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 朝、太陽が顔をのぞかせ始める頃、私は鳥たちの鳴き声を目覚まし代わりに目を覚ます。


まだ温かい少し硬めのベッドを名残惜しむように起き上がる。それからガラスの代わりにはめてある木でできた窓を開け、夜の雰囲気を残す冷たい空気を吸い込み頭をすっきりさせていく。


 軽くベッドを整えながらロウを起こし、寝巻にしている質素なワンピースのまま、部屋を出た。


「おはよう、ヒナ」

 ボーロおじいちゃんがテーブルの正面にある暖炉に火をくべている。春の陽気になってきたとはいえ、まだ朝方は冷え込むのだ。


「おはよう。おじいちゃん、おばあちゃん」


 私は2人に朝のあいさつをしながら、トリアおばあちゃんを手伝うために暖炉横にあるキッチンに近づく。ロウは暖炉脇でおじいちゃんになでられながら、気持ちよさそうにしている。


「あら、おはよう。もう出来上がるからヒナには水を汲んできてもらおうかしらね」

 おばあちゃん手伝うよ、というと、私は水汲みを頼まれたので桶を持って出ていく。初めのころはただの水汲みでさえも失敗したりしたが、今では慣れたものだ。


 外へ出てから、寝巻のワンピースのまま来てしまったことに気付いた。明け方だけど、せめて上着だけでも羽織ればよかったかなと思いながら井戸へ向かう。




「リチェ、ナット、おはよー」

 先に井戸で水汲みをしている兄弟に声をかける。

2人は私の声に気付いたのか、同時に振り向き声をかけてくる。


「ヒナ、おはよ。ヒナも井戸使いに来たの?」

 持ち上げようとしていた桶を置き、リチェが私のとこまできた。


「うん。ふたりはもう終わる?」

 そう聞くと、丁度ナットが「ねえちゃん、終わったー」とリチェに呼びかけるちころだった。


「終わったみたいだね。じゃあ次使うね」

 今ではこの水汲みが毎朝の私の仕事だ。はじめの頃よりは力がついたとはいえ、やっぱり重い。

 うーんっ! とうなりながら水を汲む。魔法で一気に汲んでしまおうかな。


「やっぱヒナは力ないなー、かせよ」

 横からナットの腕が伸びてきて、私が持っていた縄を奪い取る。どうやら井戸水をくんでくれるようだ。


「ナットが手伝ってくれるなんて珍しー」 

「はぁ? ちびヒナが腕ぷるぷるさせてるから、かわいそうだと思ったんだよ」

 俺って優しー、という最後の一言がなければ素直に感謝するものを。


 どうやら、こちらの人は日本人より体格がいいみたいで、まだ12歳のナットでさえ15歳の私より背が高い。これでまだ成長期だからもっとでかくなるらしい。

 リチェは私と同い年で背丈は10センチ以上は高い。(私は中学女子としては平均的だ)村の人全体が体格が良く、もしかするとこれがこの世界一般的なのだろうかと悩むほどである。

 

 でもそう思うのは仕方ないはずと思いたい。だって最初リチェは年上でナットが私と同い年くらいだと思ってたのだ。

2人は子供が少ないこの村で一番年が近いということでだいたいいつも居るんだけど、


「ナットだってひょろひょろじゃん!」

「ちびヒナには言われたくねーよ!」


 なんかナットと私って会うといつもこんなんだよね。最初のころはナットが人見知りしてたけど、今では生意気な口をきいてくる。


「ほらほら、2人ともやめなさいよ。いつまでも帰らないからレルがお腹すかせて家から来ちゃったじゃない」


 そう言ってリチェの腰あたりにいるのがこの3人兄弟の末妹であるレルだ。

 レルはお兄ちゃんまだなのー? とかわいらしく聞いてくる。


「レルも待ってるから早く帰りなさいよっ」

 リチェとレルが間に入ったことで私とナットのいつもの口論が終わり、何だかんだな仲良し3兄弟を見送った。


 さ、私も早く戻ろ。

 水の入った桶を両手でよいしょっと持ち、私も家路を急ぐのであった。



 + + + +



 モォ~~、モオ~、ブルブルブル~、ヒヒ~ンッ……


 放牧地である草原にはたくさんの牛と馬が自由に草をんでいる。

 ここは村共同の放牧地でみんなの家の家畜がそれぞれいるため、見分けがつくように色分けをした首輪をつけている。

 

 動物たちとはこの異世界、オイリスでも意思を通わせることができた。

 意思を通わせることができるので、牛たちの移動が簡単にできるし、病気やけがの時も比較的早く気づくことがでると思う。


「さーみんな、満足するまでたーんとお食べ〜」

こういうのんびりとした生活も悪くない。



 私は午前中の仕事としている牛舎掃除も終わり、道具を納屋に直しに行きながら、これまでの生活の中で気づいたことを考えなががらまとめていた。


 まず、魔法を使えない人がいること。

全員を調べたわけではないが、今の段階で使える人は村長さんとリチェたちのお父さんのレイグさん、その他3人だ。

それに使える人も魔力が少ないのか、小さな、弱いものしか使えないみたい。それでも魔法を使えるということで、みんなに尊敬されている。

 

 そこで違和感を感じたのは、私がおばあちゃんの話から想像していた世界と実際のこの世界はかなり異なっていたということだ。


 いや、おばあちゃんがいた昔はみんなが魔法を使え、妖精たちも世界中にあふれ人々とともにすごしていたりしたのだろう。おばあちゃんが日本にトリップして約半世紀、その半世紀の間になにが起こったのかは分からない。


 そして唯一、確信を持って言えるのは、私はいまだ日本に帰れないということ。


 トリップして、今は多分1カ月くらい。

 日本に帰る希望は、悲しいけどほとんどあきらめ始めている。

 

 とりあえず今は、帰ることばかりじゃなくて前を、この世界での未来を考えていこうと思う。


 




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