17 マッスル親衛隊
サキは熊にやられ放題の隊長達を横目に。
「エルゼマイアさん、あの二人、もしかして何か魔法を使っていますか?」
「ええ、どちらも防御力を上昇させる強化魔法を使用中です。だから彼らは頑丈だと言ったのですよ。とはいえ、やはり到底敵わないようなので私が代わります」
と足を進めようとするエルゼマイアさん。
その前に私は立った。体の奥から引き出した内なる怪物を身に纏って。
「リナ、様……、昨日より、纏う魔力が増えていませんか……?」
「はい、半分ほど制御できるようになりました」
私の魔力が教えてくれる。今ならこの魔獣は全く怖くないって。そして、私の魔力が訴えてくる。この魔獣に真の強化を見せてやれって。
ベアバルは私が近寄ると少し怯んだ様子を見せた。しかし、すぐに私を押しつぶそうと前脚を振り下ろす。
ズンッ!
片手で巨大熊の脚を受け止めた私の口元には、無意識のうちに笑みが浮かんでいた。
「いいお手だ」
そのままベアバルの前脚を掴み、グリンと捻って巨体ごとひっくり返した。空中で仰向けになった熊を勢いよく地面に叩きつける。
すると、ベアバルの体は一瞬で塵に変わった。
「え、粉々にするつもりはなかったのに」
首を傾げる私の背後からサキの声が。
「魔獣は命が尽きると塵になるんだ。それよりお前、厨二病全開だったな」
「……魔力がそうさせるんだよ」
先に交戦していたアンソニーさんとコンラッドさんが私を見つめているのに気付いた。二人はうっとりした表情で、かつなぜか涙を流しながら呟く。
「……まさに、強化の本質のようなその魔力……」
「……聖女様、あなたの魔力には、神が宿っています……」
魔獣に真の強化を見せつけるはずが、ムキムキの男性達を魅了してしまったらしい。
アンソニーさんとコンラッドさんは私の前で片膝をついた。
「「リナ様! 俺達をあなたの補佐にしてください!」」
……えー、お断りしてもいいですか?
助けを求めて視線をやると、サキは「してやれば」と軽い調子で言った。
「リナはどっちのムキムキとの結婚を選ぶんだろうな」
「……今のところ、帰還するって選択肢しかない。二人は隊長なんだから、私の補佐になったらエルゼマイアさんも困りますよね?」
「いいえ、全く。いっそ彼らの隊をリナ様の親衛隊にしましょう」
エルゼマイアさんの言葉を受けて、隊長達は私に熱い視線を送ってくる。
……熱い、暑苦しい……。
涼しさを求めて森の奥に目をやった瞬間、私の強化された聴覚が異変に気付いた。馬が大地を蹴るような音。すごい速さでこちらに近付いてくる。
「あっちから何かが四頭走ってくるよ!」
注意喚起してすぐにそれは見えはじめた。現れたのは馬ではなく、それと同じサイズの大狼達だった。
だが、魔獣達はこちらに到達する前にその動きを止める。上から見えない力で押さえつけられるように一歩も進めなくなっていた。
これはもしや、と振り向くとやっぱりサキが【加重】を発動している。
エルゼマイアさんは感心しながら魔獣達を眺めた。
「魔力をトラップのように前面に展開して、素早い敵を捕らえたのですね。そしてこの威力、さすが私を地の底まで落とした魔力です。……それにしてもリナ様の強化五感感知、私の魔力感知より高性能とは……」
一方、当の魔力で敵を捕らえているサキも大狼達を観察していた。彼女は事前に魔獣のデータも調べてきているので、その情報と照らし合わせている感じだ。
「こいつらは確かウルドノスという名前の魔獣だ。戦闘では騎兵のような突撃で戦線を崩してくるらしい。役割で言うならさっきのベアバルは戦車といったところだな。この二種類を確認できたら充分だよ」
そう言ってサキが放つ魔力を増やすと、ウルドノス達は瞬く間に塵に変わった。
敵の殲滅を見ていたエルゼマイアさんの顔が輝く。
「私が言った通り充分に戦えるでしょ! 皆様は参戦決定でよろしいですね!」
「まあ、私より攻撃力の高いカレンさん達も当然通用するし……。協力しますよ(さもないと、ムキムキ達の戦いを見る限り本当にやばそうですし)、とりあえず砦に帰りましょう」
サキがため息をつきながら手をかざすと、私達聖女五人とエルゼマイアさん、ムキムキ隊長二人が空中に浮かんだ。
こうして私達は帰りは空を飛行して砦へと戻ることになった。
砦に到着するとエルゼマイアさんはすぐに全騎士に召集をかける。どうやら私達の気が変わる前にさっさとお披露目してしまおうという魂胆らしい。
砦の外に舞台が設置され、その前に約一万人の騎士達が集まっていた。私達が舞台に立つと凄まじい歓声が巻き起こる。
エルゼマイアさんがあの拡声腕輪を使って話しはじめた。
「すでにあなた達にも伝わっていることでしょう! 私達の世界を救うために異世界から聖女様方が来てくださいました! しかもなんと、今回発現したギフトは五人共アルティメット! これはひとえに私の強運と強欲のなせる業です!」
いや、そこはレゼリオン神様のお導きとか言うところでしょ。この人、戦場に来る辺りからちょっとまともになったかと思ったけど、やっぱり相変わらずだ。
私達五人が白い目で見るのも一切気にせず、エルゼマイアさんは高らかに宣言した。
「そして、その五人のアルティメット聖女様がこの戦いに加わってくださいます!」
会場の興奮はピークに達した。先ほどより一層大きな歓声が私達を包む。
それから、エルゼマイアさんのさらに皆を鼓舞する演説がしばらく続いた後に、彼女は私の名前を出した。
「伝説のアルティメットギフト、【強化】保持者であるこちらのリナ様を補佐する騎士と親衛隊が決定しました! アンソニー隊、コンラッド隊、前へ!」
呼びかけに応じて、騎士達の中でも一際屈強な男達が進み出た。
……ちょっと待って、全員がムキムキなんだけど?
これが今年最後の投稿になりそうです。
本年は大変お世話になりました。
リナ
「……あの、ストーリーがおかしいことになっているんだけど。そもそも私は、当初のあらすじでは不愛想だけど純粋な騎士と戦場を駆けることになっていたよね?」
書いているうちに色々と変更がありまして、マッスル騎士達と駆けることになりました。
強化という能力からも、落ち着く所に落ち着いた感じです。
リナ
「いやいや! 落ち着かないで! 恋愛要素はどこにいったの!」
恋愛要素は皆無になりました。
どうしてもと言うなら、ムキムキ達との恋愛を考えますが……。
リナ
「…………、恋愛要素は皆無で結構です」
今後はマッスル要素も少し意識しつつ書いていこうかと思っています。
もしかしたら、リナも筋トレに目覚める日が……。
リナ
「待って待って!」
来年もよろしくお願いします。
皆さんに幸せな年末が訪れますように。