第8話「雨の日のティータイム」
朝からどんよりとした雲が広がっていた。
松戸のねぎ畑の上を、しとしとと雨が降っている。
「今日は一日こんな感じかなぁ……」
窓の外を見つめながら、ふたばは傘を手に取った。
みつばは足もとで「にゃぁ」と鳴く。
「お留守番よろしくね、みつば。濡れないように気をつけててね」
「にゃ〜」
ふたばは笑って靴を履き、玄関を出た。
放課後。
校門を出ると、雨脚が少し強くなっていた。
傘を広げて歩いていると、
同じクラスのしずくが、校舎の軒下で手を振っている。
「ふたばー!傘ある?!」
「あるよ〜!しずくは?」
「持ってないの!朝は降ってなかったから〜!」
「じゃあ一緒に入ろっか」
「いいの?ありがとう!」
ふたばの白い傘の下、二人は並んで歩き出す。
傘の内側に響く雨音が、まるで小さな音楽みたいだった。
「ねぇ、今日バイト?」
「ううん。お休み。だから帰ったら紅茶淹れようかな」
「いいなぁ〜。ふたばってほんとおしゃれだよね」
「そんなことないよ〜。でも雨の日って、
あったかい飲み物がいちばん落ち着くんだよね」
「わかる!わたしもカフェオレ飲みたくなってきた〜」
二人は笑いながら松戸駅まで歩く。
信号待ちの間、ふたばは雨粒の落ちる地面を見つめた。
水たまりの中に、傘のピンクと青が揺れている。
「雨の日って、なんか世界が静かに見えるね」
「ふたばって、詩人みたいなこと言うよね〜」
「えっ、そうかな?」
「でも好き。ふたばのそういうとこ」
その言葉に、ふたばは照れくさそうに笑った。
家に着く頃には、靴の先が少し濡れていた。
みつばが玄関で待っていて、「にゃー!」と鳴く。
「ただいま、みつば。いい子にしてた?」
「にゃっ」
「ふふっ、お利口さんだね」
ふたばは着替えてから、キッチンに立った。
棚からお気に入りの紅茶缶を取り出し、ポットにお湯を注ぐ。
ふわりと香るダージリン。
その香りをかぐだけで、心が落ち着いた。
テーブルに紅茶と、昨日買ったクッキーを並べる。
みつばが椅子の上にちょこんと座る。
「ねぇ、みつば。雨の音って落ち着くよね」
「にゃ〜」
「うん、わかる。なんか優しい音だよね」
ふたばはカップを両手で包み込みながら、
しずくと歩いた帰り道を思い出していた。
「傘ってひとつでも、二人で入るとあったかいんだね」
みつばは小さくあくびをして、
テーブルの下で丸くなった。
雨音と、猫の寝息。
紅茶の香りが部屋いっぱいに広がる。
外は冷たい雨でも、
ふたばの部屋の中は、やわらかくあたたかかった。




