3話 何やら大事になってまいりました
メイド服の女性と医師が何やらやり取りしている間、ボーっとベッドに寝転び天井を見つめる。
「お嬢様、無事お目覚めになられてよかったです。」
いつの間にか医師は帰っていったようで、部屋には私とメイド服女性だけになっていた。
「何か召し上がりになられますか。お飲み物をご用意いたしましょうか。お召し物も変えたほうがよろしいですね。」
次々と話しかけられるが、返事を待つことなくメイド服女性は入ってきた時に持っていた白い布を広げ始める。
なるほど。それは私の着替えのネグリジェだったのか。
「さぁ、お嬢様。お着替えいたしましょう。失礼しますね。」
そう言いながら私が今着てるネグリジェを脱がせ、新しいネグリジェを着せた。どちらもシルクのような肌触りで、一体いくらするんだろうと思った。
ただそれよりもここがどこなのか、私はなぜ小さくなって容姿も変わっているのか、お嬢様とはいったいどうゆうことなのか。とにかくこの状況に対する情報を求めていた。
そんなこととはつゆ知らず、メイド服女性は脱がせたネグリジェをまとめ、扉から出ていこうとしていた。
「胃に優しいスープとお飲み物を用意してまいりますね。少々お待ちください。」
そう言いながら一礼して扉を開けた瞬間に私は慌てて声をかける。
「あの……!」
「……どうかなさいましたか?お嬢様。」
声をかけたはいいが次の言葉が続かない私にメイド服女性が問いかける。
さて、何から聞いたらいいのか。
難しい顔をしながら考えている私を心配したのか、メイド服女性はベッド脇まで近づいて来て優しく話しかける。
「大丈夫ですよ、お嬢様。先ほど早馬で王宮にいらっしゃる旦那様と奥様にはお嬢様が目を覚まされたとお伝えが行っているはずです。もう少しすれば旦那様方もお帰りになられますよ。とてもご心配なさってましたから。」
……旦那様と奥様って誰?
全く見当違いな慰めに新たな疑問が湧く。
「私もお食事とお飲み物をご準備してすぐに戻ってまいりますのでどうぞ安心してお休みください。」
そう言ってまた扉から出て行こうとするので、慌てて一思いに叫ぶ。
「違うんです!!ここがどこなのかを教えて欲しいんです!!」
「……どことおっしゃいますのは…お嬢様のお部屋ですよ…」
「あっ!いや!そうではなくてですね……」
「……シルベルク家の御屋敷ということでしょうか?」
「……シルベルク家…?いやそういうことでもなく…、ここは結婚式場ですよね?」
「結婚式場……?」
「あっ!じゃあどこかのホテルとかですか?こんなに素敵な部屋だったらさぞかし宿泊料も高いだろうな〜って……!」
「……お嬢様……?」
「…………………」
「…………………」
気まずい沈黙が流れる。これはダメなやつだ。お互いに全く噛み合ってない。
ただこうなったらもう全部聞くしかない。今の私にはこの人だけが頼りなのだから。
「あの!変なこと言ってたらすみません!ここがどこで、あなたがどちら様なのか全くわからないんです。自分がお嬢様と呼ばれてるのもわからないですし、私はただ結婚式していて、目を開けたらここにいてちょっと混乱しているんです……!」
メイド服の女性が抱えていたネグリジェをポトっと落とした。目を見開き、ワナワナと震えている。
と思ったら次の瞬間にはベッド脇まで駆け寄ってきていた。
「お嬢様!私のことがわからないんですか!?
お嬢様の侍女のメリーですよ!2歳の頃からお側にいたあの!メリーです!」
目を覚ましているのを発見した時よりも取り乱した様子に若干の恐怖を覚える。だがそれよりもメリーの発言にもっと恐怖を覚えた。
侍女?2歳の頃から?いや、私にはそんな世話人のような人はいなかった。ごく一般の中流家庭で育ったのだ。いるはずがない。というか侍女なんてそれこそ西洋の貴族だ。
……西洋の貴族?そういえばこの子の見た目は西洋ぽかったな。この部屋もお貴族様のお部屋って感じだし。お嬢様って呼ばれてるし。
そこまで考えてい嫌な汗が滲んでくる。まるで別の世界にいるみたいだ。
「お嬢様……?」
縋るような目で見てくるメリーに申し訳なさを感じながら答える。
「…ごめんなさい。本当にわからないんです。メリー?でしたっけ。始めて聞きました…。」
私の言葉にメリーは涙を浮かべながら目を見開き、そして少しの間に弾けるように駆け出し扉を開けて外に向かって叫んだ。
「お嬢様の様子が変です!すぐに先生を呼び戻してください!!」
周りではなく私がおかしいみたいです。




