第12話「お店の新メニュー試作会」
春の昼下がり。
新宿の街はぽかぽかと暖かく、カフェ通りを歩く人々の笑い声が響いていた。
ふたばは、メゾン・ド・ラパンの紙袋を抱えてお店の扉を開ける。
「おかえりなさいませ、ふたばさん!」
厨房の方から顔を出したのは、中原ほのか。
まだ少しぎこちないけれど、すっかりお店に馴染んできた様子だ。
「おはよう、ほのかちゃん。今日はメニュー試作会だね」
「はいっ! 店長さんが“春限定スイーツを考えてみよう”って!」
「わぁ〜楽しみ! でもちょっと緊張するね」
厨房では、店長とパティシエ担当の香澄がテーブルを囲んでいた。
カウンターには苺、ホイップ、ピスタチオ、桜色のソースが並んでいる。
「テーマは“春の魔法”。
甘すぎず、見た目もかわいく。
ふたばちゃん、ほのかちゃん、自由にアイデア出してみてね」
「“春の魔法”かぁ……」
ふたばは腕を組んで考えた。
「見た目はピンクとミントの組み合わせがいいかも。
それに、ふわふわのホイップで雲みたいにして……」
「かわいいです! ふたばさんらしいです!」と、ほのかが笑顔で頷く。
香澄はその様子を見て、やさしく微笑んだ。
「うん、二人ともいい感じ。楽しそうに作るのが一番のスパイスよ」
2人はエプロンをつけて、試作を始めた。
ふたばが苺をカットして、ほのかがホイップを絞る。
「うわっ、ホイップ出すぎちゃった!」
「あっ、だ、大丈夫! このままハート型にできるかも!」
ふたばがスプーンで整えると、偶然できたホイップハート。
「これ……かわいい!」
「“偶然の魔法”ですね!」
香澄がくすっと笑いながら言う。
「ね、いいチームじゃない。写真に撮っておきたいくらい」
店長が出来上がったプレートを見て微笑む。
「いいね。名前はどうしようか?」
ふたばは少し考えて、口を開いた。
「“春色ストロベリー・クラウド”なんてどうですか?」
「雲のようにふわっとしてるし、ぴったりだね」と香澄。
皿の上では、ピンクの苺とホイップがまるで桜の花びらのように並んでいた。
ほのかは完成したデザートを見つめながら、ぽつりとつぶやく。
「ふたばさんって、本当にすごい……。
かわいいを“形”にできるんですね」
「ううん、違うよ。
“かわいい”は一人じゃ作れないんだよ。
ほのかちゃんが一緒だったから、できたんだと思う」
香澄は静かに頷きながら、
「そうそう。スイーツも笑顔も、誰かと作るともっと甘くなるの」と微笑んだ。
試作品を試食すると、苺の酸味とホイップのやさしい甘さが口に広がった。
「……おいしいっ!」
ほのかが嬉しそうに笑う。
「ね? ちょっと不思議なくらい、春の味だよね」
「ふたばさんの“魔法”ですね」
「ふふ、それは2人の魔法だよ」
その日の閉店後。
お店の外の桜並木は、夜の風に揺れていた。
ふたばは看板を片づけながら、小さく呟いた。
「春の魔法って、季節のことじゃなくて――
人の心があったかくなること、なのかもね」
窓越しに見える香澄とほのかの笑顔。
その光景は、まるでデザートのようにやさしく甘かった。




