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旅立ち

「準備はできたか?」

「うん。元々そんなに荷物はないしね。もう出発できるよ」


 昨日は遅くまでトリアおばあちゃんたちと話して寝るのが遅くなったけど、ちゃんと早起きできた。

 朝から服や下着など必要最低限の準備をし、これから2人との朝ごはんだ。


「そうか、……それと調子は変わりはないか?」

「うん。ロウこそ大丈夫?」

「私は2度目だからな」


 私は昨日の夜、トリアおばあちゃんたちと遅くまで話した後、ロウと「契約」を行った。


 人と妖精は契約を行うことでお互い直接のつながりができるらしい。


 今まではゆびわを媒介にした「半契約」という状態だったようだ。しかし今回その指輪が無くなり、遠くへ行ってしまった場合のためにも、半契約よりも拘束力の強い契約を行うのが手っ取り早いらしかった。


「半契約」とか「契約」とかよくわかんないことだらけで、ロウに任せっぱなしだった。


 私がこの世界で知らないといけないことはたくさんあるんだろう。こうなることが分かってたらもっとおばあちゃんに魔法のこと聞いたのにな、と思うけどこうなってしまったからには自分で調べないと。


「もうどこでも魔法使ってもいいの?」 

「そうだな、契約したことでヒナの魔力に周りの妖精たちが群がってくることもないだろうしな」

「そう? まあ、よくわかんないけど魔法使えるならいいや」


 トリップしてきてからロウが魔法はあまり使うなと言われていたのをずっと守っていた。

 魔法自体は日本でも日常ではほとんど使っていなかったからというのもあって、不便はなかったんだけど、やっぱり魔法を使えるのはうれしい。特にこの右も左も見知らぬ異世界で、魔法という不思議な力は私にとって心強いものだった。


 この森の妖精たちは不思議なほどに微弱で、私が魔法を使おうとすると、私の魔力を求めて多くの妖精が来るかもしれないそうだ。かわいそうだけど、みんなに与えられるほどの魔力はないはずだし、ロウと契約するまでは無闇に使用を控えていた。


 村の人たちの中には魔法を使える人がいるけど、もともと魔力が多くないみたいで、妖精も群がってくる心配もないらしい。私は彼らと比べたら魔力が多いみたい。自分ではわからないが、ロウがそう言うのならそうなんだろう。


 ロウ曰く「私と契約できるくらいには魔力はある」そうだ。


「指輪とおばあちゃんの家族を探すのも大切だけど、その前に勉強も必要かな」


 指輪が無くなった時はこの世の終わり……いや、そこまでないけど、本当についてないって思った。この世界にきた切っ掛けでもあり、それにおばあちゃんの家族を探すための唯一の繋がりであるからだ。


 しかしいつまでもウジウジしているわけもいかない。指輪が向こうから帰ってくるわけでもないだろう。そう思いながら私は荷物を持ってロウと部屋をでた。




「荷物の確認はできたかい? 急だったから食べ物もそんなに用意できてないし。それにこの辺りは治安がそんなに悪くないとはいえ、もし山賊でも出たら……」

 トリアおばあちゃんはオロオロと私の前を左右に行き来している。心配してくれる様子に、まるで本物のおばあちゃんのようだと思うと、なんだか嬉しくなってトリアおばあちゃんには申し訳ないが笑顔になる私がいた。


「私が確認したから大丈夫だ。それに山賊が出ても私の敵ではないさ」

「そうかい? ロウがそういうなら安心さね」

 トリアおばあちゃんはほっとしたように胸をなでおろす。


 昨夜ロウと喋っていたことがバレた、と言うのもあって2人にはロウが妖精であることを伝えていた。最初は驚いていたけど、すぐに受け入れることができたみたいだ。


 どうやら2人が若いころまではロウみたいな妖精もいたらしい。ただ最近はそういう妖精たちはここのところ見ていないから驚いたようだ。


「ヒナに任せると心配でたまらないからな」

「そうだなぁ、ヒナは普段はしっかりしとるが、いろいろと抜けとるからな」

「私もヒナがこれから一人になると思うと心配でたまらないけど、ロウがいるなら大丈夫かしらねぇ」


 すんなりと打ち解けたみたいで嬉しいけど、ちょっと複雑なような?


「ヒナ、もうそろそろ行くか」


「あ、そうだね。あんまり遅いとリチェ達に気付かれそうだし」


 そう、結局私は村の人に出発を伝えないことにしたのだ。

 トリアおばあちゃんたちは伝えた方がいいと言ってくれたけど、こればかりは譲れなかった。なんとか説得したし、朝も早いから気付かれないはずだ。


「手紙は持ったか?」 

「うん、持ったよ。トリアおばあちゃんも急なお願いを聞いてくれてありがとうね」


 ロウが聞いてきた手紙とは、トリアおばあちゃんが書いた手紙のこと。


 私たちはこの国の中心である、王都にまずは行くことにした。

 この世界にも戸籍などが存在しているみたいで、まずは戸籍を作ろうと思ったのだ。手続きなどはよく分からないが、比較的簡単にできるみたい。きっとこの国や周辺の国平和な証拠だろう。


 するとトリアおばあちゃんにが王都に娘家族がいるらしくて、もちろん王都になんて知り合いのいない私に紹介してくれるそうだ。手紙はそのための紹介を書いてくれたもの。


 中身は見るなと言われている。この世界の文字は小さい頃におばあちゃんに教わったのもあって、簡単なものだったら読むことができるけど、人の手紙をみるなんてことはしない。


「これも何かの縁だよ。それに私らの娘だからね。きっとヒナを気に入ってくれるわ」


 確かに。トリアおばあちゃんたちの子供ならきっといい人にちがいない。


 私は2人に「本当にありがとう」と繰り返し言いながらドアを開けた。







「ヒナのバカ!」


「わあ!」

 ドアを開けた瞬間、勢いよく誰かが私に抱きついてきた。


 今はまだ朝と言うには早すぎる時間。太陽はまだ顔を見せず、うっすらと星たちの輝きも見える。この村では朝日が昇る前から働く人もいるが、ほとんどの人は陽が昇ってから外へでる。

 なのでこの時間に外へ出ても、高い確率で人には会わないと思っていた。……しかし今日に限ってその予想は外れたらしい。


「どうして急に出ていくことにしたのよ! それも何も言わずに!」


 ドアの前で待ち構えていたのはリチェだった。

 でもなんで私が出ていくことを知ってるの? 昨日の今日で決めたことなのに。


 私は驚いた顔で私に抱きついているリチェを目をまん丸にして見つめる。


「遅くにボーロじいちゃんが来て、ヒナが今日村を出ていくことを教えてくれたんだ」


 そう言ったのはナットだった。リチェが私に覆いかぶさっていて、リチェより小柄な私は後ろを見ることができなかったので気付かなかった。


「そーよ。でも理由は教えてくれなかったわ。だから納得いかないのよ、どうして出て行くのよ! しかも何も言わずに、急に!!」


 リチェは怒ったように私に問い詰める。

 私はボーロおじいちゃんにどうしてリチェ達に伝えたのか聞きたかったけど、なんとなくその気持ちも分かる。


「ごめん、でも決めたの。はっきりとした理由はやっぱりいえないけど」

 私はまっすぐリチェの目を見て言う。

 ……きっとボーロおじいちゃんは私が後悔しないようにリチェ達に今日のことを言ったんだと思う。


 それは私のためだけじゃなくて、リチェ達のためでもあると思ったのだろう。

 何も言わず出て行ったら、お互いによくないと思ったのかもしれない。


「自分で決めたのね。……でも、でも。ヒナなんて私たちがいないことに寂しがって毎日泣けばいいんだわ!」

 なんだか矛盾したことを言ってるみたいだけど、素直じゃないリチェなりの言い方だってわかってる。


「そう、自分で決めたの。いままでありがとね、友達になってくれたことも、嬉しかったから」

 そう言いながら再度、リチェをギュウッと強く抱きしめた。



「ヒナ」

 ナットが私のところに来て、私の前に何か小さな箱を差し出す。


「なあに?」

 それを受け取りながらナットに尋ねる。


「昨日の行商で買ったんだよ。ヒナに。……今となっちゃ選別みたいなものになっちゃったけど」


 それを聞きながら中身をあけると小さな紫の花がついたネックレスだった。


「かわいい……、これ、ナットが私のために?」

「別に! ただなんとなくだよ!」


 ふいっ、とそっぽを向かれたけど、「ありがとう」というと照れたのか耳が赤くなったみたい。


「私もヒナにこれを渡したかったの」

 はい、と渡されたのは紫の髪留め。これは、


「これって昨日の」

「私とおそろいよ。嫌って言わせないんだから」

 髪が伸びたら使ってね、といって渡してくれた。


「おねえちゃん、また帰ってくるのよね?」

 レルも今日は頑張って起きたようで、眠そうにしながら私に聞いてくる。


 そんなレルににっこりと笑い、

「もちろん。だってここが私の故郷だもん」

 そうだ。この村はこの世界で私の故郷なのだ。短い間だったけどそう思えるくらい充実した日々を送った。


「言ってくれるわね。じゃあ、帰ってくるときはみんなにお土産たくさん持って帰ってくるのよ!」

 リチェはにやっと笑い、私の肩をおす。


「それよりも王都までどうやって行くんだ? 馬もないみたいだし、徒歩なら相当かかるんじゃないのか?」

 ナットがそういえばというように聞いてくる。


 これは昨日もトリアおばあちゃんたちと悩んだところ。でも、解決策はすぐに見つかったのだ。


「それは大丈夫。ロウに連れてってもらうから」 

 リチェとナットは同時に顔を見合わせ、不思議そうに傾げた。


 そんな2人を眺めて私は少しだけ笑ってから、足元にいたロウを見た。

 私も初めてだから実は心配だけど、……きっと上手くいく。


「ロウ」


 と呼ぶとロウが私の声と同時に体から薄い紫の光を放ち、巨大化したのだ。


「本当に狼だったんだ」

 そうつぶやく私の声が聞こえたのか、


「だから何度も言ったではないか!」

 と鼻を鳴らすロウは立ちあがれば2mはありそうなほど大きい。



「そ、それって魔法? ヒナ、あんたって一体何者?」


 リチェがポカンと驚きの声をあげた。


「うーん、私自身もまだよく分からないの。でもこれだけは言える。『私はわたし』よ」


 私はそういうと背中を屈めたロウの大きな背中に乗る。



 前を見るとそこにはようやく顔を出し始めた太陽の姿。この世界での私もようやく一歩を踏み出すのだ。



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