互いの道
「シド、これ」
鳴り響く鐘の音に驚くカノン。
「避難警戒? でもいったい何で? リニ、何か知ってるの?」
俺は何か知っているのかと、眼前、すぐ近くにある裏ボスさんの顔に向かって尋ねる。
本当に近くて、首を少しでも動かすと互いの鼻先が触れてしまいそうだ。
じっと熱のこもったような瞳をしていた裏ボスさん。至近距離にあるその瞳に見いられたようになってしまい、俺は目が逸らせない。
一瞬が、永遠のように感じられる。リニの瞳は、じっと熱い熱を帯びているようだ。
そして、たぶんだが、俺のことを心配してくれているのかと思われるような、気遣いの色もある。
しかし裏ボスさんは、ふっと視線を逸らすと呟くように告げる。
「──魔素暴走が始まる」
そのフレーズに大きく反応したのはカノンだった。
「魔素暴走! そうか、この前の校外実習はこの前兆だったのか」
カノンが裏ボスさんの言葉に、何かを合点したように呟く。
世界に満ちた魔素がスキルや魔法の力の元だという設定は俺も知っていたが、ゲーム知識では魔素暴走というのは出てこなかったはずだ。
何が起きるのか重ねて聞こうとしたときには、裏ボスさんは身を翻し、駆け出していた。
「あ……」
「シド、それとそこの女。はやく街から出て」
駆けながら告げるそんな言葉を残して、裏ボスさんの姿が見えなくなる。
「カノンのこと、話した?」
「私は言っていないな。未熟ゆえに、勘づかれてしまったのだろう──シドは、サーベンタスさんを追うのか?」
「え──」
俺はカノンに言われて始めて自分の意思に気がつく。
「そう、か。俺は追いかけなきゃと思っていたのか」
「なんだそれ……ふふ、全くシドらしい。行ってこいよ。俺は一度学園に戻る。こういう場合、学園も率先して住人避難の補佐を行うはずだ。俺はそれを手伝う」
さっき一瞬だけ見せた女の子の顔を消し去り凛々しく告げるカノン。
「わかった。カノンも気をつけて」
「互いに、な」
そういって拳を突きだしてくる。
俺はその拳に自らの拳を当てる。
そのまま互いに背を向けて、俺とカノンも走り出すのだった。