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10 アルティメット聖女達1

 狂気にも近い欲望の魔力を察知し、私達はエルゼマイアさんから距離を取った。昨日、解説の過程で見せてくれた魔力とは比べものにならない大きさだ。本気で実力を行使するつもりらしい。

 激昂する教皇様とは対照的に、サキは落ち着いた様子でポケットを探る。


「ではその実力を見せてください。このコインを曲げられますか?」


 とサキは取り出した銀貨を投げ渡した。これを受け取ったエルゼマイアさんは余裕の笑みを浮かべる。


「ふふ、容易いことです。ほら、この通り」


 彼女は指先でぐにゃりと銀貨を二つ折りにして見せた。

 しかし、サキの方は全く表情を崩さない。


「それをもう一回折れますか?」

「…………、ちょっと無理です」

「そうですか。じゃリナ、魔力を纏って」


 私の出番が来たみたいだ。

 教皇様の実力を見るためにコインを使うことはあらかじめ決めてあった。もうこの時点で全員が胸を撫で下ろしていると思う。

 私は内なる怪物を少しだけ起こし、体の外側へと導いた。

 それを観察していたエルゼマイアさんの顔が徐々に青ざめていく。


「な、何ですか、その魔力は……。昨日と全然違います……」

「昨日のリナは魔力をただ外に発散させていただけですからね。これがきちんと留めた、【強化】保持者本来の魔力です。と言っても、ごく一部なんだっけ?」


 サキから話を振られた私は頷いて返す。


「うん、まあ大体、私がコントロール可能な五分の一くらいかな。エルゼマイアさん、そのコイン貸してください」

「ご、五分の一……。はい、コインどうぞ……」


 銀貨を受け取った私は、二つ折りになっている状態からさらにもう一回折った。あとは指先でくるくると回転させて……。こんなもんでいいか。

 綺麗な球体になったそれを私はテーブルの上に転がした。


 コロコロコロコロコロ……。


 かつては銀貨だった球体をじっと見つめるエルゼマイアさん。突然私に対して手を向けた。


「ば、化け物っ! この化け物がーっ!」


 彼女の掌から放たれた炎が私の全身を包みこむ。


 ちょ! ちょっと何やってんのこの人!

 あつつつつつつつつっ!

 ……と思ったけど、全然熱くなかった。魔力がしっかり守ってくれてる。不思議だ、まるで偽物の火みたい。

 だが、周囲の仲間達には炎に包まれた私は相当危険な状態に見えたらしい。


「何リナさんを燃やしてるのよ! このバカ女!」


 叫び声を上げたカレンさんの体からも炎が吹き出していた。見る見る彼女の目の前に集結して大きな火の玉を形成。したかと思ったら、エルゼマイアさんに向けて発射された。

 ボボワッ! と教皇様の全身も大きく燃え上がる。


「ぎゃあ――っ! あつつつつつつつつっ! なぜ魔法で放った私より高威力なんですか!」


 ……私よりも燃え方が激しい。あっちは本当に熱がってるね。カレンさん、なんか普段より魔力が上がってない?

 目を向けると彼女は怒りの表情で火の玉をもう一つ作っていた。

 まずい! あと一発追加されたらエルゼマイアさんは無事じゃ済まない!(すでに無事じゃないけど!)


「カレンさん! もう撃たなくて大丈夫! 見て! 私は全然何ともないから!」

「え、そんなに火だるまなのに何ともないの?」


 私が纏っている魔力を細かく震わせると炎はパッと発散した。


「ね、全く焦げてもないでしょ? 教皇様の火も消してあげて(たぶん自力じゃ無理だから)」

「それじゃあ……」


 カレンさんが消火するとエルゼマイアさんの方は結構焦げていた。


「ありえません……。昨日召喚されて魔力を得たばかりなのに、ありえません……。これがアルティメット聖女達……」


 やや放心状態でぶつぶつと呟く教皇様をカレンさんが睨みつける。


「それよりリナさんに謝りなさいよ! 私達の世界でそんな風に人を燃やしたら数年間は檻の中なのよ!」


 まだプンプン怒りながらもカレンさんから吹き出す炎は大分収まってきていた。

 やっぱり怒りと魔力が連動している気がするな。たぶんサキなら知ってるよね。と視線をやると、彼女はこの状況にもずいぶんと落ち着いている。


「私が火だるまにされたのに冷静すぎでしょ」

「エルゼマイアさんが何をしようがリナには効かないって分かっていたから」

「あっそ。それでカレンさんはどうして強くなったの?」

「魔力は精神状態の影響を大きく受けるんだ。怒ったりすると威力が上がる反面、制御が難しくなる。特に私達の魔力の場合、直接の影響が出るから気をつけないとな」


 サキがそう言った直後、ミノリさんが「あ」と声を上げた。


「リナさんの火だるまで私も怒ってしまいました」


 え……、それってどういうこと?

 尋ねるより先に部屋の壁や床が軋み出す。

 私が顔を向けるとサキは頭に手を当てていた。悩ましげなそのポーズのまま話しはじめる。


「ミノリさんの【大地】の魔力は植物をすくすく育てるだけじゃない。木や石、鉄などあらゆる地由来のものに干渉可能で、破壊も可能だ」


 サキが説明を終えたその時、私達の立っている床が完全崩壊した。

 人間の建造物とかは大体壊せるってことか!


 エルゼマイアさんが泣きそうな声を出す。


「引っ越したばかりの新しい執務室がー!」


 あなたは割りと自業自得です。

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