11 アルティメット聖女達2
私達がいる執務室は確か大神殿の五階だったと思う。その床が一気に崩落して下の四階の部屋が見えていた。
もちろん、立っていた私達は足場を失って落下する。ミノリさんがおっとりと呟いた。
「あらあら、急に床が抜けるなんて異世界の建物は危険ですね」
「ミノリさんがやったんだよ! おっとりにもほどがある!」
そう私がつっこみを入れたわけだけど、当然ながら落下の合間にこんなやり取りをしている余裕はあるはずない。
私達聖女五人の体を包みこむようにサキの魔力が覆っていて、それによって全員が空中に浮いていた。
少し離れた所にいたユズリハちゃんがクロールのように泳ぎながらこちらにやって来る。(頑張って空気をかいてるけど、実際に移動させているのはサキだよね)
「ご、五人も同時に浮かせるなんて、サキさんすごいです……!」
「まあ私が皆に魔力の制御を急がせた手前、一番コントロールできるようになってなきゃな。五人を浮かせるくらいはやってみせるよ」
そう、浮いて難を逃れたのはサキ本人も含めて五人なんだよね。
ただ一人含まれなかったエルゼマイアさんが四階の瓦礫の上から私達を見上げていた。
「どうして私は助けてくれなかったのですか!」
「だって敵ですし。トップクラスの腕前ならそれくらい平気でしょ」
さらりと言い放ったサキはゆっくりとエルゼマイアさんの前に下りていく。
「せっかくですのであなたには私達の力をきちんと把握してもらいましょうか」
「……どういうことです?」
「確認なのですが、反転魔法は当然ご存じですよね? あれ、私達の魔力でも同じことができるんですよ。実はあなたも私の魔力で包んでいます。気付きませんでしたか?」
とサキがニヤリと笑うと、エルゼマイアさんは慌てた様子で自分の体を見た。
「まさかもう魔力の隠蔽を覚えたのですか!」
「反転とは逆の効果の付与です。私の【浮遊】の場合は逆効果というより逆噴射なので比較的簡単なんですよ。では、いきますね」
エルゼマイアさんが「待ってください!」と言った瞬間、その姿は彼女が立っている瓦礫の中に吸いこまれた。
……まるですごい速さで引きずりこまれたみたいだった。サキ、いったい何をしたんだろう?
まだ五階の高さの空中にいた私が手足をバタつかせると、気付いたサキが他の四人と一緒に下ろしてくれた。
「エルゼマイアさんはどうなったの? サキの【浮遊】の反転って?」
「簡単に説明するとだな、【浮遊】って下から見えない力で持ち上げてる感じなんだよ。水平に移動する場合は反対側から押す感じな。そして、上方向から力を加えるのが反転だ。【加重】と呼ばれている」
「じゃあエルゼマイアさんは……」
「さらに下まで落ちていった」
教皇様がいた場所には穴が開いていた。上から覗きこんでみると、下の階にもまた穴が開いているのが見える。
「まさか一階まで?」
「いや、もっと下までだ。トップクラスの腕前だから手加減しなくて大丈夫だと思ったんだけど……、とりあえず迎えにいこう」
容赦のないサキの先導で私達は四階の瓦礫だらけの部屋を出た。
大神殿の階段を下へ下へと下りていく。
辿り着いたのは地下の食料貯蔵庫だった。迷路のようにいりくんだ通路と、点在する無数の小部屋。貯蔵庫というより巨大な貯蔵施設といった雰囲気だ。
なんかダンジョンっぽい感じがするな、異世界だけに。
と一つの部屋の扉を開けると、そこに大ボスの教皇様が倒れていた。
その姿を見ていて、私の中に素朴な疑問が湧き上がってきた。
「エルゼマイアさんって本当にトップクラスの腕前なんですか? 実は世界的に見たら大したことないんじゃ……」
ゆっくりと体を起こした彼女は私達五人に恨めしそう視線を向けてくる。
「……世界的に見ても私は上位ですよ。皆様がおかしいのです。……うぅ、体中が痛い、どこか骨が折れているかもしれません。(あちこち焦げてもいますし)そうです、ユズリハ様の魔力で治してください」
よろつく足取りでエルゼマイアさんはユズリハちゃんの方へ。これを見ていたサキがぽつりと呟いた。
「そうそう、ユズリハちゃんは非常に優秀で、彼女も魔力の反転を覚えたんですよ。この子のは正真正銘の反転です」
この発言に、エルゼマイアさんはさっきとは見違えるほどのスピードでユズリハちゃんから距離を取る。
「……【治癒】の反転とは、まさか」
おーっと、ただ一人まともな聖女かと思われたユズリハちゃんから突然危険な香りが。