1 召喚
いつの間にか私は広々とした神殿の舞台に立っていた。私一人じゃなく、他に四人の女性がいる。年齢は十代と二十代といったところだろうか。小学生や会社員まで様々だ。全員が私同様にこの状況に困惑していた。
私達の目の前には数人の人がおり、いずれも中世のような服装をしている。演劇の人達かな? じゃあ舞台に立つのはそっちじゃないの?
とりあえず、説明を求める視線を投げかけてみた。うーん、外国の人ばっかりっぽいけど言葉通じるのかな。
と思っていると、二十代後半の男性が弾かれたように前に進み出て来た。
「せ、聖女の皆様! ようこそおいでくださいました!」
あ、日本語じゃないのになぜか言葉が分かる。それより、……聖女?
男性はそのまま状況の説明を始めた。
どうやら私達五人は日本からこの異世界に召喚されてしまったらしい。そういえばここに来る直前、光に包まれて目の前が真っ白になったような気が……。派手な立ちくらみだと思ったけど、なるほど、あれは召喚だったのか……。
そして、私達を喚び寄せた理由は、この世界のために私達の力を貸してほしいからだという。
んん? 拉致同然で喚んでおいて、ずいぶん都合のいいことを言うじゃない。頼み事をするなら相応のやり方ってものがあるでしょ。
私は舞台の端まで歩いていって屈みこみ、男性と同じ高さで目線を合わせた。
「もてなしとかないんですか? 話はそれからです」
「承知しました……。すぐにご用意します……」
「何だか大変そうな話なので、盛大にお願いしますね」
「承知しました……。盛大におもてなしさせていただきます……」
おお、日本語じゃないのになぜか会話できた。
どこかおどおどした様子の男性は慌てて後ろに控えている人達に指示を出しはじめる。当然の主張だしパワハラとかじゃないよね?
今の会話を振り返っていると、会社員らしき女性が歩み寄ってきた。
「……あなた、すごいわね」
「え、今のパワハラでしたか?」
「そういう問題じゃなくて、私含めて他の子達はもうただただパニックなのに、ってことよ」
まあそりゃ、私だって驚きはしたけど召喚されてしまったものは仕方ないっていうか。
だけど、私はどちらかといえば度胸がある方かもしれない。
原因は育った環境にある。私の家は焼き鳥屋を営んでいて、私も高校一年ながらお店を手伝っていた。お客さんは大体が年上で、お酒も提供しているので中には困った人も。それでたぶんこういう事態でも落ち着いて対処が……。
「いやいや、その理屈でいくと焼き鳥屋の娘は全員が強靭な精神力を備えていることになる。あなたの度胸はおそらくあなた固有」
こう言ったのは私と同じ高校生らしき女性だった。
盛大なおもてなしの準備が整うまでの間、せっかくなので私達五人はお互いに自己紹介をすることにした。
私達の話す言葉はなぜかこの世界の言葉に置き換わり、名前は下の名だけが自然と口から出て来る。きっとこれがこの世界での私達の名前なんだろう。
まずは私から自己紹介を開始した。
「私はリナです。先ほども言った通り焼き鳥屋の娘で高校一年の十五歳です」
続いて他の四人もそれぞれ簡単に名乗った。
年齢順に説明すると、一番上は会社員の女性。不動産会社勤務の二十五歳、カレンさんという。すでに社会人なだけあって、何だかしっかりした雰囲気のお姉さんだ。
「そんなにあてにしないでね。ここまで異常な状況で何かできる自信なんてないから」
確かに、こんな異世界で頼りにされても困るよね。ちゃんと前置きしておくあたりしっかりしてる。
次は文学部の女子大生、二十歳のミノリさん。やはり本が好きなようで、おっとりした感じが伝わってくる。
「私、こんな感じですので皆さんにご迷惑をおかけするかもしれません。いえ、きっとおかけします。その折はよろしくお願いします」
私達に深々とお辞儀してきた彼女は、ほぼ間違いなくおっとりしている。
そして、高校二年のサキさん。私より一つ年上の十六歳で、理系なのできっちりした性格とのこと。
「いやいや、その理屈でいくと理系は全員がきっちりした性格ってことになるでしょ」
こう私が突っこむとサキさんは「ナイス切り返し。期待通りだ」とニヤリと笑った。きっちりしているかは不明だけど、私が遊ばれたのは分かった。
最年少は小学五年のユズリハちゃんだ。十歳という年齢のせいもあるのか、どこか怯えた様子でちょっと可愛い。
「わ、私、一人じゃなくて、よかったです……。で、できることは、精一杯頑張ります……!」
臆病ながらも懸命に勇気を振り絞ろうとしているのが伝わってきた。本当に可愛い。
ちょうど自己紹介が済んだ頃、さっきの男性がバタバタと私達のいる広間に戻ってきた。
「お待たせしました! 皆様、宴席の準備が整いましたのでどうぞこちらへ。申し遅れました、私は皆様のお世話をさせていただきますセフィルと申します」
彼の自己紹介も聞いたところで、私は再び舞台の端でしゃがんだ。
「セフィルさん、きちんと盛大なんでしょうね?」
「最大限、努力しました……」
お世話係の案内で私達は召喚された広間を後にした。長い通路を歩いているとサキさんがススーと私の背後に。
「今の、ちょっとパワハラっぽかったな」
「え、ほんとですか?」
「それより、ここまでで分かったこともある。リナ、年も近いから私には呼び捨てのタメ口でいい」
「なら今から友達ね。で、分かったことって何なの、サキ」
「わがままを聞いてもらえるくらい私達は強い立場にいるってこと」
「なるほど、じゃあごちそう食べ放題かな」
「もっと要求すべきことがある。なんで食べ物メインだ。そっちはあまり期待しない方がいいし」
そうなの? かなり楽しみにしてるんだけど。