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26 [ミオ]雷鳴の勇者2


 私の前に降り立ったリナは以前の世界と変わらないリナだった。

 いや、何かおかしい。見ていると体がぞくぞくしてくるわ。これはこの子の纏っている魔力のせいなの?

 それより、まさかリナも召喚されていたなんて。


「リナも勇者になったのね」

「ううん、私は聖女だよ。召喚したレゼリオン教国ではそう呼ぶんだって」

「あんたが聖女って、全然似合わないわよ」

「……私もそう思うけど、しょうがないでしょ」

「聖女って人々の模範になる存在じゃないの? 自由奔放なリナに務まる?」


 私は高鳴る気分を抑えきれないように饒舌に喋っていた。

 ちょっと待って、これじゃ私はリナが大好きで仕方ないみたいじゃない? 違う違う、単に死ぬ寸前だったのが助かってハイテンションになっているだけよ。

 ……どうせ助からないと、さっき結構恥ずかしいことを思っていたかもしれない。


 急に黙った私を見てリナは首を傾げていた。


「聖女も勇者もただの呼び名だよ。何にしても魔獣を倒す召喚者ってことだし」


 相変わらずざっくりしてるわね。

 そうだ、あの上空から魔獣達を倒したのは何だったのかしら?


「リナのギフトって何なの? 私は【雷鳴】ね」

「え、じゃあミオが雷鳴の勇者だったんだ。私は【強化】」

「【強化】……? だったらさっき空を飛んでいたのは?」

「あれは向こうに飛んでいったサキって聖女の能力で、【浮遊】だよ」


 あれ? じゃああの凄まじい攻撃は誰の能力?【浮遊】は飛行で、【強化】は補助的な能力よね?

 今度は私が首を傾げていると、リナは先ほどの自分の言葉で何かを思い出したようだった。


「デモンストレーションでもう一回投げろってサキから言われてたんだ」


 そう言いながら彼女は腰の袋に手を突っこんで何かを取り出す。それから、きょろきょろと周囲を見回しはじめた。


「よし、こっちの方は人がいないね」


 方角を定めたリナは大きく振りかぶる。右手に握った何かを力いっぱい投げた。


「てぇーい!」


 そのかけ声、小学校でドッジボールの時によく発していたわね。などと懐かしく思っていた私は、直後に信じられない光景を目の当たりにする。


 シュドドドドドドドドドドドド!


 リナが投げる動作をした方向にいた魔獣達が一斉に塵と化した。数にしておそらく優に百頭以上。

 広大な戦場に線を引いたように、一本の空白の道ができ上がっていた。

 敵の魔獣も味方の騎士も、そして私も、戦場にいる全ての者の思考が停止したと思う。時間まで停止してしまったかのように戦場は静寂に包まれた。


 ……リナ、あんた、ギフトが【強化】とか嘘でしょ。

 ようやく声が出せるようになった私は疑問を幼なじみにぶつけた。


「あんたのギフト! 本当は何なの!【消滅】? それとも【瞬殺】? いや、【虐殺】ね!」

「【強化】だってば……」


 リナは私にアルティメットギフト【強化】について説明してくれた。加えて、投げた物がこの世界のありふれた硬貨であることも。


「こんなコインであの大量虐殺が……。そうか、おかしいのは強化の上がり幅よ……、チート、これはもうチートと言う他ないわ!」


【強化】はぶっ壊れギフトである、という結論に私が達したその時、トルキナ軍の本隊が大きく動くのが伝わってきた。

 その様子を一緒に眺めていたリナが「話がついたみたいだね」と呟く。

 まるで壁を作るようにトルキナ軍が横長の形になると、戦場に女性の声が響いた。


『私達はレゼリオン教国からの援軍です。これより強化の聖女が敵軍を一掃しますので、交戦中の方はただちに本隊の位置まで退いてください。さもなければ、確実に巻きこまれます』


 この声の主はサキさんだとリナが教えてくれた。私と同じく召喚されてまだ数日しか経っていなくてここまで仕切るのだから、驚きとしか言いようがない。

 さらにリナから聞いた話によれば、レゼリオン教国は召喚者五人全員がアルティメットギフトなんだとか。おまけにその一つはチートの【強化】でしょ。

 レゼリオン教国、人もギフトもどれだけ引き当ててるのよ……。いいなぁ、私もそっちの国がよかった……。


 私が羨んでいる間にトルキナ軍の騎士達は全員が本隊まで退いていた。さっきのリナの攻撃を見ているし、サキさんの脅しもあったのでてきぱき動いたようだ。

 こうしてトルキナ軍は横長の防御陣形を形成。これによって魔獣軍の方も必然的に横長になった。


 程なくサキさんが迎えにやって来て、リナは再び空中へ。

 どうするつもりなのか見ていると、二人は魔獣軍の側面に降りていった。


 なるほど、確かにあの位置から投げれば一気にまとめて仕留められるわね。これはもう終わったようなものだわ。


 たぶんリナは五回ほど続けて「てぇーい!」と腕を振ったんだと思う。時間にして十数秒。このわずかな時間で、あれだけ苦戦していた魔獣の大軍勢が壊滅状態になったのだから、トルキナの騎士達が呆然とするのも無理のないことだった。



 戦いが終結すると、魔力が空になっていた私は思い出したように倒れこんだ。仲間の四人に介抱してもらっている所に、帰還前のリナがもう一度顔を見せにきてくれた。


「とにかく、一石二鳥に無事でよかったよ」

「どういうことよ、それ」

「ミオも雷鳴の勇者もどっちも無事でよかったってこと」

「どっちも私だって。まあ、助けにきてくれてありがと」


 私がそう言うとリナは元の世界にいた時と変わらない笑顔を作った。

 それから少し話をし、去り際に彼女はちょっと照れた様子で。


「ミオも召喚されていたのには驚いたけど、私は嬉しかったりもするんだよね。こっちの世界でもまた会えるから、本当によかったって思ってる」


 ……まったく、あの子は。言われたこっちが照れるわよ。

 私も大体同じ気持ちだし、あと、【強化】というぶっ壊れギフトが宿ったのがリナでよかったとも思うわ。あんたは考えが極まっていて怖いところもあるけど、基本的に優しい。きっとこれから大勢の人があんたに救われるだろうから。



完結となります。

ここまでお付き合いいただき、有難うございました。

面白いと思ってくれた方がいたなら書いてよかったと思います。

最後にこの小説への評価をつけていただけると嬉しいです。

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