25 [ミオ]雷鳴の勇者
私は今、戦場にいる。
つい数日前まで普通に女子高生をしていたのになぜこんなことになったのか、誰か教えてほしい。
あの日、学校から帰宅するなり謎の光に包まれ、気付いたらこの異世界に勇者として召喚されていた。魔獣という怪物達との戦争まっただ中のこの異世界に。
ちなみに、私の他にも四人の日本人が一緒に呼び出されている。私達は召喚と同時にギフトという転移特典の能力をそれぞれ授かっていた。
改めてになるけど、私の名前はミオ。十五歳のごく普通の高校一年なのに、どういうわけか【雷鳴】という雷系最上位のギフトが発現した。魔力そのものが雷の性質を帯びるらしく、最初は勝手に発電してめちゃ驚いたわ。でも、すぐにコントロールできるようになると、勇者で雷を操る能力なんてベタだけどまあかっこいいかもと思いはじめた。
……能天気にそんな風に考えていられたのはほんの一時だった。
現在、この【雷鳴】が私達五人の召喚者の生命線になっている……。
話は召喚された翌日まで遡る。私達を呼び出したトルキナ王国と、戦争に協力するという内容の契約書を交わすことになった。その直後、早速前線に行くように頼まれると、なぜか抗うことができずに魔法陣で転送される。
そして、前線の砦であたふたしているうちに時間は過ぎていった。
否応なく魔獣との決戦が始まり、今に至る。
――――。
私達五人の周囲では騎士達が大きな獣と戦っていた。
木より背の高い熊に、馬ほどの大きさの狼。明らかに人間が戦っていい相手じゃない。魔法のようなものを使っている人もいるけど、完全に人間側が劣勢だった。
もちろん、この場にいる私達も傍観していられるわけがない。
二頭の大狼がこちらに向かって駆けてくる。
ま、また来た! 電撃発射ーっ!
バリバリバリバリッ!
私の放った雷で狼達が塵になるのを確認し、安堵のため息をつく。それから、ちらりと背後を振り返ると、四人の召喚者達も同様の表情を浮かべていた。
……彼らのギフトはどれも魔法を習得しないと効果を発揮しない。つまり、戦えるのは私一人だけなのよね……。
アルティメットギフトとか言って私達をここに送りこんだ人達はやたらと期待している風だったけど、後ろの四人を守るだけで精一杯だわ……。こんな地獄のような戦場、私一人の力じゃどうしようもない……。
あまり見ないようにしているものの、周りでは騎士達が無残にも次々とその命を散らしていた。もう彼らの戦意も失われつつあるように見える。あちらこちらで逃げはじめる者も。
その一人であろう騎士が私の方に走ってくる。
「ゆ、勇者様! どうかお助けくだ」
ズズン!
彼は最後まで喋りきる前に巨大熊の投げた岩に押し潰された。
…………、キャ――――ッ!
見ないようにしていたのに思いっ切り見てしまった!
やっぱりここは地獄だわ!
助けるとか無理無理無理無理! こっちが助けてほしいって! このままここにいたらやばい、私達も逃げないと……!
そう決断した矢先、私達五人は凶悪な顔をした人間サイズの兎達に取り囲まれた。
兎もこんなにでかいなんて! しかも返り血ベッタリで全然可愛くない!
それより撃退しないと! 電撃ーっ!
稲妻が周囲を駆け巡り、邪悪な兎達をことごとく塵に変えた。
この分だと、きっと逃げるのも簡単じゃないよね。何より私……。
……もう魔力が尽きそう。
背後の四人の方にくるりと振り返る。
「私、もうすぐ電池切れかも、とか言ったらどうします?」
軽い感じで尋ねてみたものの四人共青ざめた顔に。だよね……。
死を意識した途端、頭の中を走馬灯が流れていく。
……思えば私の人生のほとんどは、マイペースな幼なじみに振り回される日々だった。
小学校の登校時、「あの野良犬をゲットする」と言い出したあの子に付き合わされて、学校に遅刻してこっぴどく怒られたり。中学の頃は、二人でテーマパークに行くはずがあの子に引っ張られて乗った電車が反対方向で、なぜか田舎の農家に泊まることになったり。
腐れ縁だったあの子とも高校は別々になって、ようやくまともな人生が始まると思ったのに、どうしてこんなひどい異世界に……。
……いや、本当は高校に上がってから何だか毎日がつまらなかった。私は、思いがけないことを起こすあの子と一緒にいるのが好きだったんだわ。
小学校の時の野良犬は実は迷い犬でゲットしたら飼い主さんからすごく感謝されたし、中学の時の農家民泊は農業体験が意外にもとても楽しくてご飯も美味しかった。
あの子と一緒だったら、こんな異世界でも何とかなったのかな……。
魔獣十数頭の一団がこちらに向かってくるのが見えた。
私は手をかざすも小さな電気がパチパチと光っただけだった。魔力が完全に尽きて地面に膝をつく私。もう魔獣達は数メートルの所にまで。
……私、ここで死ぬんだ。せめてもう一度、あんたに会いたかったよ、リ……。
シュドドドドドドドドドドドド!
それはわずか一瞬の出来事だった。速すぎてよく見えなかったけど、空から降り注いだ何かによって十数頭の魔獣が一頭残らず消滅している。
反射的に天を仰いだ私は、自分の目が信じられなかった。やがて彼女がゆっくりとこちらへ降りてきて、これが現実だと分かった時には自然と涙が。
「あれ、ミオじゃない。どうしてここに?」
リナ……!