第一幕:崩れ落ちるもの
第一章:日常
あの日の休み時間、教室内の前方の広いスペースは、普段の何気ない遊び場であった。そこで生徒たちはいつものように、軽い気持ちで遊びに興じていた。
その遊びは、ただの何気ない遊び――海外やっているのをよく見る、ビンタの大会。そのアレンジバージョン。ジャンケンで負けた者が、自分の椅子に座って、びんたし、耐えれなくなるまで続けるというもの。
「じゃんけんぽん!」
掛け声とともに、俺の手は「グー」を出した。だが、目の前の男は当然のように「パー」を出す。
「おー、また俺の勝ち!」
その瞬間、クラスの何人かが笑った。わかりきっていた結果だった。負けるのは、いつも俺。
「ほら、座れよ」
そう言われ、俺は教室の前方に置かれた椅子に座る。ここは教壇の横。もちろんやりやすいようにするために持ってきた。
「じゃ、いくぞ」
やつは笑いながら、手を振り上げる。俺の頭上に影が落ちたかと思った次の瞬間――
バシンッ!
乾いた音が響く。耳がキーンとし、わずかに視界が揺れる。
「うわー、めっちゃいい音したな!」
「お前、リアクション薄くね? もっとこうさぁ、痛がらないと!」
周りの笑い声が、空間を満たす。
もう1発くる!
俺はそう感じて、反射的に仰け反った。その勢いで、座っていた椅子の脚が軋む。
「えっ」
次の瞬間、俺の体は後ろに傾ぎ、支えを失った椅子がバランスを崩す。
ガタンッ!
重力に従い、俺の身体が床に叩きつけられる。だが、それだけでは終わらなかった。
バンッ――
俺の足から弾かれた上履きが、教室の後ろにある窓へと飛んでいった。
パタン。
乾いた音とともに、俺の靴は教室の外へと消える。
「やっば! 飛んでった!」
「重さで、椅子も壊れてるんだけど!」
やつと、その取り巻きが爆笑する。彼らにとっては、ただの面白い出来事。クラスの空気も、少し盛り上がったようだった。
俺は床に転がったまま、天井を見上げる。
椅子の脚は一本折れていた。俺の体重と仰け反りの勢いに耐えきれず、崩れたのだ。
周囲の生徒たちも、このありえないような光景を予想外の出来事として、面白そうに、笑っている。そしてそいつは心から楽しそうに笑いながら、俺に言った。
「お前、最高だよ。マジで」
その笑い声と言葉が耳にこびりつく。
俺は痛みと恥ずかしさ、そして己の無力さに打ちひしがれながらも静かに立ち上がった。
そして上履きを取りに教室の外へと出ていく。
世界は何も変わらない。俺が椅子から落ちたくらいで、誰の人生も揺るがない。
俺の靴が窓の外に消えていったように、俺の尊厳も、ただ風に流されていく。
でも――
(あの時見た崩壊が、現実ならよかったのに)
そんなことを、ふと考えてしまう自分がいた。
あの出来事の時、俺は心の中の何かが崩れ、それとリンクするように教室が崩壊するように見えていた。
だが、実際は何も起こらず、俺はただ、あの日々を耐え続けた。
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