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「やっぱりない……。本当にどうしよう……」

「こっちもないようだ……」

 

 私たちはゆびわが無くなったと気づいてからすぐに探すことにした。

 落ちているかもしれないし、親切な誰かが拾っているかもしれないからだ。村の人にも聞いたが誰も見ていないとのこと。村の人とはこれまでの、とはいっても短い期間だが、接してきて困っている人に対して嘘を言う人はいないと思っている。なので本当にゆびわを見た人はいないのだろう。

 一度二手に分かれ探すことにし、今また家の前に戻ってきたところだ。


 だが結局、ゆびわは落ちてはいなかったし、「親切な人」もいなかったようだ。


「うそ、信じられない……最悪」

 私は目に涙をためながら家の前にしゃがみこむ。

「この状況では確実に盗まれたということだな。ただの物取りならいいが、故意に盗んだとしたらやっかいだ」

 この状況でよく冷静に考えることができるよね。ロウにとっても大変なことなのにさ。


「故意にって?」

「あのゆびわがただの『ゆびわ』と思って盗まれたのなら、そんなに心配はない。だが、『魔石ませき』だと気づいて盗んだのなら、話は別だ」

 

 どうやらあの「おばあちゃんのゆびわ」の石の部分が魔石という物みたいだ。魔石はただの宝石ではなく、簡単に言えばロウにとっても憑代のようなものらしい。


「とにかく早く探さないといけないってことよね。そういえば、ロウはあの指輪の中に入ったり出たりできたよね。一度指輪に戻れば今どこにあるかわかるんじゃないの?」

 と思いついたように提案してみる。


「いや、今の持ち主であるヒナが持っていないから、安定した力を使うことができない。魔石はそれだけではただの石なのだ。もう近くになければ指輪自体から出ることも叶わない場合もある」

 

「そ、そうなの? というかそもそも。あの指輪についてほとんど何も知らない。おばあちゃんが亡くなる前にもらったって、本当にそれだけだし……」

 ゆびわをもらった時、まだおばあちゃんは生きていたけど、もう余命数日と言われたのだ。ゆびわをもらった時も形見としてしか感じなかったから。以前ロウにあのゆびわは「魔法のゆびわ」だと聞いたけど、この世界ではどんな風に扱われているのか全然知らない。


「それだったら、もっと前にロウがいろいろ教えてくれたってよかったじゃない!」

 知ってたらもっと気をつけたし、無くさなかったかもしれない。八つ当たりと分かっていても、今の私は誰かに当たらないと気が済まなかった。


「ここに来たときだってそうだよ。いつも『教えられない』って、そればっか!」 

 ロウは黙ったまま、悪くないのに私の言うことを聞いてくれている。


「ここにだって来たくて来たわけじゃないのに! みんなに会えないのに」

 こんなこと言っている場合じゃないのに次から次へと言葉があふれてくる。

 私は、はぁはぁと肩で息をしながらロウにわめきちらした。


「あぁ、すまないと思っている」

 ロウはそんな私の叫びを目をそむけずに聞いてくれる。

「だがヒナの祖母について言うが、菊は日本で不幸だったか?」

 私はロウのその言葉を聞いて顔を上げた。


「今のヒナと同じ状況だ。いいや、菊の場合は前例がなかったわけだからもっと不安だったはずだ。私も実の親や兄弟、友人と会えなくて泣いていたのは何度も見た。だがお前の祖父と結婚し、娘であるヒナの母親が生まれ新しい家族ができた時、菊はとても幸せそうだったぞ。私はゆびわの中から出られなかったが、常に菊とともにいたのでその気持ちは痛いほど分かっている。」

 おばあちゃんは日本にトリップして帰ることができず、亡くなってしまった。

 でも、日本で家族ができて、ご近所さんともそれなりに仲良くなって、それに妖精たちといつも一緒で楽しそうだった。


「おばあちゃんも帰れないことに気付いていたけど、日本で幸せを見つけたのね」

 

 そうだ、日本に居る頃、思っていたじゃないか。おばあちゃんの家族におばあちゃんは「幸せでした」って伝えたいって。

 過去の自分を思い出し、そして私の叫びをきちんと聞いてくれたロウに対して、すまない気持ちになった。またそれと同時にさっきまでの自分が恥ずかしくなった。


 私はロウの方へとまっすぐ向き直り、

「ロウ、ごめん。ゆびわが無くなったのはロウのせいじゃないのに八つ当たりして……。でも、今のロウの言葉で私決めた」

 まっすぐ立ち上がり、今思いついたことを伝える。


「私、ゆびわを探しながら、おばあちゃんの家族探す」

 うんっと腕に握りこぶしをつくり、決意する。あ、でもその前に、


「そういえば、ロウは大丈夫なの? ゆびわ、魔石とつながっているんでしょ? どうにかなったりしない? それにゆびわの持ち主が私なら、私もどうにかなっちゃたりする?」

 もしかしたら、私やロウの体や力に影響があるかも知れないといけないので聞いてみた。


「いや、それに関しては大丈夫だ。魔石の持ち主だからと言って、その魔石が他の人物に渡ったとしても特にヒナには影響はない。それとゆびわを盗んだやつが何かするなら、いくらかは私にも影響が出る。しかし今まで私はヒナと半契約状態だったからどうにかすることもできる。今回はそれが功をそうしたな」


「……んと? よく分からないけど、大丈夫ならいいや」

 それよりも、私って本当にこの世界について無知だと、改めて分かった。ロウがいなかったらなんてことは想像したくない。


「というか、本当に菊の家族を探すのか? 私は確かに菊と一緒にいたが、それはこの世界から日本にトリップする少し前からだからほとんど何も知らんぞ」

 どうやらロウは私の言葉を信じてないみたいだ。前々からたまに考えていたけど、いつまでもトリアおばあちゃんたちにお世話になるわけもいかないし。今回の出来事は良くも悪くも、新たな旅立ちのきっかけになったのだ。


「うん、とは言ってもまだ全然計画はないんだけどね」

 たった今思い立ったからこれからどうすべきかたくさんのことを考える必要がある。


「とりあえずは、おじいちゃん、おばあちゃんに言わなきゃね」

 ロウも私の決意を信じてくれたみたいで「そうだな」といい、2人の待つ家に帰った。




 + + + +

 


 家に入るとすでに夕ご飯の支度が出来ていた。

「あぁ! 手伝わなくてごめんなさい!」

 そういえば、ゆびわを探したり、ロウと話したりしていたので帰るのが結構遅くなっていたのに気づいた。


「片づけは私がするね」

 そういうと、テーブルにつき夕食を待っていただろう2人に謝りながら食べ始める。ロウもいつもの暖炉の前に座り、ミルクをのむ。

 さっきの話はできるだけ早く2人に話しておきたいけど、なんて話したらいいか分からない。私はこれからのことをどう伝えるかを考えながら食事を進める。

 ゆびわが無くなったりしなかったら今頃今日の出来事をいっぱい話ながら食べてたんだろうな、とふと思った。そういえば2人にお土産買ったんだった。


 私は椅子に座る時に床に置いたお土産を渡そうと思って、一度椅子から立とうとした時、

「ヒナ、私たちに何か言うことあるんじゃないのかい?」

 そう言ったのはボーロおじいちゃん。普段はあまり口数が多くない方だから、急に声をかけられて少し驚いた。


「ええっと、今日の行商のことだよね、始めてみたけどすご 「それじゃないよ。さっきドアの前で話していたことだよ」

 

「ぁ……、聞こえてたの?」

 今日の行商のことだと思ったけど、さっきロウと話していたことみたいだ。

 

「ドアの前で話されちゃあ、聞こえないふりもできないからねえ」

 そういうのはトリアおばあちゃん。「ロウは妖精だったのね」なんて言っているし、すべて聞こえていたみたい。

 今思えば確かにそうだ。あんなに大声で叫んだりもしたわけだし、聞こえないはずないよね……


「それで、いつ出発するんだい?」

「え?」

「早く教えてくれないと、準備も遅くなるでしょう?」

 2人は何も聞かずに私を送り出してくれるようだ。私だったら理由や素性などいろいろと詮索してしまうのに。2人の優しさはいつも私を包んでくれる。


「話を聞いていたなら、分かるかもしれないけど、形見のゆびわを失くしてしまって探したいと思っているの。村の中やみんなには聞いたんだけど見つからなくて。……だから、できれば明日のうちにでも行こうと思う」

 行商人たちはもう今夜のうちに出発しているだろう。それにすべての行商人が同じところに行くわけでもないのだ。情報を早く入手するなら出発は早めがいい。


「そうかい、なら準備も今日のうちに済ませないとね。リチェ達には伝えるのかい?」

 そうだ。あの家族、特に3姉弟には一番お世話になった。本当は伝えるべきなんだろうけど、


「ううん、伝えない。またここに帰ってくるつもりだから、別れの挨拶はしないよ」

 それにきっと泣いてしまうから。行くなって言われると決心が鈍ってしまいそうだから。伝えることなんてできない。


「そうかい。それじゃあ、村を出たらどこに行くかは決めたのかい?」

  

 私たちは明日のことについてどうするのかを3人で話した。

 いつもはご飯を食べ片づけをしたらすぐに部屋に行っていたけど、今日は遅くまで一緒に計画を立てながら、そして最後の夜を名残惜しむように話し続けた。


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