転生特典
──それで格好よく飛び出してきたんだけど、魔素暴走って何が起きるんだ? それと裏ボスさんはいま、どちらに?
俺は走り出してすぐに行き詰まっていた。しょせん、モブ生徒Aなのだ。物語の主人公のようにはいかないのは仕方ない。
「はぁ、息が、切れてきた。裏ボスさんが走ってったのは、こっちのはずなんだけど……」
周囲を見回すと、住人たちが慌ただしく動き回っている。
ただ、みながみな、鐘の音を聞いて避難しようとはしていない感じだ。
──混乱が広がってるな。そりゃそうか。しかし、これじゃあ誰かに裏ボスさんっぽい女の子が走ってきたか訊くのも無理そうだ……。
俺は大きくため息をつく。たぶん皆が自分のことで手一杯なのは容易に想像できた。
あと、俺に残された手段は一つだった。
俺の唯一の転生特典──ゲーム風のパラメータ、人等やモンスターなど複雑な生き物であればステータス、を閲覧すること。
そして、この特典は、対象は目に見える生命体のみ。なのだが、実は、距離には限界がなかった。
「というか、俺の方にわりとすぐ限界がくるんだよな……」
自嘲ぎみに呟く。そう、パラメータを閲覧出来る対象までの距離は任意で伸ばせるのだ。しかし、範囲は俺の視野で固定されていて、絞れないのだった。
つまり、距離を例えば三倍伸ばすと、元の二十七倍の体積の空間内にいる生命体のパラメータ情報が俺の脳内に流れ込んでくることになる。
少し範囲を伸ばすぐらいなら頭痛がして鼻血が出るくらいで済む。この前の校外実習の時などはそこまですらいかなかった。
ただ、これまでは鼻血が出た時点で止めてしまっていた。それ以上伸ばすのが、なんだか怖かったのだ。
「俺、モブ生徒Aなんだけどな……こういう気合いでなんとかするのとか、柄じゃないんだよ……」
俺はそこまで呟くと、とりあえず自分で大丈夫だと把握している範囲までは、パラメータの閲覧を始める。
──裏ボスさん、いない、な。魔素暴走ってのが何か分からないけど、そっちもそれらしいものは見えない……仕方ないかー
そうして痛む頭に手を当てながら、戦々恐々としつつ、俺はパラメータの閲覧対象できる距離を、ゆっくり伸ばし始めるのだった。