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24 新たなる戦場へ


 手の中で気絶しているチクムルをじっと見つめた。

 ……もふもふしていてちょっと可愛い。今まで別に何とも思わなかったんだけど、攻撃的な感じがしなくなったせいかな。


 雛鳥の魔獣を凝視する私に、サキが遠慮がちに声をかけてきた。


「情が湧くのは仕方ないことだよ……。でもそいつは敵の魔獣で」

「いや、大丈夫。どんなに可愛く見えても生きるために命を奪わなきゃならないって分かってるから」

「……リナの割切り、マジでちょっと怖い。とりあえずちょうどいいから、そのチクムルは私に預からせてくれ」

「いいけど、焼き鳥にはできないよ」


 サキが言うには、魔獣という生物を研究したいとのこと。どうやらこの世界には魔獣を捕獲して調べたようなデータがほとんど存在しないらしい。

 幾多の戦闘経験があるエルゼマイアさんも、「危険な生物ですし、倒せば塵になってしまいますしね」と言った。


 敵を壊滅させたこの状況で最弱の魔獣一羽の命を奪う必要もないので、私はチクムルをレゼリオン教国に預けることにした。


「塵にならずに焼き鳥にできる方法が見つかったら教えてくださいね」


 この時の私は知る由もなかった。

 焼き鳥屋の娘目線でしか見ていなかったこの無謀な雛鳥と、結構長い付き合いになるなんて。そして、サキが指摘した通り実際に情が湧くことになるなんて。


 ――――。



 一大決戦があっけなく勝利に終わったことで、戦場からの撤収作業は和やかな空気の中で進んでいた。


 そこに、馬に乗った伝令が砦のある方角から。なんと伝令はレゼリオン本国にいるはずのセフィルさんだった。

 彼はまっすぐエルゼマイアさんの所に走っていったので、私達聖女もそちらに向かう。


「トルキナ王国から緊急の連絡がありました! 救援の要請です!」


 トルキナ王国とはこの前線でレゼリオン教国の隣の地域を担当している王国だ。こちら同様に向こうでも魔獣が活発になっており、同じく本日、一大決戦を迎えているんだとか。ところが、こちらと違ってトルキナ王国の方は随分と苦戦している模様。

 セフィルさんがもたらした情報からはその苦しさがありありと伝わってきた。


「……私達の教国とは異なり、トルキナ王国では召喚者は勇者と呼ばれます。五人中一人、アルティメットギフト【雷鳴】が発現したそうなのですが、その方の力を借りても劣勢のようです……」


 話を聞き終わると最初にカレンさんが「当然だわ」とため息をついた。


「私達だってもし一人だったら戦況を変えるなんてとても無理だもの……。リナさんがいなきゃ、きっと四人でも苦労していた」

「ギフトは基本的に魔法を習得してこそですからね。本来ならこの段階で召喚者を戦場に出すなんてやってはいけないことです」


 とエルゼマイアさんが同意を示して頷いていた。

 あなたもそのやってはいけないことをやりましたけどね。

 普段なら真っ先にそう突っこんでいるであろうサキは、静かに何か考えを巡らせているようだった。やがて彼女はエルゼマイアさんに視線を向ける。


「他国から救援要請が来るなんて異例のことですよね?」

「はい、それだけまずい状況にあるということでしょう」

「……やっぱり切羽詰まってか。私達、というより、人類にとって今【雷鳴】の保持者を失うのはかなり痛い。幸いにもこっちにはあっけなく戦いを終わらせられる武神がいる。……リナ、行ってくれるか?」


 サキから尋ねられた私は考えるまでもなかった。


「行くよ、余力もまだまだあるし」


 この言葉を受けて、ぬらぬらと体を揺らしながらミノリさんが手を挙げる。


「私は残ってもいいでしょうかー。まったくお役に立てる気がしませんー……」


 魔力がまだほとんど戻っていないことは一目瞭然だった。私が目で合図を送ると察したアンソニーさんが彼女をお姫様抱っこする。

 大地の聖女の体が安定したところで、次はユズリハちゃんが挙手。


「私は一緒に行きます……! きっと沢山の怪我人が出ているはずですから……!」


 しかし、この申し出にはサキが即座に反応していた。


「いや、ユズリハちゃんもおそらく疲れが溜まっているだろうから残ってくれ」

「え……、私はまだ大丈夫です……!」

「今は気が張っているからそう思うだけだよ。カレンさんも残ってミノリさんとユズリハちゃんを見ていてほしい。トルキナの戦線には私とリナの二人が行けば充分だから」


 後でサキから聞かされた話によれば、今回は絶対にユズリハちゃんを連れていくわけにはいかなかったらしい。きっと向こうでは数千人規模で負傷者がいるはずで、ユズリハちゃんのことだから無理をしてしまうのは確実。下手をすれば彼女自身が危険な状態になるかもしれない、と。

 ぬらぬらと体をふらつかせていたミノリさんを見ているだけに私も納得だった。

 一人で敵軍を制圧できる私と、拡声の腕輪でトルキナ軍を誘導するサキ、この二人で救援には充分だそうだ。


 空中に浮かび上がった私とサキを騎士達が仰ぎ、エルゼマイアさんが代表して声を発する。


「それでは、トルキナ王国にしっかりと恩を売ってきてください。これをきっかけにいずれレゼリオン教国の属国になるかもしれないので、よろしくお願いします」


 ……戦いが終わった途端にこの人は。まったくどうしようもない。


 聖女の仲間達からも応援を貰ったところでサキが私の方に振り向いた。


「急ぐから今出せる最高速度で飛ばす。向こうに着いたら頼むぞ、リナ」

「任せて、雷鳴の勇者を助けにいこう」


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