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第十章 ──意志の灯火
ユウの意識は、柔らかな繊維の隙間を探しながら、外界へと触れようとした。
その手応えはあまりに遠く、まるで厚いガラスの向こう側を叩くようだった。
でも、少しずつ、少しずつ──
外で、自分の体が躊躇うように動きを止めた。
道端でしゃがみこみ、動かなくなる子犬の着ぐるみ。
「どうしたの? 元気ないの?」
「だれかー、この子、動かないよ!」
人々がざわめく中、ユウは必死に、心の中で叫び続けた。
「ここにいる! 中にまだ、僕がいるんだ! 僕は犬じゃない、ユウ・ミナトだ!」
その声が、どこかへ届いたのか──
着ぐるみの目元から、一筋の“涙”が流れ落ちた。
それは汗でも、機械の結露でもなかった。
確かにそこに、誰かの心があった証だった。