1話 誓いのキスは異世界生活の始まりでした
華月あかり、27歳。
3年付き合った同い年の男性と結婚することになりました。半年かけて結婚式の準備をし、今日という晴れの日を迎えるに至りました。お父さん、お母さん、今日まで育ててくれてありがとう。お父さんは私の花嫁姿見たら泣いちゃうかもね。お母さんはキレイねっていつもみたいに優しい顔で笑ってくれそう。
だけど、私の気持ちはどん底まで落ちていた。その理由は結婚相手の古河春希だ。婚約してから一緒に住むようになって、付き合っていた時には見せなかった本性をジワジワと現してきているのだ。
「料理は妻の仕事でしょ?得意じゃないなら俺の母さんに教えてもらったら?母さんの料理をあかりも作れるようになってくれたら嬉しいな!」
「母さんたちに孫の顔見せたいから早く作ろうな!やっぱり最初は男の子!俺似に産んでくれよな!」
「いつかは母さんたちと同居するだろ?」
などなど、マザコンとモラハラを感じる発言を多々するようになった。
極めつけは昨晩、結婚式前日のこんな発言だ。
「明日結婚式を無事終えたら、あかりは正式に古河家の一員になるんだからな。華月家より古河家を優先するように気をつけろよ!」
この男は一体何を言っているのだろうかと唖然とした。同時に、逃げるタイミングを失ったとも思った。
もともと断ることが苦手で、流されやすい私は春希の明るくリードしてくれるところに惹かれた。結婚式のことも春希が次々に話を進めてくれ、私の意見が反映されたのはウエディングドレスくらいだ。あれよあれよという間に結婚に関することが決まっていくため、春希の変化にあれ?と思っているうちに半年が過ぎ今日を迎えてしまった。
まあどうせ言い返すだけの度胸もないので、春希の発言には曖昧な笑顔で頷いていた。ハッキリしない自分が悪かったのだ。まだ春希を好きな気持ちも残っている。情なのかもしれないが、もうこの際しょうがない。今日の結婚式からは逃げられないのだ。覚悟を決めよう。
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母にベールを下ろしてもらい、父とバージンロードをゆっくりと進む。春希の言葉で言うなら華月家を離れ古河家の人間になるため一歩ずつ自分の足で春希のところまで進む地獄の道だ。
父の腕を離し、そっと春希の手を掴み隣に並ぶ。ここにこんなにも悲壮な気持ちで立つ花嫁がどれくらいいるのだろうか。願わくば私だけであってほしい。みんなにはもっともっと幸せいっぱい浮かれまくりのお花畑くらいの脳内でウエディングドレスを着て笑っててほしい。
そんなことを考えていると、とうとう誓いのキスまで進んでいた。春希がベールを上げられるようにそっと屈む。涙が溢れてくる。これが嬉し涙だったらどれほど良かっただろうか。
春希の両手が肩に添えられ顔がゆっくりと近づいてきた。ああ、さっき決めたばかりの覚悟が揺らいできた。やっぱり逃げたい。ここでビンタの一発でもできたらな…。なんて妄想に逃げながら口を強く閉じ、そっと目を閉じた。
………。
………。
………。
………………いつまで経っても唇に感触がこない。それどころか人の気配すら感じない。どうしたらいいのだろうか。目を開けてもいいのか。
目を閉じたまま考えていると違和感に気づく。
私もしかして横たわってないか?ベッドで寝ているときの感覚だ。
もしかして誓いのキスがあまりにも嫌で倒れてしまったのだろうか。慌てて目を開ける。
「ん?」
理解が追いつかなかった。見えた景色は結婚式場の天井でも医務室のような天井でもなかった。
一度もこのようなところで寝たことがないのですぐには分からなかったが、いわゆる天蓋つきベッドで4本の支柱に高そうなカーテンのような薄いブラウンの布がまとめられていた。
キョロキョロと目線だけ動かすとどうやら自分が天蓋ベッドに横になり高そうな布団をかぶり横になっていたことはわかった。
どういうことだろうか。結婚式場にはこんなにも豪華なベッドがあり、花嫁が倒れる可能性すら考慮しお姫様のように扱うコンセプトでもあるのだろうか。
何はともあれ、とりあえず起き上がって結婚式がどうなったか確認しなくてはいけない。
そう思い上半身を起こし部屋全体が視界に入り絶句した。
「は?」




