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第3話「原宿へ、ロリィタ探しの旅」

日曜日の朝。

松戸の空はやわらかい春色で、ねぎ畑の上を風が渡っていた。

ふたばは鏡の前で、淡いピンクのうさぎ柄ジャンパースカートを整える。


「よし、今日もかわいく決まった!」


白いブラウスの袖口には小さなレース。

ヘッドドレスのピンクのリボンを首もとで結ぶと、

気分もすっかりおでかけモード。

鏡の中のふたばは、少し得意げに笑っていた。


「今日は新しいドレス、見つけられるかな」


玄関では、黒猫のみつばが足もとにすり寄ってくる。

「みつば、お留守番よろしくね。帰ったらおやつあげるから♡」

「にゃぁ〜」

「ふふ、いい子だね」


ふたばはバッグを抱えて家を出る。

千代田線のホームは日曜の朝らしく少し静かで、

ふたばは窓際の席に座って小さく伸びをした。


「松戸から一本で原宿まで行けるって、ほんと便利だよね」


窓の外では、街が少しずつビルの色に染まっていく。

電車がトンネルに入るたび、ふたばの顔がガラスに映った。

その表情には、少しの緊張と、たくさんの期待が混ざっていた。


明治神宮前〈原宿〉駅に着いてしばらく歩くと、

空気がふっと変わった。

甘いクレープの香り、楽しげな笑い声、

カラフルな看板の並ぶ竹下通り。


「やっぱり原宿って、歩いてるだけでワクワクする」


お気に入りのロリィタショップ

**「Étoile Angeエトワール・アンジュ」**に向かう。

木の扉を押すと、鈴の音がやさしく鳴った。


「こんにちは♡」

「いらっしゃいませ〜!あっ、この前もうさぎ柄のジャンスカで来てくれた子だよね!」

「はいっ、また来ちゃいました!」

「今日は新作入ってるの。ストロベリー柄で、すっごくかわいいよ♡」


「えっ、ほんとに!?見せてください!」


案内されたラックには、

淡いピンク地に赤いいちごと白うさぎのプリントドレスが掛かっていた。

裾には小さなフリル、胸もとはリボンのクロス。

ふたばの目がキラキラと輝いた。


「かわいい……!これ、試着してもいいですか!?」

「もちろん♡」


試着室でうさぎ柄を脱ぎ、ストロベリージャンスカに袖を通す。

軽やかな布の感触が肌に触れた瞬間、ふたばは胸の奥がときめくのを感じた。


「……まるで春の妖精みたい」


鏡の前でくるりと回る。

スカートがふわりと広がって、光を反射する。

その姿を見た店員が思わず言った。

「似合いすぎです!まるでこのドレスのために生まれたみたい♡」


「わ、わぁ……うれしいです!」


「すみません」

ふいに後ろから声がして、ふたばは振り向いた。

一眼レフを下げた青年が立っていた。


「撮影許可もらってて……その、あまりに綺麗だったから」

「えっ、あ、ありがとうございますっ!」


彼はやわらかく微笑んで言った。

「このドレス、君にぴったりだね。

 いちごが笑ってるみたいに見えるよ」

「えへへ……そんなこと言われたの初めてです」

「写真、撮ってもいい?」

「はいっ!」


カメラのシャッター音がやさしく響く。

ふたばはスカートをつまみ、ふわっと微笑んだ。

その瞬間、ドレスのリボンが光を受けてきらりと輝いた。


撮影を終えた青年は軽く会釈をした。

「ありがとう。僕、りょうっていいます」

「ふたばです!“メゾン・ド・ラパン”でメイドしてます!」

「やっぱり。立ち姿がきれいだから、そうかなって思った」

「バレちゃいました?えへへ……」

「いい意味で、だよ。すごく自然な笑顔だから」


ふたばは顔を赤らめながら小さく笑った。

「このドレス、今日から私の宝物にします」

「いいね。その言葉、写真のタイトルにしたいくらい」


店員が声をかけてきた。

「ふたばちゃん、そのまま着て帰りますか?」

「えっ、着て帰っていいんですか!?」

「もちろん♡ 脱がせるのがもったいないくらい似合ってるもの!」

「じゃあ……このままで!」


タグを外してもらい、鏡の前で洋服を整える。

ストロベリー柄のロリィタ服が、春の光をまとっているように見えた。


竹下通りに出ると、風がスカートをやさしく揺らした。

すれ違う女の子たちが「かわいい〜!」と声を上げる。

ふたばは照れながらも、にっこり微笑んでお辞儀をした。


紙袋の中には、うさぎ柄のジャンスカ。

そして胸の中には、新しい自信と小さな夢が詰まっている。


「ねぎ畑のふたばも、メイドのふたばも、

ロリィタのふたばも、みんな“私”なんだね」


明治神宮前駅に向かう途中、ふたばは小さく呟いた。

ガラスに映る自分は、いつもより少し大人びて見えた。

ピンクのスカートが、春の陽射しを受けてきらりと光った。

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