ふた爪。接触。
よろしくお願いします。2話です。だらだらとながながとの書き込み。
「リュウちゃん!」
男の子少年、名前はリュウ。いつもののように巨大樹を見つめていた。その時のリュウは何も考えていない。ただ、ずっとぼーっとしているのだ。母親の声が耳に入るとようやく我に返る。
リュウの外見は人間に対し、上半身は人と変わらないが下半身は蛇である女性。その女性はリュウにとっての母親である。リュウは母親の前に近づいて返事をした。
「リュウちゃん、おつかいお願い。」
母親が握っている、藁で作られたバッグがリュウの両手に流れる。持たされると年齢的にまだ軽々と持ち上げられないと脳内で警告が鳴る程の重量。中からカチャカチャとガラス同士がぶつかる音が聞こえる。
「村の道具屋さんに届けて来てくれるかい? 今日はあたし行けそうにないのよ。外の魔物達がざわついててねぇ。様子を見に行きたいのさ。」
村やリュウが住んでいる洞窟周辺は母親の魔法や魔除け道具などで近づけさせないようにしている。なので一定の距離は安全だ。逆に言うと魔法や道具の効果がなくなれば危険度が上がる。何度か母親が訓練として魔物と戦わせた事があるリュウだが、まだ1人で戦えるレベルではない。
稽古で使用する木刀を母親からリュウへと渡る。念の為だと、わざわざ持ってきてくれたようだ。
これも修行だと思い込んで『わかった。』っと元気よく返し、両手ででバッグを握りと木刀を落ちないよう腰に身に着けて出発しようとする。
「今日それ渡したらお金貰えるから、帰りに好きな晩御飯買って来てもいいよ。」
母親が作る物は基本村で物々交換をしての生活。今回お金が貰えるということは道具屋の依頼なのだろう。お金も当然生活に必要な物だ。
「お酒もよろしくね。」
……多分7割のお金はお酒に交換だなと、小さい溜息が無意識に出るリュウであった。
母親が作った物を道具屋に納品完了する。村まで魔物に会う事はなかったが数か所の急勾配とぐねぐねとした道のおかげもあって、全身の筋肉が悲鳴を訴えられている汗だくのリュウである。
道具屋の主人からお金を貰い、そしておつかいのご褒美という水もたらふく頂く。
しばらく道具屋で休ませてもらったらリュウは、さっきまで重かったバッグに食材屋に行っては自分が食べたいのを買いに、酒屋に行っては母親が好きなお酒を買う。残ったお金は少ししか残らずバッグは持ってくる時より軽いが再び太く大きくなった。
今日はご馳走だなと楽しくてしょうがないリュウ。村から出ようと出入り口まで歩いて、楽しい気持ちのまま途中で何気なく空を見上げた。
1日中晴々で雲も数える程度しか浮いていない。雨が降ったのは1週間前だっただろうか。平然としたいつもの大空。
――――違う。――――
ピタリと金縛りのように動かなくなったリュウ。心の奥の奥がざわつき段々恐怖心が全身を覆うような感覚に襲われた。
「リュウ君?」
誰かに呼ばれて大空から逃げるように眼が動けるようになり声の持ち主を一瞬探した。
母親……ではなかった。稽古場でよく会話もする幼馴染の女の子だった。
「どうしたの? 何か空にあるの?」
リュウの真似をするように女の子も空を見た。
「今日稽古休みだったからリュウ君に会えないなぁって思ってたけれど。」
空の次にリュウの顔を見つめる女の子。
「会えて嬉しい。」
「あ、ああ…うん…う、うん。」
リュウはどんな事を言えば分からず混乱した言葉が生まれる。女の子の姿がいつも見慣れた稽古着ではなく赤いスカート姿だと知ったのは『会えて嬉しい。』と言われてから。認識と同時にドキッとしてしまい混乱したようだ。
「お祈りの時間なんだけど家に忘れ物しちゃって、教会に戻るとこ。そうしたらリュウ君を発見して声掛けちゃった。……もう帰るの?」
「う、うん。」
「そっかあ。……じゃあまた明日ね。」
ドキドキ中のリュウと何か物足りなさが分かるような言い方の女の子のやり取り。
「リュウ君。あ、あのね。明日、稽古が終わったら、一緒に遊ばない?」
「? お祈りはしなくて良いの?」
「大丈夫だよ。 1日くらい休んでも神様は怒らないってママが言ってたし。」
「…そうなんだ。良いよ。遊ぼう。」
リュウの返答に女の子が大いに喜ぶ。
「ホント!? 約束だよ!」
上半身がウキウキと喜ぶ動作とにんまりとした女の子の笑顔。
「じゃあね! リュウ君また明日!」
またね。と女の子の手がリュウに訴え、彼女は自分が向かう場へと走ってゆく。
村からの帰り。リュウはとことこ歩ていた。しっかりと木刀と買った物を入れたバッグを持ち運んでいる、忘れ物はしていない。でも何か忘れたような気がしていて村に戻りたいような足運びをしていた。
途中、村全体が見渡せる丘がある。リュウはそこで一休みするように座り込む。
時間はもう夕日へと近づき太陽の色が変わろうとしている。普段なら母親の元へ帰り魔法の練習をしているのだが。
リュウはずっと村と空を見つめていた。
ゴーン、……ゴーン……。村から、教会の大鐘の音がリュウの所まで響いてくる。
鐘の音がキッカケでリュウの腰がゆっくりと上がる。
帰ろう。リュウは荷物を担いで村に背を向ける。
…………――――ヒュゥゥゥゥゥ。
!? 背を向けた村に目線を再び送る。何かが降ってくる音。憎悪と悲愴が混じっての、意味は分からずとも気持ち悪い気分がのしかかってくる。
……村の上……空!!
黒い球固形が村へと、夕日空に亀裂を入れるように糸を引いてゆくように、落ちる。
村の地に接触した時、鈍く、でも高い衝撃音が鳴り響いた。落下地周辺の地面や建物や植物が黒色へと変色しているのがリュウのいる場所からでも確認ができる。
リュウは買い物バッグを持たず、木刀だけ握り締めて村へと一直線に走り出した。
助けなくては! リュウはそう直感し、いつもの道ではなく近道も兼ねて藪の中を走り、険しい岩山を飛び降りて村へ村へと走る。切り傷や打ち身を受けても痛みを堪えて足を動かす。
リュウの身動きは特に速いというわけではないが走り出して十数分も経っていない。村の出入り口までもう少し。そこで再び……。
ヒュウゥゥゥゥゥゥ―――………。
上を見た。空に2つの黒点が急速度で物体が降下。気持ち悪い球体がリュウの眼に焼き付かせるように、段々と大きくなりそして目の前で地に衝突。もう1つの黒点は村入口を襲っていた。
「!?」
リュウは吹き飛ばされた。黒点の衝撃音と衝撃波と爆破で。
更に空気を濁らせた泥のようなのが身体を覆う。
「ガッ!?」
激痛が走る。身体的な痛みではない。いや、その痛みも確かにあるがそれよりも上回る、精神的痛み。
目眩、嘔吐感、だるさ、寒気。気を失いかけ…………いや、耐えられなかったようで、数分間リュウは気を失った。
2話やっと書き終わりました。1話からの間が長いと思いますが気長に書こうとしているので気に入った方は長々とお待ちになってくれたら嬉しいなあと思います。それでは。