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14 裏表

 召喚から二日が経った。

 初日から私達は用意してもらったこの世界の衣服を着ているんだけど、今日のそれは一際きらびやかだった。

 というのも、今から国民に向けて私達聖女五人のお披露目があるからだ。

 正直、面倒で仕方ないけど、これを済まさないと町を観光できないそうなのでやるしかない。


 準備が整った私達は大神殿の一階エントランスに立った。正面の大きな扉が開かれる。

 まず眼下に階段があり、その先はひたすら人、人、人。見渡す限り一面が大勢の群衆で埋め尽くされていた。

 私達が姿を現すと人々は一斉に祈るような仕草をする。


 ……こ、こんな光景、見たことない。もはや本当の神になったみたいだ……。それより、この状況で本当に観光なんてできるの?


 私の胸の内に芽生えた不安が聞こえたようにセフィルさんが前に出た。手首には魔法の道具だという声を大きくする腕輪が付けられている。それを口元に近付けて彼は話しはじめた。


「これより大神殿の東出口広場にて、聖女様方がご提供くださった奇跡の果実の配布を行います。病人、怪我人への優先配布の他、一般の大抽選会が実施されます。皆様、奮ってご参加ください」


 静寂が一帯を包みこんだ。集まった人々からは、興味はあるがどうしたらいいか分からない、といった雰囲気が伝わってくる。

 この状況に、サキがセフィルさんの拡声腕輪を借りて追加で語りかけた。


「奇跡の果実はここにいる大地の聖女と治癒の聖女が皆様の健康を願って(一瞬で)力を込めたものです。私達はこれから幾度も町にお邪魔することになると思いますので、(ゆっくり町を見たいから構わず)どうぞ行ってください」


 ……サキ、余計なことや本音はうまく隠して言った。


 聖女様がそう仰るなら……、といった感じで人々は移動を開始。何万人という群衆が一斉に動き出す。


 おお、これもあまり見ない光景だ。少し申し訳ない気持ちもあるけど、やっと観光ができそうだね。食べ歩きなんかもしていいのかな。

 思えば、私は高校に上がってから全然それらしい楽しいことをやってない。焼き鳥を焼いた記憶しかないと言っても過言じゃないほどだ。

 世界は変わっちゃったけど、いよいよ私の女子高生ライフが幕を開ける!


 私以外の聖女達も各自心を踊らせているようだった。カレンさんが髪をかき上げながら大きく息を吐く。


「まず私はどこかでビールを飲むわ。聞くところによれば、この世界にも色んな種類のお酒があるらしいのよ」


 そっか、カレンさんは結構飲むタイプだったんだ。元の世界に帰ったらうちの店の常連になってくれないかな。ビール以外にもチューハイ各種、ハイボール、日本酒や焼酎、ワインまで色々と取り揃えているよ。


 一方で、ミノリさんとユズリハちゃんも二人で盛り上がっている様子だ。


「町には市場もあるそうですよ、ユズリハちゃん。私達の世界にはない美味しいものがきっと沢山あります」

「楽しみですね……! あ、市場の野菜や果物も私達の魔力でさらに美味しくしてみてはどうでしょうか……!」


 それをやっちゃうと奇跡の果実の価値がなくなるからダメじゃない? あと、一瞬でグレードアップできてしまうのもバレる。


 ともかく、私達は召喚以来初めてと言っていいほどに全員が胸を高鳴らせていた。

 足を踏み出そうとしたその時、神殿の中からエルゼマイアさんが慌てて走り出て来た。


「待ってください皆様! 前線からたった今緊急の連絡が!」


 私達の前まで来ると、彼女は突然その頭を深々と下げる。


「情報によれば間もなく魔獣達が一気に攻勢に出るようです! 大きな戦いになります!」


 頭は下げたままでさらに言葉を続けた。


「皆様はまだ魔法も習得していませんし、無理は承知の上でお願いします! 私と一緒にすぐに前線に飛んでください! あなた方なら絶対にもう戦力になります! 多くの騎士達の命が救われるのです! どうかお願いします!」


 エルゼマイアさんからはとにかく必死さだけが伝わってきた。それは普段の彼女とは別人に思えるほどに。これまでの気取った様子は一切ない。私達に助けを求め、ただ頭を下げている。


 明らかに人が変わった教皇様に他の四人も困惑していた。

 サキがセフィルさんに「……どういうことですか?」と説明を求める。


「教皇様は裏表が激しいと申し上げたでしょう。こと民の命が懸かる事案になると、この方は人が変わったように必死になるのですよ。……いつもは欲望のままに生きているくせに何だかずるい気がして、私は本当に苦手なのです」

「……つまり、私達が見ていたのはずっと表だったということですか」

「はい、こちらが素になります。だからこの戦時下、エルゼマイア様が教皇に選ばれたのです。孤児院出身の教皇様にとって、ご自分を育んでくれたこの国と人々は何より大切な存在。私もその姿勢だけはご尊敬しております。……苦手ではありますが」

「なら私とは似てないどころか真逆の人間だ……。気をつけなきゃこれ、マジで戦死するぞ」


 そうサキはしみじみと呟いた。

 私には彼女の言った意味はよく分からなかったけど、ただ、女子高生ライフを楽しむより先に戦争が来る予感はした。

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