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9 最初の敵

 サキの考えとは、私達に都合のいい条件でレゼリオン教国に契約させようというもの。提示する条件の詳細を私達は彼女から聞かされた。

 それに対して、まずカレンさんが反応を示す。


「……確かに、私達にとって都合のいい条件になっているわね。戦闘の標的を決めるのは私達とか、死なないために特に重要だわ。でも、さすがに休みを貰いすぎじゃないかしら?」


 そう、移動も含めた戦闘時間と同じだけ休みを要求するんだよね。学校に行ってお店も手伝っていた私からすれば、そんなに休んじゃっていいの? って感じだ。

 しかし、サキは首を横に振った。


「平和な日本の基準で考えたら駄目だ。戦争なんだからきっと肉体的にも精神的にもかなりきつい。過労死したのは【強化】の召喚者だけじゃないんだよ。他にもそれっぽい死に方をしたのが結構いる」


 ……この異世界、本当にブラックだ。

 言われてみれば私達、誰も戦争なんて経験したことないんだから無理しない方がいいよね。だったら、いっそもっと休みを貰ったらどうだろう?

 これを口にすると、サキはまた首を横に振った。


「そうしたいのは山々だけど、力のある私達があまり戦わないのもよくない。この世界の人間も当然ながら戦争で死んでいるだろうからな。冷たい目で見られること必至だ。色々考えて半分半分なんだよ」


 私はサキ以外の三人と視線を合わせて頷き合った。カレンさんが代表して総意を述べる。


「サキさんが考えてくれた条件を要求する形で私達は構わないわ。……あなた、私なんかよりよっぽどしっかりしてるわよ」

「しっかりもする。命が懸かってるんだし」

「だけど、この条件をエルゼマイアさんが飲むかしら?」

「飲まないだろうな、あの教皇は絶対に力ずくででも向こうの条件を押しつけてくる」


 いかにもやりそうではあるけど……。力ずくといってもエルゼマイアさんが直接何かしてくるわけじゃないよね。武闘派の人達を呼び寄せるとか?

 などと想像しているとサキが言葉を続けた。


「あの教皇はこの国でトップクラスの武闘派だから」

「…………、嘘でしょ?」

「本当だ。あんな若さで教皇なんてやってるから気になって聞いてみた」


 エルゼマイアさんは幼い頃から神殿騎士をやっていたそうで、その才能から天才少女と呼ばれていたらしい。彼女は国内各地を回って、問題を起こしていた魔獣を次々に討伐していった。そうして民達から絶大な支持を得て、史上最年少で教皇の座に就いたんだとか。

 ……目的ありきで動いているのが透けて見える。


「腹黒さで教皇になったというのは伊達じゃない。奴は切羽詰まったら間違いなく力に訴えてくるはずだ」


 喋りながら椅子から立ち上がったサキは全員の顔をぐるりと見回した。


「皆で倒すしかない。教皇エルゼマイアが私達の最初の敵だ」


 この時、私の頭の中では『教皇エルゼマイアが本性を現した!』というメッセージと共にゲームの戦闘画面が浮かんでいた。


 突然部屋の中にドアをノックする音が響く。

 一早く反応したサキが扉を開けると、そこには大量の本を抱えたセフィルさんが。


「サキ様がお求めの本をお持ちしました」

「ありがとうございます。皆、彼は私達の味方だから安心していい。エルゼマイアさんが苦手らしいから」


 そういえば、初めて教皇様が出て来た時、セフィルさんは緊張していた気がする。

 私達の視線の集中を受けて、彼は遠慮がちに話し出した。


「あのお方は裏表が激しすぎて私はちょっと……。今回も私利私欲のために皆様を利用する魂胆に違いありません。及ばずながら私も少しでも皆様のお力になれればと」


 とセフィルさんは抱えていた本をテーブルに置く。


「エルゼマイア様は本当に腕が立ちます。ですが、聖女様方ならば必ずや打ち倒せるはずです!」


 彼はまるでサポートNPCのようにそう言い残して部屋を出ていく。去り際に小声で「あのお方もたまには痛い目に遭うべきです」と言った。ふむ、それが本音か。


 とりあえず、置かれた本に全員で目を通す。

 えーと、どれも魔法の基本書みたいだね。

 サキも一冊を手に取った。


「魔力操作について書かれたものを集めてもらったんだ。全部読んでる暇もないから、私が重要な箇所を抜き出す。皆は少しでも早く魔力の扱いに慣れてくれ」

「それだけで教皇様に勝てるの?」


 私が素朴な疑問を口にすると、サキは自信ありげに頷いた。


「魔力量では教皇に及ばなくても、質でならいい勝負ができると思う。私達の魔力は特別だからな。全員で団結すれば勝てる。まあ一番は、リナがわずかでも魔力を制御できるようになることなんだけど」


 なるほど、じゃあ早速取りかかるから魔力操作のコツを抜き出して。

 こうして私達は残りの時間をひたすら魔力と向き合い、召喚一日目を終えた。



 翌日、教皇様の新しい執務室にて、私達は契約の条件を彼女に伝えた。

 予想通り、エルゼマイアさんの表情が険しいものに変わる。


「そんな条件は飲めません!」


 これを聞いたサキが即座に席を立った。


「では仕方ありませんね。残念ですが私達はこの国から出奔します。アルティメット五人なので勤め先はいくらでもあるでしょう。あ、レゼリオン教国は召喚者ゼロになってしまいますが頑張ってください」


 教皇様はわなわなとしばらく震えたのち、不意にその体から魔力を溢れ出させた。


「……許しません。……許しませんよ。こうなったら実力行使です! あなた達は私のために休まず全力で戦い続けるのです!」


 ……ブラック異世界の象徴みたいな人だ。

 私の頭の中にあのメッセージが甦ってきた。


『教皇エルゼマイアが本性を現した!』

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― 新着の感想 ―
いつも楽しく読んでます! 初期の感想で書いたけど、本当に腹黒の教皇てましたね〜 世界征服は考えるけど仲良くできるかな?とか思ってた時期もありました(笑) 教皇様としては働かせたいから○殺まではでき…
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