第4話「みつばと、午後のティータイム」
午後の陽ざしが、カーテンのレースをやさしく透かしていた。
ストロベリー柄のジャンスカの裾を揺らしながら、ふたばはリビングに入る。
「ただいま〜!」
台所から母の声が返ってくる。
「おかえり、ふたば。楽しんできた?」
「うん!すっごくかわいいドレス見つけたの!
しかも似合うって言ってもらえたんだ〜♡」
「まぁ、それはよかったわね」
母の和葉は、笑いながらポットにお湯を注いだ。
「紅茶淹れる?せっかくだから、新しいカップ使おうか」
「うん、飲む!」
ふたばはストロベリー柄のスカートをふわりと広げて座り、
テーブルの上のティーセットを見つめた。
白地に小さなピンクのバラ。祖母が昔、骨董市で見つけてくれたお気に入り。
湯気が立ち上がり、部屋中にアールグレイの香りが広がる。
ふたばはほっと息をつき、うっとりと目を細めた。
足もとから「にゃぁ〜」と鳴き声がした。
「みつば!」
黒猫のみつばが、ふたばの足に身体をすり寄せてきた。
「おりこうさんにしてた?お留守番ありがとう」
「にゃっ」
「えへへ、ちゃんといい子印だね。はい、ごほうびのカリカリ〜♡」
小皿にカリカリを出すと、みつばはしっぽをぴんと立てて食べ始める。
その姿を眺めながら、ふたばはティーカップを口に運んだ。
「……やっぱり、おうちの紅茶がいちばん落ち着く」
風が窓を揺らし、カーテンがふわりと膨らむ。
ストロベリー柄のスカートの上に、その影がゆらゆらと踊った。
「ふたば、今日の写真見せてくれる?」
母が隣に座って尋ねる。
「うん!撮ってもらったの、すっごく綺麗なんだよ!」
ふたばはスマホを取り出し、カメラフォルダを開いた。
画面には、いちごのロリィタ服を着た自分が笑っている写真。
自然光の中で、スカートのレースがやわらかく光っていた。
「わぁ……ふたば、ほんとにモデルさんみたい」
「ふふっ、撮ってくれた人も優しくてね。“笑顔が素敵です”って言ってくれたの」
「あなたの笑顔はねぎ畑でも一番輝いてるもの」
「も〜お母さんまで〜!」
ふたばは照れながらも、嬉しそうに笑った。
午後の陽ざしが少し傾き、影がゆっくり伸びていく。
みつばはソファの上で丸くなり、ふたばの膝に頭をのせた。
その温もりが、まるで小さな湯たんぽみたいにやさしい。
「ねぇ、みつば。ふたばね、メイドでもロリィタでも、
ねぎ畑の娘でも、どれも“自分”なんだって思ったんだ」
「にゃぁ」
「うん、そうだよね。みんな一緒でいいんだよね」
ふたばはそっとみつばを撫でながら、目を細めた。
紅茶の香り、風の音、猫の寝息。
それだけで、世界がまるくなるような気がした。
台所から母の声が聞こえる。
「ふたば、夜はシチューよ。にんじん切ってくれる?」
「はーい!」
ふたばは立ち上がり、スカートを軽く押さえてキッチンへ向かう。
足もとでは、みつばがのんびりとついてくる。
「みつばもお手伝いしたいの?」
「にゃ〜」
「じゃあ応援係ね!」
包丁の音がトントンと響く。
夕暮れ前の松戸の家。
窓の外では、ねぎ畑がゆらゆらと風にそよいでいた。
「今日もいい日だったなぁ」
ふたばのつぶやきが、やさしく部屋に溶けていった。




