協力
「──という訳なの。シドのことをずっと騙すような形になってしまって、本当にごめんなさい」
カノンは一通りの事情を話すと、そんな風に謝罪してくる。
薄暗い部屋の灯りに浮かぶカノンの表情は、本当に申し訳なさそうだった。
「え、いや、その。そんなのは全然、大丈夫、です。俺こそ、さっきは……」
そこまで言いかけて、瞼の裏に浮かぶ肌色な映像に、俺は思わず口ごもってしまう。
「あ──さっきのは、私も油断しちゃってたから。だから、忘れてくれると、嬉しい」
「は、いっ。もちろんっ、です。もう完全に、記憶の彼方に消えましたっ」
「ふふ。シド、いつもみたいに話していいよ?」
これまでのシドの記憶の中のカノンとは全くちがう、柔らかな笑顔で告げると、一変、カノンは真剣な表情になる。
「で、シドには本当に悪いと思っているんだけど……そんな私がお願いなんて本当に、なにいってるの、と思うだろうけど」
「う、うん」
「私が女だってことは、その……」
これまでのカノンでは見たことのないほど、もじもじとした姿を見せる。
それはとても女の子らしい姿だった。
そして、そんな風にカノンに言われてしまっては、俺は他にどうしようもなかった。
俺が今から言おうとしているのは、ゲームの主人公と実はほぼ同じセリフ。
しかし、他に何と言えようか。このシチュエーションで、女の子にこんなことを言われて、他に答えようはないだろう。
「ああ、もちろん。誰にも言わない。それに、出来るだけ協力も、するから」
「──ありがと。良かった。シドにそういって貰えて。さ、もう遅いから、寝ようか」
「──おう」
そういって、部屋を区切るように設置されたカーテンを閉めるカノン。
カーテンでカノンの姿が見えなくなったことで、俺はこっそりとだが、ほっとしてしまう。
俺は手早く寝る支度を終え、寝巻きに着替える。
そうしてベッドに潜り込んだところで、カーテン越しにかすかにカノンの声が聞こえる。
「……おやすみ、シド」
「ああ、おやすみ」
その柔らかな声音に、俺は再び、ドキドキとしてしまう。
静かな室内に、カーテン越しに衣擦れの音が聞こえてくる。
カノンがベッドに入っているのだろう。
やけに大きく聞こえたその音が止むと、今度は静かな寝息が聞こえてくる。
──はやっ。でもそういえばカノンって、前から寝付き、良かったよな。
一度意識してしまうと、もうだめだった。
どうしてもその可愛らしい寝息が耳について離れない。
こうして俺の転生初日は、眠れない夜となったのだった。