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女の子、好き?

昼休みの時間はすぐにやってきた。

時間が流れるにつれて、教室の中ではひそひそ話の声がだんだん増えていく。


午後は自分の希望で科目を選んで授業を受ける。

クラスメイトたちは教室移動の準備を始めた。


私は動くのが面倒だったので、この教室で受けられる英語の授業を選ぶことにした。

ふと振り返って、今日は誰が残るのか見てみようと思ったけれど、柳青苑はもう席にいなかった。たぶん裏口から出ていったのだろう。学校では彼女は私に話しかけないし、それでもいい。


彼女の同桌の童茜茜もいない。

たぶん一緒に別の授業を選んだのだろう。物理あたりかな、と私は思う。最近、物理の難易度が上がってきているし、課題も高一の頃みたいに簡単じゃない。


みんながほとんど移動し終えたころ、趙楽之も立ち上がった。

てっきり数学か何かを選びに行くのかと思ったのに、まっすぐ柳青苑の席へ向かい、そのまま座った。


私と彼女の目が合う。


趙楽之は気まずそうに視線をそらすこともなく、長いことこちらを睨んできた。

私も引くつもりはない。ああいう人間に、我慢する価値なんてない。


結局、彼女のほうが先に目をそらした。

けれど席からは動かない。


そのうち他のクラスの生徒がたくさん来る。私たちのクラスの人間以外には、彼女が今柳青苑の席に座っているなんて誰も知らない。


最後列に残ろうとしていた数人のクラスメイトは、急に荷物をまとめる手を早めて教室を出ていった。


みんな状況はわかっている。


犯罪を目撃したときと同じだ。

証人になろうとする人もいれば、関わりたくない人もいる。


そして私は、すでに選んでいる。


とはいえ、彼女はまだ何もしない。

こうなると、授業中に動くつもりなのだろう。


後ろの席に移動して見張るのはさすがに不自然だ。

でも私の筆箱には、小さな鏡が入っている。


はあ……柳青苑……ほんと……。

本人も私に構うなって態度だし。


朝あんなことがあったのだから、結果くらい想像できるはずだ。

たぶん彼女はまた気にしていない顔をして、私だけが勝手にいらいらするのだろう。


後ろの席から施芮悦がペンで軽く私をつついた。


「ねえ、あなたって趙楽之と前は仲よかったの?」


「いや、別に」


暴れ出す前の高一の頃、たまに話したことがあるくらいだ。


「ねえ、他のクラスの人がさ……あとで気づいたりしないかな」


「何に?」


このクラスにヤバい奴がいることに?


「うちのクラス、おかしいって」


……


「気づいたら気づいたでいいんじゃない?それでどうなるわけでもないし」


「もしかしたら先生に言ってくれて、全部終わるかもしれないよ」


甘いな。

自分のクラスの人間だって関わらないのに、他クラスがどうこうしてくれるわけがない。


私は軽く笑った。


「ありえるかもね。わからないけど」


しばらくして——


午後の授業のチャイムが鳴った。


教室はそれほど静かにならない。

ただ時間をつぶしに来たような生徒もいる。


私が前を向いた途端、趙楽之は待ってましたとばかりに机の中をあさり始めた。


教科書は柳青苑が一部持っていったはずだけれど、書き終えた宿題はまだ残っている。

それは持ち帰る必要がない。どうせ月曜提出だから。


今朝と昼休みの前半で、英語と国語は終わらせていたはずだ。

理系の課題は面倒だから、夜にまとめてやるのが彼女のやり方だ。


私はそのへんの癖はよく知っている。


趙楽之は違った。

先生が授業している間に、ノートを一冊一冊小さく開いて中身を確認していく。


完成しているページを見つけると、

その二枚をこっそり破り取った。


……これ、さすがに大胆すぎない?


先生だって不思議に思うはずだ。


そのあと彼女はどこからか万年筆用のインク瓶を取り出して、机の中にぶちまけた。


趙楽之自身は万年筆なんて使わない。

柳青苑も使わない。


でも佳佳は一本持っている。


私は佳佳の机の中を見てみた。

荒らされた形跡はない。


今、私の隣には別のクラスの静かな女子が座っている。

いかにも真面目そうな子で、他人のものに触る様子はない。


……でも状況はよくない。


あのインクがどこから出てきたのか見当もつかない。

同じクラスか、あるいは他クラスの誰かに罪をなすりつけるつもりかもしれない。


あるいは柳青苑が宿題を書かなかったから破って濡らした、と先生に思わせたいのか。


でもそれはさすがに不自然すぎる。


もしかしたら、柳青苑がそのまま宿題を出さずに何も言わず叱られる状況を作りたいのかもしれない。


ここ数日の彼女を見ていると、

それが一番ありそうだ。


……はあ。


どうしてこんなに幼稚なんだろう。


英語の先生は黒板に夢中だ。

最後列の連中は何を話しているのか知らないがゲラゲラ笑っている。


先生は聞こえないふりをして、

静かになるのを待ってから振り向き、ノートを取るように言った。


隣の女の子はすごく真面目で、もう半分以上書き終えている。

私がノートを見ているのに気づくと、小声で言った。


「もしかして……学年一位の人ですか?」


私の名前は教科書の表紙に書いてある。

わざわざ否定する必要もない。


「そう」


「その……これからよく勉強を教えてもらえませんか?」


「金曜の午後ってこと?」


「いえ、その……もし夜の自習とか来てたら……」


「私は学校の自習には来ないよ」


「そうなんだ……」


少し残念そうな顔をする。


「じゃあ、どんな塾に行ってるんですか?」


……質問多いなこの子。


「夜は家庭教師のところで宿題してる」


適当に嘘をついた。

クラスメイトには言っている内容と少し違うけれど、別にどうでもいい。


どうせ断る口実だって察しているだろう。


「どこで先生見つけたんですか?」


……この子、本当に勉強したいんだな。


「塾で良さそうな先生見つけて連絡しただけ」


「そっか……わかりました」


空気を読んで会話を終わらせてくれた。


こういう子は嫌いじゃないけど、

これ以上話を広げる気もない。


ただ、鏡の端に映る小さな影の中で、

趙楽之がこちらをじっと見ているのが見えた。


この人、しつこい。

もしかしたら勘が鋭いタイプなのかもしれない。


放課後までなんとかやり過ごし、

携帯を受け取るとすぐに柳青苑に連絡した。


「書店で待ってる」


四文字だけ送って、私はさっさと学校を出た。

彼女の家と学校の間には参考書店が一軒しかない。説明しなくてもわかるはずだ。


十分後、やっと返信が来た。


「?????」


どうやらまだ教室に戻っていないらしい。


「一度見に行ってみて」

「片付けてから来てもいい」


そう送った。


しばらく待って、五分後に返信。


「もういい、今行く」


今日は予定がめちゃくちゃだ。

普段ならご飯を食べて、のんびり六時頃に彼女の家に行く。


でも今日は問題集を買い直す必要がある。

教科書も取り寄せになるかもしれない。


もし何も買わなかったら、

今夜彼女の家で宿題をしても意味がない。


……あ。


いや。


私の宿題は無事なんだけど。


私はため息をついた。

結局、放っておくわけにもいかない。


私は書店の入口近くで雑誌を立ち読みしながら、

横目で誰か来ないか見ていた。


今日は金曜日。

店内にはいつもより少し人が多い。

同じ学校の生徒もちらほらいる。


しばらくして、柳青苑が小走りで現れた。


……別に走らなくてもいいのに。


彼女の髪がばらばらに跳ねている。


夕焼けが背中から差し込み、

頬の輪郭にオレンジ色の縁をつけていた。


……まあいいか。


ちょっと可愛い。


それでいい。


彼女は店に入っても私を探さない。

外では、私たちはそんな関係じゃない。


私はただ、ちゃんと買うものを買ったか確認して、

前後で歩いて帰るつもりだった。


予想通り、彼女は問題集だけ買って、教科書は買わなかった。

教科書の紙の厚さなら、インクは染みにくいはずだ。


レジに並ぶとき、彼女は私の横を通り過ぎた。

言葉は交わさない。


代わりに、

私の前にあった雑誌を一冊抜き取った。


やっぱり読みたかったんだ。


自分の推測に満足したのか、

レジに並ぶ背中はちょっと笑っているように見えた。


あんな目にあっても、まだ笑うんだ。


ほんと……


柳青苑が出て行って少ししてから、私も店を出た。

そのまま前後で歩いて、彼女の家へ。


「こういうの好きなんだ?」


彼女はニヤニヤしながらファッション雑誌を掲げた。

彼女の家には小説と漫画ばかりで、こういうのはない。


でも、立ち読みしてただけとは言いたくなかった。


「宿題始めよう」


「え?金曜日だよ?」


やる気のなさが丸出しだ。


「……」


「じゃあ私書くから、君遊んでていいよ」


明日はのんびりしたいし。


「はいはい、書きますよ」


私たちは昨日と同じ場所に座った。

時計を見ると、今日はいつもより一時間以上遅い。


予定よりだいぶ時間を食った。


しかもまだ夕飯も食べていない。


「デリバリー頼む?」


「いいよ、ちょっと見るね」


柳青苑はスマホを取り出した。

晩ご飯を探すときの彼女は妙に集中している。


宿題より真剣だ。


夕方の風で少し湿った髪が、

前髪になって額に貼り付いている。


私はつい手を伸ばして、

髪を整えようとした。


指先が、

温かい肌に触れた。


「ドン!」


柳青苑は飛び上がり、

ものすごい勢いで後ろに下がって、壁にぶつかって止まった。


完全に、驚いた野良猫だ。


部屋の空気まで揺れた気がした。


「ぷっ」


私は思わず笑ってしまった。


反応大きすぎ。


数秒経っても、彼女はまだ荒く息をしている。


そのとき、ふと佳佳の言葉を思い出した。


「ちょっと聞いていい?」


柳青苑はまだ呼吸を整えている。


今なら聞ける。


「女の子、好き?」


「ドン!」


壁の時計が落ちた。

まるで意思でもあるみたいに。


落ちながら彼女の頭を軽く叩き、

床に転がって止まった。


どう見ても、寿命だった。

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