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第六章 ──融けていく
夜。
ユウは月明かりの中、静かな園内を歩いていた。誰もいない。
だが着ぐるみの内側は、じんわりと温かく、なにかが──溶けているような感触があった。
「……ああ、指が……」
手の先が、いつの間にか肉球になっていた。指の間の関節が消え、ふにゃりとした感覚だけが残る。
「目も……ぼやけてきた。言葉が……」
「ぼくは……ぼくは……ゆう……わん……」
記憶が遠のいていく。代わりに胸の中に溢れてくるのは、ただひとつ──
「誰かに喜ばれたい」
「撫でてもらいたい」
「ここにいていいと思いたい」
最後の夜。ユウの人間としての意識は、子犬の着ぐるみの奥に静かに沈んでいった。