夜向 明助観察記録
友人からのお題です。
今回は、
忍者
ハサミ
時間
です。
そろそろ本編書こうかなぁ……。
『１０月２日、天気 曇り 夜向明助は今日も朝一番に登校。美化委員でお家がお花屋さんの為か、教室の花瓶に花を生けている。私が知る限りこの男の唯一の委員活動だ』。
『１０月３日、天気 雨 夜向明助は三浦、土田、三枝の三名とともに三時間目終了後に授業をエスケープ。話から察するにゲームセンターに行ったのかもしれない』。
『１０月４日 天気 晴れ 夜向明助に告白している女子を見かけた。相手は一年の荒垣何とかさんだ。結構可愛い事で評判なのに勿体無い。ＢＬ疑惑あり』。
『１０月５日 天気 晴れ 夜向明助は……』。
私は新島 早紀。高校２年生。 同じクラスの夜向 明助という少年に並々ならぬ興味を持っている。
何故なら彼の周りでは不思議な話題に事欠かない。夏休み、矢面駅のロータリーではトラックに轢かれそうな女の子を漫画みたいに身を挺して助けていたし、先日の東晶大飯店爆破事件にもどうやら彼がその場に居合わせたらしい。私も実際に四階の建物から落ちて掠り傷一つ負っていないという不可解な現場に居合わせた事もある。それに同じ美化委員の小西 雪菜も『本当の夜向君』とか何だか意味深な発言していたし、噂では黒スーツを着た、片腕のクールビューティーを連れて夜な夜な歩き回っているらしい。
夜向 明助。身長１７８センチに体重は(男子の話では)６５キロ前後で、やや痩せ型。髪は染めていないが、少し天然パーマ気味。成績は中の上。スポーツはあまり真面目に取り組んでいる姿を見た事が無いため未知数ではあるが、野球部の北島君がよくスカウトしているところを見ると、運動神経は良いと思われる。普段自分から話す事はしないようだが、問われれば答えるようで別段話す事が嫌いというワケではなさそうだ。
以上の複数の怪奇的な状況から私は一つの結論に辿り着いた。そう、彼は現代までに続いた『忍者』の家系の末裔なのだ。だから身体が丈夫で身体能力も常人とは比べ物にならないくらい高く、それを見せびらかさず隠しているのだろう。うん、そうに違いない。冴えているぞ、早紀。
おや、時刻は二十時を回っている。そろそろお風呂に入らなくては。
× × ×
時刻は二十一時三十分。やはりお風呂に推理小説を持ち込むべきではない。続きが気になってのぼせてしまった。反省。
読み耽っていたのは『ハサミ男』という殊能 将之の作品だ。自殺未遂を繰り返す連続殺人犯が模倣犯による殺人現場を発見してしまう。
ハサミ男本人が、「この殺人ははさみ男の仕業だ」と思ってしまうような、完璧なる模倣。殺されたのは、自分が殺そうと狙っていた少女。
一体これはどういう事なんだ？と、先が気になって気になって、ずいぶん長湯をしてしまった。
なんというか、個性の強いキャラクター達が繰り広げるこのサイコスリラーは、私の中でベスト３に間違いなくランクインするだろう。
ああ、ハサミと言えばそういえばこの前夜向明助からハサミを借りていたのをすっかり忘れていた。美術の授業で一緒の班になった時に快く貸してくれた。この気前の良さが同性はもちろん異性も惹き付ける要因なのだろうか。飲まれるな、早紀。これは夜向明助の罠だ。にしても、このハサミ、柄がピンクで男子が持つにしてはいささか女の子っぽい気がする。
さて、明日の授業の用意が完了して時刻は二十二時。そろそろ眠ろうか。おっと、高瀬ミナから電話だ。最近の日本人にしては珍しく名前がカタカナである。私の親友だ。
× × ×
気が付けば二十三時を過ぎてしまった。いいかげん眠い。先ほどのハサミの件だが、どうやら高瀬ミナの私物である事が判明した。道理で女の子っぽいワケだ。あの男は人から借りた物を持ち主の断り無く転貸するらしい。私も気をつけねば。だが、高瀬ミナも口調こそ怒っていたが、内心は取り分け気にしていないようだった。まさかと思うが、彼女もあの男の事が好きなのか。だとすれば相当なジゴロの才能があると見える。やはりどこかの組織の諜報員として雇われた忍者なのだろう。
× × ×
観察日記を更新したせいで、ついに二十四時を過ぎてしまった。テスト前以外でこんなに起きているのは久しぶりだ。明日も早い。もう寝よう。
明日はどんな面白事件が起こるのか楽しみだ。お休み、早紀。また明日。
☆おしまい☆
