魔素暴走
ポタポタと赤い滴が静かに垂れていく。
頭痛はひしひしと増して、頭を締め付けられるようだ。
──痛い、けど。まだ大丈夫。ここから、だ
まだ、俺は裏ボスさんは見つけられていなかった。
なので、やることはただ一つ。パラメータ閲覧距離を伸ばしていく。
──わかってたけど、人が結構、残ってるな。つっ……
流れ込んでくる、生命体のパラメータ情報。沢山の人間に、植物。それと結構な数の生き物たちもいる。
──人間はどの存在もほぼ、混乱状態。植物類は異常はない。あといるのは、ネズミに、ネコ。犬に鳥たち。ここら辺は普通か……
今のところどの生命体にも異常は見当たらない。
どちらかと言えば、俺の方に異常が起き始めていた。
──なんだこれ、視界が歪んできた?
鼻から垂れる赤い滴が増えていく。
頭の痛みは一定値まで行って、変わらなくなったのだが、今度は目に映る情景が歪み始めてきた。視野の端から生じ始めた歪みが、今では全体にまで広がっている。
ただ、各生命体のパラメータ情報の位置にはその歪みは反映していないようだった。
歪む世界の中で、正常な位置を示し続けるパラメータ情報。
それはまるで、転生特典たるパラメータ閲覧が全ての主体で、俺の通常の視界、ひいては俺自身すらも、その転生特典の付属品だと言われているようだった。
視野の歪みがひどくなっていく。
もう、通常の視界はぐちゃぐちゃだ。全く判別出来ない。
俺の目には閲覧しているパラメータ情報だけが、歪み混沌とした世界の中、明瞭に映されていく。
それでも、俺はパラメータ閲覧の距離を伸ばすのをやめない。
裏ボスさん、いや、リニの、間近で覗いたあの瞳だけが、俺の脳裏に残っていた。
──いた、リニ、だ。え……?
そうして、俺はついに裏ボスさんを発見する。
そして同時に、魔素暴走というのがどういう意味かという事も、理解する。
裏ボスさんのすぐそばにいる、一瞬前まではこの街の住人だった存在。
それが体内の魔素の暴走によりモンスターへと変質していくのを、俺はパラメータの変化として閲覧してしまったのだ。