カフェ
「な、なあ。カノン。さすがにここで男二人は変じゃないか?」
俺はカノンが実は女の子だというのは重々承知の上で、敢えてそう尋ねる。
「なんだ。シドは、そういうことは気にするのか?」
あんなに悩んでいたのが嘘みたいにうきうきとした様子のカノン。
店内にちりばめられた可愛い物を一つ一つとても楽しげに眺めている。
店内はキラキラとしていて、お客さんも店員も俺の視界に入る限りは、全員女性だった。
「いや、どういう意味だよ。気にするって。それにカノンだって、一人では行きにくい風のこと言ってただろ?」
俺は自然と声を潜めつつカノンに話しかける。
男の俺が大声で話すことすら憚られる雰囲気なのだ。
カノンはその俺に合わせてくれているつもりか、同じ様に小声で返答してくる。
自然と顔を寄せ合うような形になる俺たち。
「シドとなら、私は全然平気だが」
「言ってる内容がめちゃくちゃイケメンで、なんかむかつくー」
「イケメン? よくわからんが……ほら、来たぞ」
どうやら、イケメンというフレーズは伝わらないらしい。
そういう世界観だったっけと転生ギャップに頭を捻る。まだこちらに転生してきた数日の俺には、そこら辺の細かいところな把握は出来ていないのだ。
そうしているうちに料理が運ばれてくる。
──これはまた。前世の世界のお洒落コンセプトカフェで出てきてもおかしくないクオリティだな。なんかチグハグなんだよな。こういうところ。
運ばれてきたパンケーキ風の物に、これでもかとデコレーションされている一品だった。
ハートやらピンクやらがとにかく沢山だ。
それだけで圧倒されていると、先ほど料理を運んできてくれた店員さんが再び俺たちのテーブルにくる。
なんだか申し訳なさそうな様子だ。
「お客様、大変申し訳ないのですが、店内が大変混雑して参りまして……相席をお願い出来ますでしょうか?」
「あ、相席?!」
──え、ありなのそれ? 男二人のテーブルに見えるよね、ここ? そこに別の女性のお客さんを座らせるって……
俺が慌てて周囲を見ると、確かに他のテーブルは人でいっぱいだった。
俺たちのテーブル以外でもすでに相席状態のところもありそうで、どうやら俺たちのテーブルが空きが最後みたいだった。
「私は構わんよ」
朗らかに告げるカノン。
──確かにカノンは気にしないだろうけど……
「ありがとうございます」
そうして一礼して去っていく店員さん。
「シド、少しそっちにつめてくれ」
カノンに言われて椅子をずらす。
カノンの様子からするとこちらの店では相席というのは珍しくないみたいだった。
──転生ギャップだわ……。そしてちょっと近くない? 気をつけないと肘が当たっちゃいそうな……
すぐ横のカノンの存在を強く意識していると、すぐに、相席相手が店員さんにつれられてやってくる。
「シド」
それはここ数日で聞きなれ始めた声。
裏ボスさんだった。