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魔砲艦隊司令官は……  作者: 魔砲教会総務部・広報部
艦隊司令前史。教会入隊から今に至るまで
4/4

前夜

《魔砲教会第一艦隊旗艦【シュトゥルムヴィント】艦首甲板》

《ヨイツキ艦隊司令視点》


「……此方にいられましたか。艦隊司令」

「ナストレ艦長か…」

「相変わらずの表情に御座いますが、何か優れないのですか?」


私が過去の事を思い出しながら、細かい事とか昔の事が前よりも思い出しにくくなったな、なんて思いながら魔族の襲撃以来、綺麗な空を作ることがなくなった夜空を見ながら思いふけていると、後ろから声がかかった。


彼女は私の魔砲艦隊第一艦隊旗艦【シュトゥルムヴィント】の艦長である『ナストレ・バランリア』だ。階級は教会大佐で、旗艦級の艦を何隻も指揮を執ってきた過去を持つ。私の2期生下で魔砲教会へと入隊し驚異の速度で出世した天才。けれどもそう思われているだけで実際はかなりの努力家。魔砲の顕現もかなり苦労したらしく、誰もいない時間でも暇さえあれば訓練に励んでいたという。


……でも何だろう?他の艦隊司令とか歩兵部隊、砲兵部隊の打ち合わせとかはまだ先だと思うけれど。


「恐らく、何故此方へといらしたかとお考えでしょう。答えは特に、です。夜風に当たりたい時は誰だってあることでしょう」

「そうね……。特に夜はね」


そう一言言い終えると、私の側へと何も言わずに近づき、寄り添うナストレ艦長。慇懃無礼に近い言葉を交わす彼女だが、こういった時には何も言わずにただ居てくれることが良くある。それに何度も救われた事は、すこし照れるから話したことは無い。

けれど何度かはお礼を言ってるけど、何時も『私はただそこに居ただけです。感謝されることは何もしておりません』って言うから受け取ってもらえない。でも膨れ上がる感謝之気持ちは何処かで出さないと、強引にしてしまう事があってしまうかもしれないから、何処かで受け取ってもらえると嬉しいのだけれどね。


「……ねぇ、艦長」

「はい。何でしょう?艦隊司令」

「私はしっかりやれている?」

「えぇ。それは第一艦隊の士気が物語っていますよ」


何時もこう。夜風に当たりながら、やれているか再確認をする。他の艦隊教会員に聞こうとも肯定の返事しか返ってこないから、何時しか艦長にしか聞かなくなったこの質問。今回は肯定の返事が返ってきたが、時たま否定的な返事も返ってくる。けれどもその返事は的確で、それでいて私の意識外のことが多く、他の人から見て初めて気付かされる事も多かった。

そして何時しかこの時間が、かけがえのないものへとなった。艦長からしてみればただの会話の一幕だと思っていそうだけど……まぁ、私がそう感じていれば良いから、口にしない。


「……それにしても今宵は一段と気分が下がっているご様子です。…本当に何もなかったのですか?」

「……………」

「…黙っていられては私も寄り添えません」

「………また?って思われるかもしれないけど、昔の事思い出してた」

「………」

「フフ…そこまで嫌な顔しなくてもいいのよ」


同期の中で、イジメに加担せず私の味方であり続けてくれた、信頼のできる艦隊司令官と地上部隊司令部、そしてナストレ艦長にしか私の過去は話していない。艦隊司令官とかは話しを聞いてただ無言で抱き締めてくれたが、ナストレ艦長だけは怒りを顕にしながらも最終的には泣きながら抱き締めてくれた。

それ以降、少しずつ話しているが、細かい事とか、昔住んでいた街、大好きだった筈の両親の事を忘れかけ始めている為、日記帳に誰にもバレないように書き残している。けれども思い出すほどに、何かの思い出が切り取られたかのように思い出せなくなる事を、誰も居ないからと呟いていたら運悪く艦長に聞かれてしまい、訳を話した。

………そしたら『思い出せるよう、本官も手伝います』と懇願のようにされてしまい、昔の事を思い出していると良く艦長にはバレる。


「ただちょっと思い出せなくなってね。……今度は、艦隊尉官時代のアレコレがね…」

「か……艦隊尉官時代の事を…?一大事ではないですか!!」

「そ、そんなに驚かなくても……大丈夫。消えたのは嫌な思い出だから。戦術とかは全く消えてないよ」

「………魔砲教会十三式空間魚雷の射程は?」

「40kmよね?当時は戦艦級の砲撃射程以上の魚雷って覚えてビックリしたわ」

「艦隊旗艦を中心とし、バツマークの様に陣形を変化させる陣形陣の名前は?」

「【菱守護の陣】よね?名前がそのままだから覚えやすくて助かったのよね」

「……オーソドックスな問題でしたが………恐らく大丈夫なのでしょうね。艦隊司令ならば分からなくなったらそのまま言いますし」


…ま、どちらにせよ、切り取られる記憶には一定の法則がある。〝ある一定以上の仲を育んだ者〟〝自身の考え方や精神に影響するほどの者〟だと言うこと。

両親や魔砲軽巡洋艦【アランダリア】艦長とその妹さん、知らされていない囮作戦、前任と第三艦隊司令官等々、その人達は私の記憶から何かしらの部分だけ切り取られている。

事柄や性格、言動に持っている武器、教えてもらったこと等は覚えている。けど、本当に一部部だけ切り取られて、それが恰も本当の記憶であるかのようにしか思い出せなくなる。


「………流石に今季は冷えるでしょう。中へ入られては?」

「…………そうしようかな…あぁ…でも少し待って」


胸ポケットから煙草を取り出し、煙を吸う。愛用している煙草は軽く、一本程度吸うなら大して時間がかからず、煙の匂いもつかない物で、こうして外で吸うのに重宝している。


「煙草はお身体に悪いと思いますが……本官も同じですしね」

「………艦長も吸うの?待ってね、今ライターを…」

「その必要はありません」


冷たくも優しさを感じる顔が近づいたかと思えば、数秒待った後、離れた。


「………火は…既にあったので」






























ーーーーー

《【シュトゥルムヴィント】艦内》


「…明日は午前より第一艦隊の訓練計画を、午後からは第二、第四艦隊司令要員達と、支配領域拡大作戦の詰めとなっております」

「……何度も言うけど…貴女は私の秘書じゃないのよ?嬉しいけど……貴女の仕事が増えちゃわない?」

「元副司令が魔族側へと逃げた挙げ句後任を認めていなかったので……………すみません。それに、本官が自ら進んでやりたいのです」


私の元第一艦隊副司令■■■■は、あまり仕事をせずに、その上魔族側へと寝返ってしまった。その結果、第一艦隊には副司令が存在していない為、艦隊行動が取りにくくなってしまった事がある。その結果、ナストレ艦長が立候補をして、臨時の副艦隊司令と、現職の旗艦艦長を兼任している。私は何度も止めるように進言したが、他に当たれる人員もおらず、結局今に至るまで黙認という形で副艦隊司令は、不在だが居る。という何とも不思議な形に落ち着いてしまった。声もかけているが、ナストレ艦長に遠慮しているのか私に対して対立意見を放つのが嫌なのかわからないが、本来の副艦隊司令は未だ見つかっていない。

……でも、どこか立候補せずに安心している私がいるのが、とても嫌だ。


「貴女が良いならいいわ。……それよりも、一つ聞いていい?」

「何なりと」

「私から見て、第三、第四、第六、第七魔砲駆逐艦隊の練度はかなり良いと思う。艦隊運動や空間雷撃や不慮の事故対応、航空からの奇襲対処や空中機雷敷設、等求めている行動に対して万全の解答をしてくれる。次の作戦にはこの四艦隊の何れかを先鋒艦隊旗艦に据えたいと思う。何処がいい?」

「その四艦隊を見るとは…やはり艦隊司令はお目が高い。本官の立場から見れば、先鋒艦隊旗艦を命じても差し支えない艦隊は、第六魔砲駆逐艦隊旗艦【ラート・シックサール】かと思います。第六艦隊は挙げられた四艦隊の中でも抜群の艦隊運動をします。その操艦能力は精鋭と称される第一戦隊の弾幕を掻い潜るほどです」

「………」

「更には、対空砲撃や空間魚雷戦にも長けており、魔族側の反撃をいなし、その倍のお返しをやってくれるかと思います。ですが、他三艦隊も負けておりません。どの艦隊を先鋒艦隊旗艦に据えても、彼彼女らは達成するかと」

「…つまり?」

「どの艦隊を選んでも問題ありません。彼彼女らの練度は、私が保証します。この目で見てきましたので」


艦長が私に向かって、見せつけるように眼を開くと独特な紋様が刻まれた目が見えた。艦長にしか持っていない魔法である〝魔眼〟。嘘か本当か見破る他、努力の具合や魔法の種類を瞬時に把握できる、前線の兵士からしてみればなんとも羨ましい魔法だが、聞けば常時発動しているから魔力が無くなるとか、嘘ばっかり聞いているから目を摘出したくなった、とかである。

しかし、彼女に認められると言うのは、彼女から見れば嘘や偽装はしていない事であり、10割の力を必ず出してくれるだろうという、ある意味での信頼があるのである。


「…なら、その時の熱意でも聞いて決めようかしらね…………その…」

「艦隊司令の為なら〝魔眼〟はしっかりと使いますよ。艦隊司令が気に病むことではありません。お任せください」

「………頼もしいわね」


……本当に頼りになる。

…第一艦隊は、私が言うのも何だけど練度が高い。一兵卒から艦長に至るまで高い練度でまとまっていると思う。けれども特化している箇所の見分けが難しく、私の見極めの能力が低い事から艦隊の采配を間違えてしまい、一部の艦隊を危機にさらしてしまったことがある。あの時はたまたま私が近くに居たから、敵艦に乗り込んで鹵獲して戦闘を終わらせたが……もし、その近くにいなかったら……想像もしたくない。…想像はついてしまうが。

そこで艦長が〝魔眼〟の使用を提案してきて、現在は私の采配と艦長の〝魔眼〟で見極めている。でも、やはりイレギュラーは起こり得るもので、必ずしも当たるわけではないため、私も艦長も見極めは慎重に行っている。


「……ついちゃったね。艦隊司令室」

「離れるのがお嫌いで?」

「そうじゃないけれど……誰かと話した後、寂しくなることあるじゃない?」

「…………夜は直ぐに明けます。横になって、目を瞑り、10を数えるだけで明日は訪れるものですよ」

「……フフ………そうね。…うん、そうね。おやすみなさい」

「えぇ、おやすみなさい。艦隊司令」



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