可愛いは
「ほら、シド。早く」
「おう、今いく」
カノンの言っていたお出掛けというのはどうやら買い出しのようだった。
俺の役割は荷物持ち要員兼、買うものの意見役らしい。
荷物持ちは全然、苦にはならないのだが、買うものに意見を聞かれるのは困った。
カノンとしては、買うものが可愛すぎないように意見が欲しい、とのことだった。
ただ、その言葉の裏にあることは容易に推測できた。
カノンは、実は可愛らしい物が大好きなのだろう。それこそ、男のふりなんてしていなければ、部屋を着るものを可愛い物で埋め尽くしたいと思っているのだ。
なにせ、カノンは一見可愛すぎないのだけれど、よくよく見ると可愛い物を揃えたいのだということが、一緒に買い物をして回っているこの短時間で、凄く伝わってきていた。
──そんな高等な買い物テクニック、俺に求められるのはハードル高すぎるよ、カノンさん。ステータス閲覧は非生物にはきかないし……
内心ではそんな愚痴をつきながらも、俺も顔には出さない。
昨日の夕食とお湯の恩がある。それに、カノン本人が自分の意思で男の振りをしているとはいえ、その大変さは俺が転生してきたこの短期間でも想像にかたくない。
そして、そんな買うものの選択のお手伝い以上に、外ということでばっちり男装をしたカノンは、完全にイケメンにしか見えないのも、これまた困りものだ。
──これ、はたから見たらどう見てもイケメンとモブのパシりだよな。まあ、いいけど。
雑貨のお店の中に入ろうものなら、他の女性のお客さんに女性の店員すらも、イケメンなカノンをみて、きゃーきゃーいっているのだ。
そしてそのあとに、俺が視界に入るとスッと冷めた視線になるのが丸わかりだった。
──ま、当然の反応だとは自覚してますよ。モブ生徒Aですから。ふっ。
変わらぬ世の無常を嘆きながら、カノンの後に続く。
「……なあ、カノン。そろそろお腹すかないか?」
「うーん。お昼にしようか」
名残惜しそうに手にしていた雑貨屋の品を棚に戻すカノン。
その子犬の置物はさすがに可愛すぎになると思いますよ、とは俺も言わない。そこら辺の冷静な判断は、カノンはしっかりしているのだ。
「それで、なに食べる?」
俺が訪ねると、一瞬悩んだ様子を見せるカノン。何かを言いかけてはやめると言うのを何度か繰り返しているようだ。
「なんだ。食べたい物があるなら言ってくれ」
俺は珍しく煮え切らないカノンに告げる。
「──いいのか?」
キリッとした顔を向けてくるカノン。
「お、おう」
「良かった。どうにも一人じゃ行きずらかったんだ」
満面の笑みになるカノン。
そうやって笑うと、とても可愛らしく見えてしまう。
「──カノン、顔、顔」
「すまん、つい」
頬を両手ではさみ、ムニムニと揉むようにする。
ちょっとだけ、変な顔だ。
イケメンな今のカノンがやるせいで、余計ギャップが酷い。
「……プっ」
「おい、笑うなよ。ずるいぞ」
「スマンスマン」
何がずるいのか、いまいちよくわからないが、とりあえず軽く謝っておく。
「はいはい。さ、こっちだ。いくぞ」
「おお、了解」
よっこいしょと荷物を抱え直すと、俺は歩きだしたカノンの後に続くのだった。
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