第13話裏 後日談
王国記念日から二週間が経ちました。
ビーリスはリトニアに話があると言い、時間を作ってもらっていました。
嫌な予感がしていたリトニアは、あまり乗り気ではありません。
ビーリスはバロンを連れ、共にリトニアのもとを訪れました。
他愛のない挨拶を交わした三人は、その後、王国記念日の話をしていました。
リトニアは、他の貴族やその関係者が急な訓練に戸惑っていなかったか、何か変化はなかったかと尋ねました。
そして最後に、アリアたちが古封異人アクィラを討伐したこと。彼らが新たな進化を遂げようとしていること。アクィラとメイドの女性には認識がなさそうだったことを、二人に話しました。
話がひと段落した後、ビーリスは満を持して口を開きます。
「リトニア国王。本日をもちまして、私は……公爵の爵位を返上させてください」
リトニアは頭を抱え、うつむきました。
「えぇ!? どういうことですかな? ビーリス公爵」
「それは……」
「それは僕から話そう」
バロンの言葉にビーリスが語ろうとしますが、リトニアはそれを制しました。
ビーリスがこれまでの自分の行いに罪悪感を抱いていることは、リトニアも承知しています。しかしリトニアは、一人の友人として、ビーリスをこのまま終わらせたくはなかったのです。
「前にも言ったけど、そう遠くない未来、ハンターギルドと古封異人と決着をつけなきゃいけない日が来る。今回の王国記念日は、そのための予行練習だった。冒険者に、ハンターギルドとして、ビーリス君に悪役を頼んだんだ」
「なるほどですぞ。でも、それとビーリス公爵が爵位を返上することに、どんな関係があるのです?」
「リトニア国王! それは違います! 私は自分自身の利益のために、この国を危険に晒したのです!」
ビーリスの言葉を否定するように、リトニアは首を横に振ります。
「彼は、演技だったとしても、僕を、この国に危害を加えたことに責任を感じているんだよ」
ビーリスは胸に手を当て、「違うっ、違うっ」と言葉にします。
「えっと、どちらが正しいのですかな……。しかし、ビーリス公爵は否定されておりますし……」
「僕の言葉が信じられないかな?」
「い、いえ! 決してそのようなことはありませんぞ! ビーリス公爵もお疲れで、混乱されているのですな」
ビーリスはバロンに視線を向けました。
「私の言葉が信じられないのですか?」
「い、いえ! そんなことはありませんぞ!」
そしてバロンは両手を頭に乗せ、大声で叫びました。
「わ、私はどうすればよいのだーーーっ!」
リトニアは玉座から降り、バロンの肩に手を置きます。
「まあまあ、落ち着いて」
そして小さく笑いました。
「じゃあ僕からも一つ、大事な話をいいかな。まだ誰にも言ってないんだけど」
「はいですぞ」
「もちろんです」
リトニアは二人から少し距離を取りました。
「僕の未来視が……無くなったかもしれないんだ」
「「えぇっ!?」」
二人は大きく反応しました。
「何か心当たりがあるのですかな?」
リトニアは静かに語ります。
古封異人のアジトの場所を確認するため外に出た時、名も知らぬメイドに襲われ、首を掴まれ血を吸われたこと。その日を境に、未来視の能力が使えなくなったこと。
最初は偶然だと楽観視していたようです。
「二週間まったく視えないなんて、今までなかったんだよ。だから確信はないけど、もしかしたらってね」
「やはり、私のせいです。なんとお詫びすればよいか……」
「いやいや、別にビーリス君のせいじゃないよ!? 謝ってほしくて言ったわけじゃないんだ」
深く頭を下げるビーリスに、リトニアは慌てて言いました。
「私にはなぜそこまで自分を責められるのか分かりませんが、リトニア国王がそう言っておられるのです。あまり自分を追い詰めなくてもよろしいのでは?」
「バロン君の言う通りだよ。どんな境地に立たされても、前を向いて歩くしかない。これで僕からの話は終わりだよ。バロン君、先に退出してくれて構わない。お疲れ様。ビーリス君は少し落ち着いてから出ようか」
「分かりましたですぞ。本日はありがとうございました。失礼いたします」
バロンは一礼し、王室を後にしました。
「さて、ビーリス君。メイドの格好をした女性の話をしたよね。実は続きがあるんだ」
「続き、ですか?」
「あのメイドが姿を消す時に、こう言ったんだ。『次はあなたです。アリア・ヴァレンティン』と」
「そんなことが……」
「古封異人たちは古の魔道具を集めているようだ。もしかしたら、アリア君が身につけているアクセサリーが関係しているかもしれない」
ビーリスは静かに目を擦り、息を整えました。
「これから言うのは国王としての勅命だよ。ビーリス・グラミアン公爵」
「はっ!」
「アリア君を君の手で守りなさい。そして、この国のために力を貸してほしい」
「承知しました。この命に代えてもアリアさんを守り、主君のために尽くします」
「頼んだよ」
リトニアは微笑み、ビーリスは王室を後にしました。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさいませ、ご主人様」
屋敷に戻ったビーリスは、コトネに荷物を手渡しました。
「アリアさんはどこにいるか分かりますか?」
ビーリスの問いに、コトネは庭の方を指します。
「お庭で、グレイス嬢とメリアと鬼ごっこをしております」
冷静な口調でした。
「グ、グレイスもですか!? そ、そうですか……ありがとうございます」
ビーリスは一度、自室へと戻ります。
机の引き出しを開けると、複数ある小型のケースの中から一つを手に取りました。
それを右胸のポケットにしまい、アリアたちのいる庭へ向かいます。
「父上ーー!」
先に気づいたのはグレイスでした。
「おぉ、グレイス。走れるほど元気になったんだね」
グレイスは父の胸に飛び込みます。
ビーリスは愛娘の頭を優しく撫で、しっかりと抱きしめました。
「グレイスちゃん、見ーつけたーー!」
「アリアお姉様! 見つかってしまいましたわ!」
「あ、先生だ! こんばんは!」
「アリアさん、こんばんは。娘と遊んでくださってありがとうございます。今日はアリアさんにお渡ししたいものがあるのです」
そう言うと、グレイスは父の胸から離れました。
「なーに?」
ビーリスは右胸のポケットから小さな箱を取り出し、ぱかりと開きます。
「これです。受け取ってください」
「わぁぁっ! 綺麗なバッジー!」
箱の中には、円形の中に蝶の紋章がレリーフ加工されたバッジが収められていました。
アリアはそれを受け取ると、空にかざして輝きを楽しみます。
「これは『爵位推薦バッジ』といいます。このバッジを七つ集めると、国王様から爵位を授けられるのです」
それを聞いたアリアは、そっとバッジを箱に戻しました。
「どうしました?」
「私、貴族に興味ないから、受け取れないよ」
「それでも、受け取っていただきたいのです。私からの感謝の印です」
「うーん……こういうのは、軽々しく受け取っちゃダメな気がするの」
「では、こうしましょう。このバッジを検問官に見せれば、アリアさんは特別に通すよう、こちらから伝えておきます」
「そんなことできるの?」
「本来、このバッジにそのような効力はありません。しかしアリアさんは特別です。私から伝えておけば問題ありません」
「そんな、悪いよぉ」
まだ迷うアリアの手を、グレイスがきゅっと握ります。
「アリア姉様、ぜひ受け取ってください。またわたくしと遊んでくださいませ」
「むむっ!? グレイスちゃんたちと遊ぶには、これがあった方がいいの?」
「はい。出入り自由になりますから。なんでしたら、このままあの部屋を使っていただいても構いませんよ」
ビーリスの言葉に、アリアはさらに悩みます。
「うーん……気持ちは嬉しいけど、ズルしてる感じがするぅ」
しばらく考え込んだ末、アリアは顔を上げました。
「先生! それ、もらうね! またみんなと遊びたいから!」
その言葉に、ビーリスは穏やかに微笑みます。
「アリアお姉様! また遊びに来てくださいね!」
「私、グレイスちゃんのお姉ちゃんじゃないよぉ?」
「お姉様はお姉様です」
そう言ってグレイスは抱きつきました。
「えへへ〜、お姉ちゃんかぁ。懐かしい響きだ」
照れくさそうに笑うアリア。
「では改めて。受け取ってください」
ビーリスは再び箱を開き、差し出します。
「わーあ! ありがとう! 大事にするね!」
こうしてアリアは、爵位推薦バッジを受け取りました。
また遊びに来ると約束を交わしながら、彼女はグラミアン領を後にするのでした。
遅くなりましたm(__)m
これにて第4章裏が完結となります♪
次回の第5章は『魔王会議編』となります\(//∇//)\
魔王メインの物語となり、新たな魔王も登場します(^^)




