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日常

『おばーちゃん、今日は何のお話してくれるのー?』


『ぼくは騎士さまの話がいい!』

『ひなはおひめさまのー!』


『はいはい、そんなにたくさんお話したら眠れなくなるから。お話は1つだけね』


『えー、かいぶつをやっつける騎士さまのお話はー?』


『それは明日、おやつを食べるときね。今日は魔法のゆびわのお話をしようかしら』


『まほうのゆびわ?』




 ───きれいなきれいなまほうのゆびわ。願いを叶えるまほうのゆびわ。

 ゆびわのなかには小さな妖精。さまざまな力を持った妖精たち。

 彼らは人に力をあたえ、人は彼らに魔力をあたえた。

 彼らと人は自然を愛し、自然は大地をうるおした……




 + + + +



「……なっ、……ひ……」

 うるさいなー。今、おばあちゃんのお話聞いてるんだよ。

「……ひな……、おき……ひな!」

 今日は魔法のゆびわの話なの。いちばんおもしろい話なんだから。

 ん? 今日? 今日っていつだっけ。今日……

 ウトウトまどろむ私は、覚醒しつつある頭でぼんやりと考えた。それでも眠気には抗えなくて、体が欲求するままに再び寝入ろうとしたら、耳元でうるさい声が邪魔して気持ちよく眠れない。

「いつまで寝てるの。いい加減起きなってば!」

 腕枕で顔をうつ伏せにしていた私の耳元で注意する声。そのおかげでほぼ頭は覚醒しつつあったが、反抗して起きないふりをしていると頭に強烈な一発を食らうことになった。


「いったーー!」


 せっかく良い夢を見ていたのに! 今までおばあちゃんに寝る前の読み聞かせを兄としてもらっていたはずなのに、何でいきなり叩かれるの?

 大声を出してしまって、流石に寝たふりを続けるわけにもいかない。

「やーっと目ぇ覚めた、雛ちゃん!?」

 不貞腐れた顔を目の前の友人に向ける。起こしてくれるにはいいけど、起こし方に問題ありだ。

「なによ。なんか文句あるわけ? 6限、とっくに終わってるのに起きないから起こしてあげたんじゃない」

 呆れたようにお小言を言われるが慣れっこだ。

 そんな彼女を無視して私は「うぅーーーーんっ!」と両手をあげ背伸びをして、

「それにしたって、教科書丸めて叩かなくてもよくない? 結構くるよ、たんこぶできるよ。教科書をそんな風に使うなんて、ばちあたりもんだよ」

 ふわぁぁっ、とあくびをしながら彼女に文句を言う。

 若いうちからそんなに眉間にしわ寄せたらいけないよっていったら今度は、

「授業中ずっーーと寝てた雛に言われたくありません!」

 と言って、彼女は私のほっぺたを思いっきりつねられた。

「いった! 分かった、ごめん」

 私は彼女にほっぺたをつねられながらあやまる。これが本気でするんだからたまったもんじゃない。


「分かればいいのよ」

 ようやく手をはなしてくれた友人は席へ戻っていく。彼女は中学に入学してから3年間同じクラスで、今ではいわゆる親友、というやつだ。

 なんにせよ、もう少し優しく起こしてくれるとありがたいんだけどな。


 そんな感じでぼーーっとしてると、

「もうHRも終わったわよ。まだ寝ぼけてるの」

 そう言うと、手のひらで私の頭のてっぺんをぺちと軽くたたく。

 周りのクラスメイトはすでに帰っていたり、帰る準備をしたり、友人と話し込んだりしている。

 季節は真冬を過ぎ、あたたかな春の訪れを待つばかりである。着慣れた制服は少しくたびれており、袖を通すのもあと僅かばかり。中学ももうすぐお別れなのだから当たり前だ。


「まだ帰る準備もできてないの? 4月から高校生なんだから、もうちょっとしっかりしたら?」

 そういいながら彼女はせっせと私のバッグに荷物を詰めていく。何だかんだ言って世話を焼いてくれる彼女とは進学先に決まった高校も同じだ。


 日々のお小言は打ち解けた証。まあ少々うるさいのは聞き流しているんだけど。

 手慣れた様子で素早く帰り支度をしてくれた彼女からバッグを受け取る。

「明日は学校休むんでしょ? 今日は早く帰って明日の準備をしたら? ひなは準備遅いんだから」

「ちゃっかりさ、一言多くない?」




 明日は命日だ。

 さっきまで私が見ていた夢にでてきていた、私と兄のおばあちゃんの命日。


 大好きだったおばあちゃん。おばあちゃんが元気なころは兄と2人で、おばあちゃんの話す物語をよく聞いた。

 明日が命日だからなのか、おばあちゃんの夢を見たのは。

「魔法のゆびわ」のお話はとても面白くて私も兄も好きだったな。

 そう思いながら私は首に下げているおばあちゃんのゆびわを制服の上から握りしめる。

 このゆびわはおばあちゃんの形見として私が貰ったもの。お守りのようにいつも首に下げ、今日ももちろん持っている。

 懐かしい夢を見たからか、私は制服の上からゆびわを握りしめたまま教室を後にした。


 そしてそのとき、服の中でゆびわが鈍く光っていたのに気付くはずもなく。


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