそうだったが、地球ではヨーロッパを連想させるようなレンガで建てられた石造りの街並みである。


「ふむ……さっぱりわからんな」

「やっぱりね」


 まあ、ロウは50年近くも日本にいたんだし、街並みも変わるはずよね。でもこうもはっきり言われると何と言うか、潔いというか。


「とにかく行ってみるしかないのではないか? ここにいてもどうにもならんしな」

「そうだよね、道は人に聞けばいいか」


 ということで、まずは道なりに歩いてみることにした。

 夜になると静まり返る村とは違い、人はごった返していて活気ある人々や商店、見たことのない食べ物、きらびやかな装い。どれもが私の興味を刺激して、すっかりと道を尋ねるという目的を忘れてしまいそうになる。


 そうしてこの華やかで美しい街並みに見惚れるようにうろうろとしてしまったせいで、

「……迷った」

「うむ。迷ってしまったな……」


 結局は迷子になってしまった。



 とぼとぼ、と周りを周りを見渡しながら、もうどこを歩いているか分からないけど歩き続ける。

 さっきも通ったかもしれない道だけどそれすら今日来たばかりの私たちでは分からない。


 何度か人に道を尋ねたけど、この王都が広すぎて途中でどの通りをいけばいいか分からなくなってしまうのだ。


「どうしよう……こんな夜に迷子ってやばいよね。とりあえずどこか泊まれないかな」


 夜が危険なのはどの世界でも共通だ。それに疲れたのとお腹すいたのとでとにかく休みたいので、ロウに提案してみる。

 お金は村を出るときに今までのお給金としていくらかもらったものがあるので、安い宿だったら泊ることはできるはずだ。 


「そうだな。すっかり夜になってしまったし、今日はあきらめた方がいいだろう」


 こんな広い王都で地理もなく、すんなりと運良く行き先にたどり着けるとは思ってなかったので、想定内ではある。

 とりあえず今はゆっくり休みたい。

 そう思って、今度は宿を探そうと思っているところに、運が巡って来た。



「お? さっきのお嬢ちゃんじゃないか?」 

「あ、門の!」

 騎士らしいおじさんに会った。


 + + + +


「はははー! まさかあの時からずっと歩き続けてたなんてなぁ。聞いてくれさえすれば教えてあげたのに!」


 長い時間歩き続けていたから最初の門から結構離れたところにいると思ったけど、あんまり移動してなかったみたい。

 というか、同じところをぐるぐると回ってたのに気づいてなかったのかもしれないけど……


「いや、そんなことできませんよ。お仕事してたみたいですし」

 それに今は大丈夫なんですか? と付け加える。


「まぁー確かに仕事中だったな。でも今日は門を閉じたら終わりだから大丈夫だ」 

「でも本当にいいんですか? もう遅くなってきたし、帰宅途中だったんじゃ……」

「困っていたらお互い様だ。それに夜に女の子1人にするなんてできるわけないし、なんと偶然にも俺もこれからそこに行くつもりだったのさ」


 丁度今、このおじさんに出会ってなんと私たちの目的地である、トリアおばあちゃんの娘さんの家に連れて行ってくれることになった。

 しかもここからそう遠くないところにあるらしく、すぐとのこと。


 ということでおじさんのお言葉に甘えて、連れて行ってもらうことにした。 


 あ、そう言えば……

「まだお名前聞いてなかったですよね。伺ってもいいですか? ちなみに私はヒナで、この子はロウです」


 こんなにお世話になっているのにずっと脳内でおじさん呼ばわりしていた。

 ロウは今、仔犬のふりをしているのでちょっとおじさんの方をみただけで、声は出してない。


「そういえばそうだな。俺はグローリーだ。グロウでいいよ」

 そう言って自己紹介してくれたおじさん、グロウさんはどうやら30歳らしい。……おじさんって言ってごめんなさい。もうちょっと年上だと思ったことは内緒で……。


「はい、グロウさんですね。今日はありがとうございます。本当に助かりました」

「お? 礼儀正しいな。ついさっきすごい顔で走ってきた女の子と一緒だなんて思えないな」


 グロウさんは、もう一人の奴もかなり驚いてたぞ、と笑いながらさっきのことを言ってくる。 


「そ、それはもう忘れてください!」

「ははっ! じゃあ、忘れるということにしておくよ。……あ、あれがヒナの探していた家、というか店、宿だな。俺はいつもここで飲んでいるからおかみさんにヒナのことを紹介してやるよ」


 歩きながら、私はグロウさんに知り合いの紹介で今の目的地へきたということを話していたのだ。それでその話をしたらグロウさんがついでだからと一緒に行って紹介してくれるとのこと。


 あの顔を見られたのを省くと、王都で最初にグロウさんと知り合えてよかった。


 私は慣れない街を歩いた疲れを少しでも癒したいと思いながらも、とりあえず目的の1つである場所にようやく来れたことに安心した。

 そう思いながら彼の後をついていくと、彼は一軒の宿らしきところに入って行った。

 私とロウもそのあとに続いた。

 



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