表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーーープ  作者: 亀ピ
2/2

第一幕:崩れ落ちるもの

第一章:日常

あの日の休み時間、教室内の前方の広いスペースは、普段の何気ない遊び場であった。そこで生徒たちはいつものように、軽い気持ちで遊びに興じていた。

 

その遊びは、ただの何気ない遊び――海外やっているのをよく見る、ビンタの大会。そのアレンジバージョン。ジャンケンで負けた者が、自分の椅子に座って、びんたし、耐えれなくなるまで続けるというもの。


「じゃんけんぽん!」


掛け声とともに、俺の手は「グー」を出した。だが、目の前の男は当然のように「パー」を出す。


「おー、また俺の勝ち!」


その瞬間、クラスの何人かが笑った。わかりきっていた結果だった。負けるのは、いつも俺。


「ほら、座れよ」


そう言われ、俺は教室の前方に置かれた椅子に座る。ここは教壇の横。もちろんやりやすいようにするために持ってきた。


「じゃ、いくぞ」


やつは笑いながら、手を振り上げる。俺の頭上に影が落ちたかと思った次の瞬間――


バシンッ!


乾いた音が響く。耳がキーンとし、わずかに視界が揺れる。


「うわー、めっちゃいい音したな!」

「お前、リアクション薄くね? もっとこうさぁ、痛がらないと!」


周りの笑い声が、空間を満たす。


もう1発くる!


俺はそう感じて、反射的に仰け反った。その勢いで、座っていた椅子の脚が軋む。


「えっ」


次の瞬間、俺の体は後ろに傾ぎ、支えを失った椅子がバランスを崩す。


ガタンッ!


重力に従い、俺の身体が床に叩きつけられる。だが、それだけでは終わらなかった。


バンッ――


俺の足から弾かれた上履きが、教室の後ろにある窓へと飛んでいった。


パタン。


乾いた音とともに、俺の靴は教室の外へと消える。


「やっば! 飛んでった!」

「重さで、椅子も壊れてるんだけど!」


やつと、その取り巻きが爆笑する。彼らにとっては、ただの面白い出来事。クラスの空気も、少し盛り上がったようだった。


俺は床に転がったまま、天井を見上げる。


椅子の脚は一本折れていた。俺の体重と仰け反りの勢いに耐えきれず、崩れたのだ。


周囲の生徒たちも、このありえないような光景を予想外の出来事として、面白そうに、笑っている。そしてそいつは心から楽しそうに笑いながら、俺に言った。


「お前、最高だよ。マジで」


その笑い声と言葉が耳にこびりつく。


俺は痛みと恥ずかしさ、そして己の無力さに打ちひしがれながらも静かに立ち上がった。


そして上履きを取りに教室の外へと出ていく。


世界は何も変わらない。俺が椅子から落ちたくらいで、誰の人生も揺るがない。


俺の靴が窓の外に消えていったように、俺の尊厳も、ただ風に流されていく。


でも――


(あの時見た崩壊が、現実ならよかったのに)


そんなことを、ふと考えてしまう自分がいた。


あの出来事の時、俺は心の中の何かが崩れ、それとリンクするように教室が崩壊するように見えていた。


だが、実際は何も起こらず、俺はただ、あの日々を耐え続けた。

名前募集してます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ