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プロローグ:崩壊の始まり
世界は、音もなく壊れていくものらしい。
──いや、本当に無音なのか? それとも、あまりにも唐突すぎて、耳がその現実を受け止めることを拒否しているのか。
目の前の空間が裂け、景色が溶けるように崩れていく。道端の標識は砂のように砕け、地面は波打つ水面のように形を失っていく。あれほど当たり前にそこにあった「世界」が、まるで夢の残骸のように消えていくのを、俺はただ呆然と見つめていた。
――よかった。これで、終われる。
誰かの叫び声が聞こえた気がする。けれど、それは俺の知る誰でもなく、ただの雑音だった。
世界が壊れるのなら、すべて無かったことになるのなら、それでいい。俺の人生は、きっとこの瞬間のためにあったのだ。
……そう、思っていた。
だが、終わりは訪れなかった。