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19 石


 巨大熊の魔獣ベアバルに続いて、私達は大狼ウルドノスとの戦闘に入っていた。

 森の奥から大狼達が次々に現れるものの、私達には接近できないまま塵に変わっていく。動きの速い魔獣でもこちらの迎撃態勢は万全だ。

 迫りくるウルドノス達を、サキの【加重】が圧し潰し、カレンさんの【烈火】が燃やし、ミノリさんの【大地】が土葬し、ユズリハちゃんの【奪命】が瞬殺する。


 ……私の出番、全然ない。

 そもそも私は物理攻撃特化の近接専門。皆のように遠距離攻撃はできないんだよね。この後の戦争を考えた場合、これってどうなんだろう。私は魔獣達の中に飛びこんでひらすら暴れ回るしか戦う術がないんじゃない?


 何か遠くから攻撃できる手段があれば……、お、あれどうかな。

 私の目に留まったのは、地面に転がっているごく普通の石ころだった。それを手に取るとしばしじっと見つめる。

 それから、こちらに向かって駆けてくる一頭のウルドノスめがけて投げつけた。


 ドゴッッッッ!


「ギャーン!」


 石が直撃した大狼は背後に数メートル吹き飛ぶ。大地に倒れたまま動かなくなり、程なく塵と化した。

 この攻撃に他の四人が一斉に私の方に振り返った。歩み寄ってきたサキがまじまじと私の顔を凝視する。


「……今、気弾でも放ったのか?」

「……いや、ただ石を投げただけ、だけど」


 私がそう答えると、近くに落ちている石をサキもしばしじっと見つめた。おもむろにそれを拾い上げて私に手渡してくる。


「もう一回やってみてくれ」


 言われるままに、振りかぶってウルドノスに石を放り投げた。


 ドゴッッッッ!


「キャイーン!」


 さっきのリプレイを見るかのように、大狼は数メートル飛んで塵に変わる。

 今度はしっかりと一部始終を見ていたサキは何か考えに耽りはじめた。その状態で私に話しかけてくる。


「今、石の方は当たると同時に砕けていたよな?」

「砕けていたね、たぶん石を魔力で覆えていたら大丈夫だったと思うんだけど。まだ私にはできないし、今日から練習してみようか? 戦争に間に合うかな」

「いや、必要ないよ。石まで覆えばそれだけ魔力を消費するし、魔獣の方はあれで致命傷になっていたわけだから」

「ふむふむ、私は魔力を纏った状態で石を投げるだけで結構な遠距離攻撃になるんだね」


 私が納得してこう呟くと、サキはニヤリと笑みを浮かべた。


「結構どころじゃない。投げる物を変えれば大変なことになるぞ。とりあえず戻ろう、エルゼマイアさんも加えて作戦会議だ」


 私含め四人の聖女にはサキの考えが分からず、揃って首を傾げる。そのポーズのまま、浮遊の聖女によって体は空中へと持ち上げられた。


 砦に帰還するとまず今回の戦争の総指揮を執るエルゼマイアさんを捜し出す。彼女とセフィルさん、そして帰るなり即座に馳せ参じたアンソニーさんとコンラッドさんを加えて作戦会議に入った。


 サキの計画を聞かされ、彼女以外の全員が絶句していた。

 しばらくして最初にエルゼマイアさんが口を開く。


「……そんなことが、本当に可能なんですか?」

「リナなら可能です。それで、投擲物なんだけど理想は銃弾みたいな……」


 サキがそう言いかけるとエルゼマイアさんは首を横に振った。


「それほど大量の弾丸はさすがにご用意できません」

「だと思いました。では、これなら集められるんじゃないですか?」


 尋ねながらサキが机の上に置いたのは一枚の硬貨だった。全員でそれを覗きこむ。

 ……これって確か、十キア硬貨だっけ。貨幣価値は私達の世界の十円玉と大体同じくらいだったよね。つまり、この世界の小銭だ。なお、私が先日折り曲げた(というより球体に変えた)銀貨は五百キア硬貨だよ。

 サキは置いた十キア硬貨を自分で摘まみ上げる。


「このコインは鉄が主成分の合金で、おそらく鉛弾より硬い。理想を超えて最適です。リナ、これ百枚以上まとめて投げられるだろ?」

「え……、うん、両手を使えばできるかな」


 私の発現を受けてすぐにアンソニーさんとコンラッドさんが席を立った。二人して部屋の扉へと走っていく。


「砦中の十キア硬貨をかき集めてきます!」

「俺達親衛隊にお任せください!」


 彼らの言葉を聞いて今度はセフィルさんが立ち上がった。


「それでもきっとまだ足りません! エルゼマイア様、私に大神殿への転送許可を!」

「許可します、飛びなさい!」


 男性達がバタバタと部屋から出ていくと、後には教皇様と聖女五人が残った。

 一つ息を吐いたサキは皆に、机の上に広げられた戦場の地図を見るように促す。


「大事なのは決戦の場所だ。なるべく開けた平地がいい」


 彼女が真剣な表情でそう呟くのを聞いていて、ようやく私達もこの作戦は本当に成功するように思えてきた。

 エルゼマイアさんの体が小刻みに震え出す。


「……こ、これはもしや、教国軍にはほとんど被害が出ないのでは……?」


 すると、サキはまたニヤリとあの笑い方を見せた。


「ほとんど? これは私達アルティメット聖女チームのデビュー戦ですよ、戦死者ゼロを目指します」


現在、この強化聖女と並行してもう一つ小説を連載しています。

『おそらく不死身の令嬢エミリア』

異世界転生した少女が、特典で授かった「時間を戻す力」を使って割と命懸けな旅をします。ギリギリで死なない「おそらく不死身」の令嬢の物語です。

あちらも現在、文字数が強化聖女と同じ4万文字程度なので、一緒に進めようと思いました。

よろしければエミリアも読んでみてください。

(この下にリンクをご用意しました)

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― 新着の感想 ―
いつも楽しく読んでます! 銭の雨あられかな? 言葉だけならめでたいお祭りみたいだけどね(笑) リアルに街中でしたら死者多数! 読んでて途中でどこかのレールガンが少し浮かんだ(笑) 作戦はどうな…
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