第十一話
王立宝物庫から持ち帰った『虚空の涙』を、俺は無造作に工房の作業台へ置いた。オーレルは一目見た瞬間、ノミを握る手が止まり、彫金師の鋭い眼光がその漆黒の結晶を射抜いた。
「……おい、お嬢ちゃん。正気かよ。そいつは素材じゃねぇ、『呪い』の塊だ。これをドレスに組み込めば、縫い糸どころか、俺の工房ごと塵になるぞ」
「あら。できない、とおっしゃるの? オーレル。わたくしの期待を、その程度の火花で終わらせるつもりかしら?」
俺はお嬢様フィルターを最大出力にし、鼻で笑って見せた。だが、実際は工房の魔導炉が『虚空の涙』の放つ魔圧に耐えきれず、ミシミシと悲鳴を上げている。
(やべぇ、これマジで物理的に爆発する! )
「ノックス。すぐに商業ギルドへ。王立魔導院が秘蔵している高純度マナの緩衝を、ありったけ買い占めてきなさい。金に糸目はつけませんわ!」
「御意」
数時間後、運び込まれたのは一抱えほどもある透明な液体金属。価格は二万G。
「……二万Gの緩衝材か。ふん、相変わらず金に物を言わせるやり方だな、お嬢ちゃん。……だが、これなら魔力を抑え込みながら芯に固定できる。やってやるよ。俺の腕を信じるなら、そこで黙って見てな」
オーレルは不愛想に言い捨てると、防護ゴーグルを跳ね上げ、狂気じみた集中力で炉に火を入れた。
数時間後。炉から取り出されたのは、魔導銀の細工に『虚空の涙』が埋め込まれた、禍々しくも美しい胸飾りのパーツだった。
「……できたぞ、お嬢ちゃん。俺の仕事はここまでだ。あとはこれをどう『服』にするか……。仕立て屋に命を懸けさせな」
「ええ。ご苦労様、オーレル。……ノックス、これをミラのもとへ。わたくしの『真実』を完成させに参りますわ」
※ ※ ※ ※
工房を後にし、完成したパーツを携えてミラの店へと向かう夜。馬車の行く手を阻むように、鋭い風切り音が響いた。
「――ッ! ライラ様、お下がりを!」
ノックスが銀糸を放ち、闇から飛び込んできた黒い影を弾く。だが、影は一つではない。闇市で見かけた不気味な男の放った、本気の刺客たちだ。
「その『石』を渡せ。さもなくば、その首ごと持っていく」
「断りますわ。わたくしの美を理解できぬ無粋な手に、この芸術を触れさせるなど万死に値します」
ノックスが応戦するが、相手は対魔導師用の連携に長けたプロだ。数に押され、一人の刺客が馬車へと肉薄する。
俺は馬車の座席の下から、ゲームの中で購入した片手剣、『漆黒の竜剣』を引き抜いた。
三百Gのドレスの裾を片手で力強く掴み上げ、剥き出しの脚を月光に晒しながら、俺は馬車から飛び出した。
「下がっていなさい、ノックス。……わたくしのドレスを汚すネズミは、わたくし自身が駆除いたしますわ」
「な……!?」
刺客の突きが放たれる。俺はそれを最小限の動きで回避し、相手の懐へと滑り込んだ。
(……今だ!)
一閃。細剣が銀光を放ち、刺客の急所を的確に突く。一人、また一人。三百Gの紺碧の布地を一切汚すことなく、俺は舞うように刺客を叩き伏せていく。
「……ノックス。馬車を走らせなさい。ミラの店へ滑り込みますわよ!」
深夜、ミラの仕立て屋。扉を叩きつけるようにして飛び込んだ俺たちを、ミラは目の下に隈を作りながらも、パッと花が咲いたような明るい笑顔で出迎えた。
「お待ちしてましたよ、ライラさん! ふふ、その手に持ってるのが例の『とんでもない代物』ですね?」
ミラは俺の手から、オーレルが命を懸けて加工した漆黒のパーツを恭しく、けれどどこか弾むような手つきで受け取った。ランプの光にかざすと、彼女の瞳がキラキラと輝き出す。
「まあ……なんて不吉で、なんて綺麗なの! これをあの月光の糸に縫い合わせろだなんて、ライラさんって本当に……最高に刺激的なお客様ですよ!」
ミラは楽しそうに笑いながら、すでに九割方完成していたドレスの芯地へ、その漆黒のパーツを慎重かつ大胆に宛てがった。
『月光の糸』で織り上げられた白銀の生地が、虚空の魔力に反応してバチバチと火花を散らす。
「……ミラ。夜明けまで、あと数時間ですわ。間に合いますの?」
「もちろんです、ライラさん! 職人の意地にかけても、貴女を世界で一番の『美の怪物』に仕立て上げてみせますから。……さあ、そこでお茶でも飲んで待っててください。最高にエキサイティングな夜になりそうですよ!」
ミラは歌うような足取りでミシンと手縫いを使い分け、猛烈な勢いで作業に没頭し始めた。指先に火花が散っても「あいたっ! でも綺麗!」と朗らかに笑い飛ばし、血の滲む指を布に触れさせない神業を披露する。その明るい執念は、夜の静寂を塗り替えるほどに眩しかった。
「……完成です! ライラ・ゼーレ・クロエラ様。これこそが、貴女の魂を飾るための、世界で唯一のドレスですよ!」
朝日が窓から差し込み、白銀の生地を照らした瞬間。そこには、もはや服という概念を超越した何かが鎮座していた。
『月光と魔導銀の深淵』
(……ついに。ついに完成した。ミラ、最高だよ。このドレスなら、この国の歴史ごとひっくり返せる!)
※ ※ ※ ※
ローゼン王宮、大夜会会場。きらびやかなシャンデリアの下、着飾った貴族たちが談笑に興じている。
「……聞いたか? あのクロエラ男爵が、今夜来ているらしい」
「九万Gの素材を使い、王家の宝物庫から秘宝を買い叩いたという、あの怪物の令嬢か……」
アルベルト・ルイス・ローゼンは、玉座の傍らで退屈そうにグラスを揺らしていた。
(……来ないのか、ライラ。それとも、あの石に呑まれたか)
その時だった――
王宮大広間の、重厚な扉が開かれた瞬間、オーケストラの弦の音が、まるで断ち切られたように途絶えた。
静寂。それは、広間にいた数百人の貴族たちが、一斉に息を呑んだ音だった。
「……なんだ、あの光は」
「……いや、光ではない。あれは、夜そのものだ……」
入り口に立つ俺を、月光が逆光となって照らし出す。九万Gの『月光の糸』で織り上げられた白銀のドレスは、俺が動くたびに、まるで生きているかのように微細に波打ち、周囲のシャンデリアの輝きをすべて反射して、会場全体を白銀の世界へと塗り替えていく。
「……馬鹿な。あんな輝き、この世の布地で出せるはずがない!」
「あの胸元……。あれは、王立宝物庫の……禁忌の石ではないか!?」
貴族たちのざわめきが、波のように広がっていく。
ある者はそのあまりの眩しさに目を覆い、ある者はその神々しいまでの美しさに、無意識のうちに膝をついた。
俺は、静まり返った広間を、悠然と歩き出した。一歩。カツリとヒールが床を叩く音が、静まり返った会場に銃声のように響く。
その一歩ごとに、ドレスから零れ落ちる魔導銀の粒子が、床に白銀の轍を描いていく。
「……美しすぎる。あれは、もはや人間ではない。……美の、化身だ」
震える声で呟いた公爵夫人の手から、クリスタルグラスが滑り落ち、床で砕け散った。だが、その音にすら誰も反応しない。全神経が、俺という一点に、磁石のように引き寄せられていた。
玉座の傍らで、アルベルト・ルイス・ローゼンは、手にしていたグラスを握りしめたまま硬直していた。
彼の瞳に映っているのは、かつて三百Gのドレスで自分を挑発した「変わり者の令嬢」ではない。数万の金貨と、国家級の秘宝、そして二人の狂った職人の執念を、その細い身体で完璧に従え、支配し、傲然と微笑む略奪者の姿だ。
俺は、立ち尽くすアルベルトの目の前まで歩み寄ると、これ以上なく優雅に、そして不敵に微笑んで、扇をパッと広げた。
「お待たせいたしました、殿下。……わたくしの装い、お気に召していただけまして?」
アルベルトは、数秒の間、言葉を失って俺を見つめていた。やがて、彼は震える喉を鳴らし、まるで何かに取り憑かれたような足取りで、一歩前へ踏み出した。
「ライラ・ゼーレ・クロエラ。お前は……今、この瞬間に、私の王宮を、いや、この国すべてを買い取ったというわけか」
彼は、自らの王子の矜持すら忘れたかのように、吸い寄せられるように俺の手を取った。その指先が、わずかに震えているのが伝わってくる。
「全財産を溶かした配当、……たっぷりと受け取らせてもらおう」
アルベルトの震える指先が、俺の、いやライラの白手袋を嵌めた手に触れる。彼の瞳には、かつての余裕や皮肉は微塵もない。あるのは、圧倒的な美への畏怖と、それを独占したいという狂おしいほどの欲求だけだ。
「……光栄ですわ、殿下。わたくしの投資の成果、存分にご覧あそばせ」
俺はお嬢様フィルター全開で、冷ややかに、しかしこれ以上なく優雅に微笑んだ。
(三百Gのドレスで挑発し、十万G超のドレスで屈服させる。完璧だ!)
アルベルトのエスコートで、俺たちは広間の中央へと進み出た。オーケストラが、震える手で指揮棒を振り、重厚で美しいワルツを奏で始める。俺はダンスの経験など微塵もないけど、流石はお嬢様補正。勝手に身体が動く。
俺たちが踊り出した瞬間、会場中の貴族たちは左右に分かれ、畏敬の念を持ってその舞を見つめた。
カツリ、カツリと、ヒールが床を叩く音が、リズムを刻む。九万Gの『月光の糸』で織り上げられたドレスは、俺が旋回するたびに白銀の光の渦となり、魔導銀の粒子が天の川のように舞い上がる。
そして胸元の『虚空の涙』は、周囲のシャンデリアの光を吸い込み、漆黒の深淵となって脈動していた。
「信じられませんわ。あれは、本当に人間なの? ……美の女神が、降臨したのではなくて」
公爵家の令嬢が、放心したように呟き、声を漏らす。だが、その声にすら誰も反応しない。全神経が、俺という一点に、磁石のように引き寄せられていた。
アルベルトは、俺の腰を抱き寄せ、そのあまりの眩しさに目を細めながらも、必死にステップを刻んでいる。
「ライラ。お前は一体、何者だ。国家級の秘宝を、これほどまでに完璧に『飾り』として従えるなど……」
彼の声は、微かに震えていた。
「ふふ。殿下。わたくしはただ、美を支配し、美に支配される者ですわ」
(……いいね、いいね。この王子が、俺のドレスに魅了され、畏怖している。この瞬間のために、俺は財産を溶かしたんだ!)
ワルツがクライマックスを迎え、俺たちが大きく旋回した、その時だった。広間の天井、巨大なシャンデリアが、不気味な音を立ててきしみ始めた。
「――ッ!?」
ワルツの旋律が不協和音に染まり、天井の巨大なクリスタル・シャンデリアが爆鳴と共に粉砕された。降り注ぐ光の破片の中、重力を無視するようにゆっくりと、一人の男が舞い降りた。
その圧倒的な圧迫感に、手練れの魔導騎士たちが一歩も動けず硬直する。
「ようやく、見つけたよ。私の、完成された欠片」
男の姿は、漆黒のロングコートに、身の毛もよだつような精緻な銀刺繍。そして何より、その瞳——『虚空の涙』と同じ、すべてを飲み込む深淵の色をしていた。
「貴様……何者だ!」
アルベルトが剣を抜き、俺の前に立とうとする。だが、男は一瞥もくれない。
「王子の紛い物が、彼女の隣に立つな。不愉快だ」
男が指先を鳴らした瞬間、アルベルトの足元から影が噴き出し、彼を後方の柱へと弾き飛ばした。会場はパニックを通り越し、死のような静寂に包まれる。
「あら。わたくしのダンスを邪魔した挙句、その見苦しい独占欲。……救いようのない無礼者ですわね」
俺はお嬢様フィルターを全開にしながら、背中に隠し持っていた愛剣『漆黒の竜剣』の柄に手をかけた。
「ライラ……。そのドレス、その輝き、そしてその傲慢な魂。すべて私のものだ。いや、最初から私の一部だったのだよ。おいで、私の『アビス・ルナ』」
男が優雅に手を差し出す。その仕草一つで、俺の胸元の『虚空の涙』が共鳴し、ドレス全体が狂ったように脈動を始めた。魔導銀の刺繍が赤黒く染まり、俺の意識を闇へ引きずり込もうとする。
(……ふざけんな。十万G以上かけて、職人たちが血反吐吐いて作ったこの最高傑作を……てめぇの『一部』だなんて言わせるかよ!)
俺は無理やり唇を吊り上げ、高笑いと共に『漆黒の竜剣』を抜き放つ。
「あまり笑わせないで下さる?わたくしが、わたくし以外の何かに支配されるなど……あり得ませんわ。このドレスは、わたくしという神殿を飾るための供物。……それを奪おうというのなら、その汚れた手、根元から切り落として差し上げます!」
「……いい。その不遜な眼差しこそ、私の牢獄に相応しい」
男の影が鎌のように巨大化し、俺へと襲いかかる。
俺は十万Gのドレスの裾を豪快に蹴り上げ、剥き出しの脚で床を強く踏みしめた。
「ノックス、殿下を保護しなさい! ……この不届き者は、わたくしが直々に教育いたしますわ!」
銀の粒子と漆黒の魔力が激突し、夜会会場の床が爆ぜる。
男の影が鎌のように振り下ろされる。俺はそれを紙一重で躱すと、『漆黒の竜剣』を突き出した。切っ先が男の顎の下、喉元を正確に捉える。
一瞬の静寂。
(……当たった!)
俺自身が一番驚いていた。ゲームのスペックが身体を動かしているとはいえ、あれほど濃密な魔力を纏った男の攻撃を、まともに捌き切れるとは思っていなかった。
男も同様に、驚愕していた。その深淵の色をした瞳が、生まれて初めて「予想外」という事象を映し出している。
「……ほう」
男は喉元の剣先を凝視し、低く呟いた。まるで、極上の獲物を見つけた蒐集家のような眼差しだ。
「魔導銀の粒子を纏った、淀みのない剣筋。……しかも、この乱戦の中でドレスに一切の傷もない。なるほど、なるほど。理解したよ」
男がゆっくりと一歩、後退する。
「面白い。君は想像以上だ、ライラ・ゼーレ・クロエラ。戦場ですら、その美の神殿を守り通すつもりか」
「わたくしのドレスに傷をつけようと考えた時点で、あなたの敗北は確定していましたのよ」
俺はお嬢様フィルターをフル稼働させて言い放った。だが、内心では冷や汗が止まらない。
(頼む、次やったら絶対死ぬから! 早く帰って)
「……今夜は、引こう。だが覚えておけ、ライラ。そのドレスを完成させた瞬間から、君は私の世界に足を踏み入れた。……次に会う時は、もっと楽しい話をしよう」
男は不敵に微笑むと、吸い込まれるように闇へと溶けた。気配すら残さない、あまりにも鮮やかで不気味な撤退。会場に、心臓の鼓動が聞こえるほどの静寂が訪れる。
「……ライラ様、ご無事ですか!」
ノックスが弾かれたように駆け寄ってくる。俺は努めて冷静に、ゆっくりと剣を鞘に収めた。そして、乱れた銀髪を一度だけ指先で払う。
(まずドレスを確認。……よし、傷一つない。完璧だ)
「ええ。……ただ、少し退屈いたしましたわ。あの程度でわたくしの夜を台無しにしようとは、随分と見くびられたものですわね」
(嘘です。死ぬほど怖かった。膝の震えを止めるので精一杯です)
柱の陰から這い出てきたアルベルトが、抜いたままの剣を握り、呆然とこちらを見ている。
「……お前、今、一体何をした?」
「ダンスの続きをしていただけですわ。それより殿下、お怪我はございませんこと?」
アルベルトは答えなかった。ただ、その瞳には、これまでの軽薄な興味とは明らかに違う、昏い熱を帯びた光が宿っていた。
(あ、これ一番まずいやつだ。余計に面倒なフラグが立った気がする……)
俺は内心で頭を抱えながらも、これ以上なく優雅な微笑を浮かべ、扇をパッと広げた
「殿下? お怪我は?」
もう一度問いかけると、アルベルトはようやく肩を揺らし、握りしめていた剣を鞘に戻した。だが、その視線は射抜くように俺に固定されたままだ。
「……怪我などしていない。それよりもお前……あの男を相手に、一歩も引かずに剣を突きつけるとは。……ライラ・ゼーレ・クロエラ、貴様は一体、どこまで私を驚かせれば気が済むのだ」
アルベルトが歩み寄ってくる。その足取りは、先ほどの恐怖による硬直ではなく、獲物を見つけた肉食獣のような、抜き差しならない熱を帯びていた。
(お嬢様が剣振り回してヤバい奴を撃退したんだから、普通はドン引きするところだろ! なんで逆に目がキラキラしてんだよ!)
「あら、殿下。わたくしの身を守るのも、このドレスの価値を守るのも、当然の義務ですわ。……埃一つ、この白銀に触れさせるわけには参りませんもの」
俺は平静を装い、扇の陰でふう、と小さく息を吐いた。周囲の貴族たちは、今の剣劇を信じられないものを見たという顔で凝視している。中には、あまりの衝撃に失神したままの令嬢も数人いた。
「……ふん。義務か。ならば、その義務を果たすための対価も、私に支払わせてほしいものだな」
アルベルトが、俺の細い腰を引き寄せ、再び耳元で囁く。その声には、隠しきれない独占欲が滲んでいた。
「ライラ。今夜、お前は世界で最も贅沢なドレスを纏い、危険な男を退けた。……最早、お前を単なる男爵令嬢として放っておくことなど、この私にできると思うか?」
(おいおい、これ完全に行き遅れ令嬢のルートから外れてねーか!? 婚約破棄して自由になるはずが、逆に王室の特等席に縛り付けられそうな予感がするぞ!)
「殿下……。わたくし、贅沢には慣れておりますが、束縛という安っぽい飾りは趣味ではございませんの。……今夜は、このドレスの輝きに免じて、これ以上の追及はご遠慮いただけますかしら?」
俺は優雅に身を翻し、王子の腕からすり抜けた。背後でアルベルトが、悔しげに、しかし愉悦を含んだ笑い声を漏らすのが聞こえる。
「……いいだろう。だが、覚悟しておくがいい。お前がそのドレスで世界を魅了し続ける限り、私は何度でもお前を買い取りに行くぞ」
(……勘弁してくれ。俺はただ、全財産を溶かしてお洒落を楽しみたいだけなんだよ!)
俺はノックスに目配せをし、ざわめく会場を後にした。一歩歩くたびに、ドレスの裾から魔導銀の粒子がキラキラと舞い、夜会の床に勝利の軌跡を残していく。
馬車に乗り込んだ瞬間、どっと疲労が襲ってくる。
「お見事でした、ライラ様。ですが、あの不気味な男の言葉。次に会う時、ですか」
「ええ。……でも、次までにまた稼いで、もっと強い、もとい、もっと高いドレスを作ればいいだけの話だわ」
俺は窓の外、遠ざかる王宮を見つめながら、ニヤリと笑った。




