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18 腕試し

 前線の砦の中を、私は他の聖女四人と共に歩く。私達の後ろには二百人を超えるムキムキの騎士達がぞろぞろとついてきていた。


 立ち止まった私が振り返るとムキムキ達もその動きを止めた。

 私は先頭の一際がっしりした体格の二人に視線をやる。


「……アンソニーさん、コンラッドさん、ずっとついてこなくていいですよ」

「そうは参りません、リナ様。俺達はあなたの親衛隊なのですから」

「どこに行くのも一緒です。皆、強化の神であるリナ様のお役に立ちたいのです!」


 隊長のアンソニーさんとコンラッドさんがそう言うと、騎士達は全員がうっとりした眼差しで私を見つめてきた。

 ……熱苦しい、この上なく熱苦しい親衛隊ができた。

 圧力に負けて後ずさりする私に対し、サキがその背中を押して食い止める。


「万が一の時に守ってくれる筋肉の壁が手に入ったと考えろ。とはいえ、全員を飛行させるのは無理だから筋肉隊は砦で待機だ」


 サキがそう言った直後、私達聖女五人の体がふわりと浮き上がる。砦の廊下から空中を移動して中庭に出ると、そこから大空へ。

 騒ぐムキムキ親衛隊の姿は見る見る小さくなっていった。


 戦場の砦に転送されてから一日が経過していた。今から私達は、昨日魔獣と戦ったあの森にもう一度赴く。

 今回も目的は魔獣との戦闘だ。私とサキ以外の三人も本番の戦争前にきちんと魔獣と戦って腕試しをしておいた方がいいかも、という話になった。

 敵の強さも分かっているからエルゼマイアさん抜きの五人でまあ問題ないだろう。非戦闘員のセフィルさんはもちろんのこと、ムキムキ親衛隊もまず必要ない。


 森に下り立つとすぐに私は耳を澄ませる。

 魔獣の探索は私が強化した聴覚で行うことになっており、開始して数秒で最初のターゲットを発見できた。


「見つけたよ。ベアバルが二頭だけど大丈夫?」

「とりあえず、カレンさんとミノリさんで一頭ずつ倒してみようか」


 サキの提案に年上のお姉さん達は顔を見合わせる。昨日、アンソニーさんとコンラッドさんがやられているのを目撃しているだけに、やっぱり少し怖いみたい。

 ここは私がしっかりサポートするべきだよね。


「いざとなったら私が体を張って守るから大丈夫だよ」


 私の宣言を受けて二人は頷き合った。


「リナさんが盾になってくれるならやってみようかしら」

「リナさんは見せかけだけの筋肉を持つ騎士達より遥かに頑丈ですからね」


 カレンさんとミノリさんは安堵の表情でそう言った。

 いやいや、魔力が違うだけで私の親衛隊の筋肉はそこそこ実用的だと思うよ。……って、どうして私があの人達の筋肉を擁護しなきゃならないんだ。とにかく、ベアバルはもうすぐやって来るからちゃんと準備してね。


 森の木々を薙ぎ倒しながら体長十メートルの熊が二頭連れ立って現れた。

 まず、おっとりしているはずのミノリさんが先手を取る。


「私が【大地】の力で動きを封じます。そぉれっ!」


 かけ声と同時に一頭のベアバルの両サイドの地面が大きくめくれ上がった。そのまま勢いよく閉じて熊の魔獣を挟みこむ。

 バタンッ! と二つの大地が一つになると、その隙間から魔獣の絶命を知らせる塵が漏れ出てきた。

 一撃必殺で仕留めたミノリさんは「おや?」と首を傾げる。やっぱりちゃんとおっとりしているようだった。


 瞬く間に仲間をやられたもう一頭のベアバルはたじろぐ。しかし、その頭上にはすでに巨大な火の玉が浮かんでいた。


「大きな熊だからこれくらい火力が必要でしょ! 行け!」


 カレンさんの命令に従って火球は魔獣の上に落下。

 ボワァー! と周囲の木にも燃え広がり、当然のことながらその中心にいたベアバルは塵に変わる。明らかに火力強すぎだよ。


 カレンさんとミノリさんが簡単に魔獣との戦闘を終えると、まだ一度も戦っていない残りの一人、ユズリハちゃんはカタカタと震えはじめた。


「や、や、やっぱり私も戦わなきゃならないのでしょうか……!」


 今度は最年少の【治癒】の聖女以外の四人で顔を見合わせる。考えが合致し、代表してサキが少女の肩に優しく触れた。


「ユズリハちゃんは無理に戦わなくていいよ。四人で攻撃力は充分だし」

「とても怖いので、そう言ってもらえると助かります……。ですが、微力でも攻撃面で私もお役に立ちたい気持ちもあるんです……」


 なんてけなげな……、あ、向こうからまたベアバルが二頭やって来る。

 敵の接近を告げると、途端にユズリハちゃんは魔力を溢れさせた。


「わ、私だってお役に立ってみせます……!」


 魔力の反転を確認し、全員が素早く彼女から距離を取る。

 ユズリハちゃんから発射された【奪命】の波動に接触した瞬間、向かってきていた二頭の巨大熊は塵と化した。


 私だけじゃなく全員が同じことを思っていたに違いない。

 ……微力どころか、余裕で主力級だって。


お待たせしました、連載再開です。

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