第13話「春の撮影会」
春の朝。
ふたばは鏡の前で髪を軽く整え、リップを塗った。
今日はメゾン・ド・ラパンの春限定スイーツ“ストロベリー・クラウド”の撮影会。
「みつば、今日もかわいく撮ってもらえるようにがんばってくるね」
「にゃ〜」
黒猫のみつばはあくびをしながら尻尾を揺らす。
ふたばは笑い、バッグにハンカチとブラシを入れて家を出た。
新宿のお店に着くと、いつもより少しにぎやかだった。
テーブルの上には春の飾りつけ。
桜の花びらが入ったガラスの器と、ピンクのクロス。
「ふたばちゃん、おはよう!」
厨房から顔を出したのは、パティシエの香澄。
「今日の撮影用スイーツ、朝から仕上げてるのよ。
いつもより“映える”ように、リボンを多めに飾ったの」
「わぁ〜、香澄さんのスイーツ、まるで本物の桜みたいです!」
「ありがとう。今日はふたばちゃんたちがメインだから、
お菓子たちも緊張してるかもね」
ふたばは笑いながらエプロンを着け、鏡の前でリボンを結んだ。
「よし、今日も“笑顔の魔法”でがんばります!」
撮影スタッフが機材を並べる中、
お店の扉が開いて、外の光がふわりと差し込む。
「ふたば〜!」
手を振っているのは、親友の水野しずく。
「えっ、しずく!?どうしてここに!」
「呼ばれたの!ロリィタ代表で“お店と春”の撮影に参加するんだって!」
「すごい! 本当に夢みたい!」
しずくは淡いミントグリーンのロリィタドレス姿。
フリルが風に揺れて、店内が一気に春めいた。
撮影が始まる。
ふたばとほのかは、桜色のスイーツをテーブルに並べる。
香澄が最後の飾りを丁寧に添えて微笑んだ。
「苺ソースは光に弱いから、撮る直前にね」
「はいっ、香澄さん!」
「おかえりなさいませ、ご主人さま♡」
カメラのシャッター音が軽やかに響く。
その横で、しずくがロリィタ服でお茶を持ち、ふんわりと笑った。
ふたばと目が合う。
お互いに違う世界の服を着ているけど、
“かわいい”という心は同じだった。
休憩時間。
テーブルの端で、香澄がいれた紅茶の香りが漂う。
「ふたばちゃん、いい表情してたわね。
春の写真って、やわらかい笑顔が一番映えるのよ」
「ありがとうございます。香澄さんのスイーツのおかげです」
「ううん。みんなで作った“春”だから、こんなに素敵なの」
しずくがカメラを構えて言った。
「はい、次はスタッフさんも入ってくださ〜い!」
「えっ、わたしも!?」と香澄が笑いながら手を振る。
シャッターの音がまた響く。
撮影が終わるころ、外の桜並木が夕日に染まり始めていた。
お店の前で、ふたばはしずくと香澄に頭を下げた。
「今日は本当にありがとうございました!」
「おつかれさま、ふたばちゃん。
春って、頑張る子の味方をする季節ね」と香澄。
「ほんとそれ!」としずくが笑う。
ふたばは手に持ったカメラの画面を見つめる。
そこには、笑顔の仲間たちと、桜色のスイーツ。
「“かわいい”って、やっぱり人の心を明るくするんだね」
春の風がそっと髪を揺らす。
その瞬間を、しずくがまたカメラに収めた。




