魔王の教室 ~落ちこぼれ達の特別教室~
供養。続くかどうか? 知らなーい。脳内に出てきたものの、ただ眠らせておくのはなーてことで書き出したもの。
「アリーシャ魔法学校へ入学おめでとう諸君、と言いたいところだが。このクラスにぶち込まれた意味を理解しているから、祝われたくないという顔をしているな」
メガネをかけた黒いロングヘアの長身の男は、俺達を見下すようにそう言い放った。いや、まさに見下していた。
それも当たり前だろう。このクラスの名前はDクラス、DランクだからDなのではなく、ダスト……つまり塵を集めたクラスだからDクラスなのだ。能力によってAからC、最上位の特待生はSクラスという特別な教室が用意されている。それに比べて俺達は……まさにゴミ置き場というような教室だ。とてもじゃないが、魔法を学ぶ場所とは言い難い。
「まあいい、自己紹介をしてやろう。俺の名前はブラック、家名はない。今年からこの学校で教鞭をとることになったものの、能力が低いとされお前達の相手をさせられることになった魔法使いだ。いわばお前達落ちこぼれと同じ1年生、落ちこぼれの1年生同士……仲良くしようじゃないか」
「黙って聞いてりゃ落ちこぼれ落ちこぼれって、てめえだって落ちこぼれのくせに見下しやがって!」
ブラックと名乗る男に苛立ちを覚え、つい言い返してしまった。しかし、ブラックは全く動じていないという様子で、余裕の嘲笑を浮かべていた。
こんな男が俺達の担任、こんな場所で魔法を学ばなければならないのか……。これから、3年も……!
「よし、赤髪のお前を1号とする。落ちこぼれ1号、得意魔法は?」
「あぁ!?」
「あぁ!? が得意なのか? オリジナル魔法だな、使ってみろ」
「舐めんなクソ野郎!! ファイアーボール!!」
「はわ、はわわわ……」
「わぁ~……」
入学初日だってのに、もう耐えられない。教師への暴力は最悪退学だが、そんなの知ったことか!! 俺のプライドを、尊厳を踏み躙ってくるこいつを、赦すわけにはいかねえ!!
「詠唱から2秒で術式を構築、発射までのスムーズさはまずまずといったところか。さて、威力は……」
「死ね、クソ野郎!!」
くたばりやがれ、黒髪クソメガネ野郎!!
「あっ……!?」
「なるほど、0点だ。お前の得意魔法はファイアーボールで良いか? もうお前のことは大体理解した。よろしい、席に座れ」
「な、あ……え……」
「得意な魔法を使えと言ったのは俺だ。お前は得意な魔法を使った、それだけだ。何か問題でもあるのか?」
止め、られた……? 止められたどこじゃない……かき消された!? まるで何事もなかったかのように、涼しい顔で俺の渾身のファイアーボールを……!!
「次にお前、青い髪のお前だ落ちこぼれ2号。得意魔法は?」
「は、ふぇ、ひぇ……!?」
「どうした、喋れないのか? さっきも落ちこぼれ1号のファイアーボール如きではわわわと焦っていたな。まともに喋れんのか?」
「しゃ、しゃべべ、りぇましゅ!!」
本当に、何事もなかったかのように進行しやがって……。なんだよ、こいつ……。なんなんだよ……!!
「得意魔法を言え。もしくは使ってみろ」
「ははは、はひっ!! ああ、あいしゅ、あしゅ……アイスニ、ニードル!! ひぇえ!?」
「わあ~……」
発動前に、魔法陣がぶっ壊された!? 確かに青髪のこいつは魔法を使うのが遅かったが、それでもこの短時間に魔法陣を破壊するなんて、そんな芸当は普通じゃ考えられない!! 本当にこいつ、能力不足で落ちこぼれのDクラスに充てがわれた教師なんだよなぁ!?
「得意魔法でその程度か、出直せ。最後、金髪のお前だ3号。得意魔法は?」
「あ~……使うのは、得意じゃなくって~……。分析とか、そういうのなら~」
「そうか、では俺が使ってやる。その得意な分析とやらでしっかりと分析してみろ。防御魔法は不要だ」
「え、え? はぁ~い……?」
今度は何をするつもりだ? 分析が得意ってやつに、何を見せつけるつもりなんだ……!
「ファイアーボール」
「え、わっ……」
「おい、危ねえ!!」
「はわああああ~!!」
馬鹿野郎!! ファイアーボールをいきなり生徒に放つやつがあるか!! こんなんじゃ分析もクソもねえ、死んじまうだろうが!! クソ、俺は火の魔法への耐性が高いから、俺が盾になってやるしか……!!
「ぐぁああ!! あ……あ……? あれ……?」
「どうした落ちこぼれ1号、急に席を立って。トイレにでも行きたくなったのか?」
「…………どこも、燃えてない? 熱く、ねえ……」
「防御魔法は不要だと言っただろう。トイレじゃないならさっさと座れ」
「あ、あ……ああ」
なんだ、今のファイアーボール……? あの巨大さからして、馬鹿みたいに威力が高いファイアーボールだと思ったのに、全く威力がなかった。むしろ無、空気をぶつけられた程度の威力だった。全く意味がわからない。なんなんだ、このクソメガネは……!
「得意の分析とやらの結果を俺に言ってみろ」
「え~……。魔力が、ほとんど使われてなかった~……かなぁ……?」
「不正解だ。魔力はそこそこ使ったが、隠蔽した。1号、お前は何か感じたか?」
「はぁ!?」
なんで急に俺へ話を振るんだよ!! まあ、当たった張本人ってのもあるか……。当たって感じたこと、かぁ~……。
「派手な見た目だったくせに、威力がゴミカスだった。そよ風みたいな威力だった」
「そのまんまだな、3点だ。2号、お前は何かわかったか?」
「ひぇええ!?」
ぼけーっと見てただけのこいつじゃ、なんもわかんねえだろ。こいつ、それをわかってて話を振っただろ。見た目通り陰湿な野郎だな。
「えと、えっと……! 完璧な球体でしたぁああ!!」
「…………」
「わぁ~……」
「正解だ。俺のファイアーボールは1号の使ったボロボロカスカスのファイアーボールとは異なり、完璧な球体だった。他に何かわかったことはあるか?」
「ファイアーボールと唱える前に、魔法陣が完成してましたぁ!!」
「それも正解だ。俺は詠唱による魔法の発動をしていない。詠唱はブラフだ。他は?」
「ガワは巨大なファイアーボールでしたが、中身は空洞でしたぁああ! ひぃぃい……!! ごめんなさい、ごめんなさい!!」
「すべて正解だ。2号、お前は良い筋をしている。今日からお前の名前をウサギとする。ビビっているようで状況をしっかり分析出来ているウサギだ」
「う、さ……?」
はあ……? こ、こいつ、あの短時間でそこまで読み取ってたのか!? ビクビクしてるだけでなんも出来ねえ奴だと思ってたのに、なかなか大した奴じゃないか……? いや、なんでこいつが落ちこぼれのクラスにいるんだ? これだけ優秀なら、Aクラスあたりにいてもおかしく……いや、Sクラスにだって……。
「それと3号、お前……防御魔法は不要だと言ったのに、こっそりと防御魔法を構築して1号を庇ったな?」
「ええ~……。絶対バレてないと思ってたのに~……」
「あれはウサギが分析した内容を理解した上で、しっかりとした防御魔法を構築しなければダメージが入る特別なファイアーボールだった。それを1号にダメージを負わせず防いだ時点で、お前は分析を完了していたというわけだ。無能なフリをした有能、今日からお前の名前はタカだ」
「や~ら~れ~た~……」
「1号、お前は煩い。だがクラスメイトの危機に身を挺して庇うその勇気、称賛に値する。今日からお前の名前はライオンだ」
ラ、ライオン……!? ライオンって、まさかこの俺の名前か!? この野郎、どこまでもどこまでも気に食わねえ……!!
「あのなぁ!! 俺にはラン――――ッ……!?」
「黙れライオン。それとも落ちこぼれ1号に名前を戻すか?」
こ、この野郎!! 声が、出ねえ……!! 魔法の詠唱も出来ねえ、息が出来ねえ!! し、死ぬ……!?
「…………う、ぁああ!? はぁ……はぁ……!? くっそぉ……!!」
「よろしい。お前達のことは大体理解出来た。では、逆にお前達から俺へ質問したいことはあるか?」
「てめえ、何者なんだよ!!」
「かなり頭の悪い質問だなライオン。しかし、物覚えの悪いライオンのために何度でも答えてやろう。俺の名前はブラック、アリーシャ魔法学校に落ちこぼれ教師として雇われた新米教師であり、魔法使いだ」
くそ、くそっ!! マジで馬鹿にしやがって!! いつか絶対吠え面かかせてやる!! ぶっ飛ばしてやるからな!!
「ああ、あの!! ぎゃ、逆に、ブラック先生の得意魔法は!!」
「良い質問だウサギ。俺に得意魔法はない。他に聞きたいことは?」
「え、ええ……!?」
「あ~じゃあ~……」
得意魔法がないってどういうことだよ!! お前教師じゃねえのかよ!!
「使えない魔法はなんですかぁ~?」
「…………ふっ」
なんだ、こいつ……今、笑ったか……!? この冷血クソメガネ、笑うことあんのかよ。
「魔法を教える者に対して、使えない魔法はなんですか……だと?」
「え、え~っと、まあ、何系統かは使えないんじゃ~……?」
「系統? 魔法に、系統だと? 非常に馬鹿馬鹿しい発想、痩せた考え。いかにも落ちこぼれが好きそうな考えだ」
「…………どう、いう、こと~……ですかぁ~?」
マジでなんなんだよ。そのクックック……みたいな笑い方はなんなんだ? この質問の何が面白いんだよ。
「魔法使いとは、魔法を使うから魔法使いなのだ。使えない魔法がある者が、魔法使いなどと名乗るものか」
「えっ……えっ……」
「そ、そそ、それって、つつ、つまり……!?」
「…………マジかよ」
じょ、冗談じゃ……。こいつの考え方がその通りだってんなら、こいつはさっきからずっと……自分のことを魔法使いだって……。
「お前達は歴史が嫌いなようだな。ではまず、歴史の授業から始めるとしよう。1000年前、賢者アリーシャ率いる至高の魔法使い達12人によって封印されたとされる、最強最悪の魔法使い……魔王と呼ばれた魔法使いの名前は?」
おいおいおいおい……。いや、まさか、ありえない。そんなわけ、あるかよ……。いやでも、だけど……!! いくら違う、そんなわけがないと思おうとしても、俺の本能がどうしてもそれを否定しきれない!!
「最強最悪の…………」
「魔王……」
「ブラック・カオス……!!」
「カオスの名は捨てた。今はただのブラックだ。俺も秩序を重んじるようになったのでな、混沌の名はもう要らん。さて、今回の歴史の授業は短いがこれで終わりだ」
俺達の目の前に居る男が、あの伝説の魔法使い……魔王ブラック・カオス……!? ありえるのか、1000年だぞ!? 1000年、封印が解かれたなんて話は一切聞いてない。それが、魔法学校で教師を? ありえない!! ありえないことだ、世界を破滅寸前に追いやった魔王が……こんなところで、教師なんて……。
「これから3年間で、お前達には魔法使いになってもらう。当然、俺が定めている魔法使いに、だ」
「えええ、ええっと、わわ、私達は落ちこぼれでぇ……!!」
「そうだよ~無理だよぉ~……」
「俺達はCにすら満たない塵だぜ!? あんたが言う魔法使いになんて、到底……!!」
「ふむ、俺の見立てではお前達は落ちこぼれではない。あんなSだのAだのとかいう狭い器では、到底受け入れきれないほどデカすぎる存在なのだと、俺は確信している。そのためにはまず、こんな粗末な教室では狭すぎるな」
今度は、何をしようってんだよ! もう何をされても驚かねえぞ。どうせ、この粗末な教室があら不思議~! 一瞬でキレイになっちゃいました~とかやるんだろ? どうだ、ええ!? おい!!
「こうしよう。お前達がこの教室に入った時、自動的に転移するようにしてやる。では、グレーターテレポーテーション」
え、今なんて言った? てん、い……?
「はわ、はわわわわ……!? はわわわ!? ここ、ここここ、ここっ」
「ここ、どこ~……!?」
「おお、お、おい!! ここは、なんだこりゃああ!?」
一瞬で教室から、ど、どこだここ!? 学校の中じゃねえ、ここは……このクソ広い、城の中みたいな場所は……ま、さ……かぁあああ……!?
「ようこそ、アリーシャ魔法学校の特別教室……魔王城へ。改めて、入学おめでとう諸君。これから3年間、アリーシャ達を超えるような魔法使いを目指し、大いに励み給え」
「ま……」
「おう……」
「じょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「やかましいぞライオン。教室では静かに」
こ、ここ、ここが、この魔王城が、これから3年間お世話になる……特別教室だぁああああああ!? はああああああああああ~!? あ、ヤバい、なんか目眩がしてきた……。
「せ、せんせ……。なんか、気持ち悪い……ですぅ……!」
「タカさんもね~気持ち悪くなってきたねえ~……」
「俺も、目眩が……!!」
「お前達がぬくぬくと暮らしている場所より、1000倍は魔力濃度が高い場所だ。頑張って適応しろ。出来なければ死ね」
適応出来なければ、死ね……!? 今こいつ、死ねって言ったか!? うわあ、絶対本気で言ってやがる。完全に冗談じゃないって目だ、この濃度に適応出来なければ、ガチで死ぬ!!
「では、次の授業だ。実地訓練として、この魔力濃度に適応しろ。タカとウサギは既に適応をしようとしているが、ライオンはこのまま放置すれば死ぬな。タカ、お前は我が身を犠牲にして庇ってくれたライオンを見捨て、自分だけが適応して助かろうとするつもりか? まあ、それもまた1つの選択だな」
「うっ……」
やべえ、意識が……! 頭が、割れそうに痛え……!! くそ、こんなところで終われねえ……。こんな、ところで……。こん……な…………。
俺の、魔法学校生活は、始まった……ばっかりだっていうのに……よぉ…………――――。