5 ハニワ
「どうしよう私! とんでもない怪力になってしまった!」
皆の方に駆け寄ろうと踏み出した足も床にめりこむ。
サキが手を伸ばして私を制止した。
「こっちに来るな! というかもう動くな!」
反射的にピタッと止まった私を確認して彼女はエルゼマイアさんに目をやった。
「……どういうことか説明してください」
「よりにもよって一番危険なリナ様が一番魔力の操作が下手だったようです……。最上位ランクのアルティメットギフトを得た皆様の魔力は通常と異なるのですよ。ギフトに属するあらゆる魔法の効果が上がる反面、いいえ、それゆえに、魔力自体がその性質を強く持ちます」
「つまり、魔力は個別の魔法となることで威力を発揮し、本来ギフトはその補助をする程度のものなのですね。しかし、私達の場合はギフトのおかげで魔力そのものが魔法に準じたものになっていると」
「理解が早くて助かります」
いやいや、理解してるのたぶんサキ一人だけだよ。他は私含めて今一つピンときてない。
「もっと分かりやすく説明して」
体を固まらせたまま私が言うとサキはため息。
「実際に見せた方が早い。こういうことだ」
目を閉じたサキの全身が魔力に包まれる。すぐにその体はふわりと空中に浮かび上がった。
まるで魔法みたいだ! と口に出して感想を述べると彼女は頷きを返した。
「その通り、本当ならこの状態を作り出すには魔法が必要。でも、私は【浮遊】のギフトのおかげで魔力だけで浮かぶことができる」
これを聞いて不安の声を上げたのはカレンさんだった。
「待って、じゃあ私も結構まずくない?」
「はい、カレンさんの魔力はリナに次ぐ危険度です。何しろ触れるだけで発火しますから。でも、要はコントロールできれば問題はないんです」
浮遊していたサキは、体を覆う魔力はそのままに床に着地。
見ていたカレンさんが「なるほど」と呟く。差し出した手だけが魔力に包まれた。その掌の上にボッと火の玉が。
「自分で発火を制御すればいいってことね」
サキとカレンさんを眺めながら、ハニワのようなポーズのまま動きを禁じられている私の頭には素朴な疑問が浮かんでいた。
二人もこちらを見返してきたのでそれを口に出す。
「どうしてそんなに魔力のコントロールが上手なの!」
「逆に、どうしてそんなに下手なんだ? なんかそのポーズ、ハニワっぽいな」
サキが即座に聞き返してきていた。
そう問われたって私にもよく分からない。魔力を意識した途端、急に外に溢れて全身にまとわりついてきた。まるでそこが自分の居場所だと言わんばかりに。
ここでエルゼマイアさんが思い出したように「そういえば」と言った。
「五百年前に【強化】のギフトを得た召喚者も当初は周囲の物をことごとく破壊して怪物と恐れられたそうです。これはもしかして……」
「……体に纏うという強化の性質ゆえ、か?」
ぽつりと呟いたサキは、数秒の間を置いて私に申し訳なさそうな視線を向けてきた。
…………。
「なら私のせいじゃないじゃない!」
「悪い悪い、どっちにしてもやるべきことは変わらないわけだし」
「やるべきことって?」
「魔力を内にしまえるようになるか、強度を制御できるようになるか。どちらかを体得するまでリナは人間に近付くのは禁止だ」
ひどい言われようだ……。扱いが完全に怪物になっている……。
最上位ランクとかアルティメットギフトとか言われてるけど、これは間違いなくハズレだよね。私も【烈火】や【大地】みたいな属性系統だったらよかったのに。
と聖女の仲間達を見つめていて違和感に気付く。
ミノリさんの周囲の床から植物の芽らしきものが無数に生えている。
「ミノリさん……、足元から何か生えてきていますが……」
「あらあら? 皆さんが魔力を操作するのを見ていたら無意識のうちに」
……おっとりしている。教皇様の執務室でうっかり園芸を始めないでください。破壊しまくってる私が言えたことじゃないけど。
一方で、ユズリハちゃんはまたカタカタと震えが止まらなくなっていた。
「かかかか勝手に植物が! ありえない成長速度で……! で、では、私の魔力にはいったいどんな危険が潜んでいるのでしょう……!」
「ユズリハちゃんのギフトは【治癒】だし……」
サキ、カレンさんと視線を合わせて皆で頷き合った。
「「「完全に無害」」」
「本当ですか……!」
歓喜するユズリハちゃんからパアァァと部屋全体に魔力が解き放たれた。その光は私達も包みこみ、直後にカレンさんが「あ」と声を上げる。
「デスクワークのしすぎで辛かった眼痛が治ったわ」
あれは辛いよね。私もスマホゲームのやりすぎでたまになる。
ユズリハちゃんの魔力は無害どころか本当の奇跡みたいだ。私達の中で唯一きちんと聖女っぽいんじゃないかな。
うーん、何だか私も体が軽くなった気がするかも。軽くなっても色々壊れるから動いちゃ駄目なんだけど。ていうか、私いつまでこのハニワポーズのまま?
そんな私を見てサキが呟いた。
「いや、ハニワポーズのままでいる必要はない。普通に立てばいいだろ」
ハニワポーズ・・・踊るハニワとか馬を引く人と言われているやつです。
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