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16 筋肉

 二人の屈強な隊長達は、黒髪の方がアンソニー、金髪の方がコンラッドという名前らしい。彼らは、私達のような全く鍛えていない女性が強いと言われてもピンと来ない様子だった。話によると、つい筋肉で物事を見てしまう癖があるんだとか。

 ……なるほど、脳筋というやつかもしれない。


 サキが全然興味なさげな眼差しで隊長達を眺めながら。


「ちょうどいいので彼らにも一緒に来てもらいましょう。騎士の中で腕が立つと言われる人達が今回の魔獣とどの程度戦えるのか見たいです」

「ではこの二人は適任ですよ。とりわけ頑丈ですからね」


 エルゼマイアさんも、事態がまだ飲みこめていない感じの隊長達に目をやりつつそう応じていた。

 聖女参戦が軍全体で噂されるより先に、魔獣を確認してどうするか判断したい。というのがサキの考えみたいだ。

 仮に撤収となった場合を考えれば、期待を持たせてしまうよりいい気もする。


 転送された部屋から皆で移動しようとしていたその時、セフィルさんが伺いを立てるように。


「あの、私はこの砦に残っても構わないでしょうか……?」


 私含め聖女全員が無意識に彼と、アンソニーさんとコンラッドさんの二人を見比べていたと思う。示し合わせるでもなく返答が重なった。


「「「どうぞ」」」


 ――――。

 あまり人に見られることなく砦を出た私達は、その足で付近の森に入った。

 魔獣の本隊がいるのはまだ遠くらしいけど、斥候がうろついているとか。それを見つけるのは、一番魔力感知の範囲が広いエルゼマイアさんがやることになった。


 森の中を、ムキムキの二人が先頭に立って意気揚々と歩く。


「聖女様方に俺達の戦いを見ていただけるとは、腕が鳴るな。コンラッド」

「うむ、まったくだ。アンソニー」


 緑のトンネルを進むこと数分、エルゼマイアさんが片手を上げて皆の注意を引いた。


「魔獣を発見しましたが……、これはよしておいた方がよさそうですね」


 躊躇う彼女に、隊長達は豪快な笑いを返す。


「教皇様、これでも俺達は隊を預かる立場ですよ」

「そうです、聖女様方の前で恥をかかさないでください」

「そこまで言うなら、案内しましょうか?」


 先頭がエルゼマイアさんに代わり、私達はさらに森を進んだ。やがて木々の上に獣の頭らしきものが見えはじめる。

 ちょっと待って、でかくない? あれ、あの二人、急にどうしたんだろ?

 さっきまで意気揚々としていた隊長達が途端に意気消沈して見える。魔獣と思われる巨大生物に近付くにつれ、彼らは歩く速度も遅くなった。


 間もなく私は初めての魔獣の全体像を目の当たりにする。

 体長十メートルはあろうかという大きな熊がそこにいた。後脚で立ち上がると周囲の木々の高さを優に超えている。


「この世界の熊でかすぎ!」


 私が叫ぶと隣でサキがため息をついた。


「そんなわけないだろ、普通サイズの熊は普通にいるよ。これが魔獣だ。中でも大型の部類に入る奴だな。名前は確かベアバルだったか」


 言われてみればこの熊、頭に鹿みたいな角が生えているし、尻尾はまるで竜のそれだ。

 サキの解説を受けてエルゼマイアさんが頷いた。


「ベアバルはこの巨大さから相当な強敵と言えます。私なら一人で倒せますが、通常は一つの隊全員で対処することになります」


 ちなみに、隊は一つあたり百人前後で構成されているそうだ。今日は二人しかいないけど大丈夫かな。いや、全く大丈夫じゃないみたい。

 アンソニーさんとコンラッドさんは白い顔をして立ち尽くしていた。筋肉もどこか弱々しく見えるね。

 だが、ここでユズリハちゃんが無邪気な言葉を放つ。


「本来は隊で戦うこんな大きな魔獣を、たった二人で倒せるなんて……! さすがムキムキの隊長さん達です……!」


 小悪魔の残酷な一撃にミノリさんがおっとり乗っかる。


「きっとお二人の筋肉は見せかけじゃないんですよ」


 空気を読めない聖女達によって、隊長達は引くに引けない状況に追いこまれた。


「覚悟を決めろ! コンラッド!」

「もうやるしかないな! アンソニー!」


 アンソニーさんは剣を、コンラッドさんは槍をそれぞれ構えてベアバルに向かって走っていく。

 対する巨大熊の方は余裕の空気を漂わせている。まず、前脚の一薙ぎでアンソニーさんを弾き飛ばした。


「ぐわぁー!」


 彼は激しく木に叩きつけられる。結構な大木が折れちゃってるし普通なら即死しそうなものだけど、筋肉のおかげで何とか大丈夫なようだ。

 次いで、巨大熊はコンラッドさんを後脚で踏みつけた。


「ぐおぉー!」


 地面にめりこむくらい体が埋まってしまっているけど、こちらも筋肉のおかげで何とか大丈夫なようだ。


「二人共、筋肉があってよかったよね」


 私がそう呟くとサキは即座に振り返った。


「筋肉でどうにかなる攻撃じゃないだろ」

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