第12話裏 集結する異形たち
アリアと別れてから、ジュゲナはひたすら研究室に篭っていました。
薄暗い石造りの部屋には配線と歯車が唸り、冷たい蒸気が微かに立ちのぼっています。傍らにはバイナリがじっと控えていました。
ジュゲナは実験台に手をかけ、赤黒く光る試験管を見つめながら、不敵な笑みを浮かべてつぶやきました。
「感謝しますよ、リトニア国王」
それを聞いたバイナリは、機械のように冷静な口調で問いかけます。
「ジュゲナ様、先ほど注入された液体は何でございますか?」
ジュゲナは満足そうに胸を張り、手に持った小瓶を示しました。
「あれは古代の結晶を液状に還元したものです。それをこの――」
彼女は隣に据えた、歯車と晶体格子を組み合わせた奇怪な装置を指さしました。
「――結晶増殖装置に投入すれば、古代結晶が自己複製を始めます。媒体となる液体が触媒になれば、無限に古代結晶が増殖する。つまり、その結晶を使って無限古封異人を作り出せるのです」
ジュゲナの声は昂りに満ちていました。バイナリは冷静に頷きます。
「驚くべき発明でございますね」
「長年の蓄積と、リトニア国王の記憶から拝借した幾つかの断片があってこそ、です。あの記憶があったからこそです」
ジュゲナは作業台の上で、小さな歯車をくるくると弄りながら言いました。
「さて……もう少しで“わたしの子どもたち”が戻ってきます。その前に、このセットをハンターギルドのグロキウスさんに届けてほしいのです、バイナリさん。お手伝い願えますか?」
「えぇ、承知いたしました」
「快いお返事、感謝します」
ジュゲナは歯車と、二色に光る液体の瓶を二つ、丁寧に包んでバイナリに手渡しました。
「グロキウスという方は、どのような人物でしょうか?」
「グロキウスさんは私の研究者仲間です。少しクレイジーですが、腕は確か。『ジュゲナからの贈り物』と伝えれば、受け取ってくれるはずです」
「了解しました。すぐに参ります」
バイナリはワープゾーンを瞬時に展開し、静かに消えました。
抜けた空間に、機械音だけが残ります。
バイナリが去るのを待っていたかのように、どこからか岩を叩くような音が「コンコンッ」と響きました。
「姉さん、失礼します!」
目にもとまらぬ速さで二、三の影が現れ、ジュゲナの前にひざまずきます。
「失礼しますっぺ!」
続いて二人、三人とやってきました。ピーコック、アークトゥルス、ハダル。
ジュゲナはにこやかに迎え入れました。
「あら、お帰りなさい。ピーコックさん、アークトゥルスさん、ハダルさん。あの、アルデバランさんは一緒ではないのですね?」
膝をついた青年は、整った顔立ちに桃色の羽根を持つピーコックでした。
次に入ってきたのは大きな麦わら帽をかぶり、どこかのんびりとした風体のアークトゥルス。
最後に、黒いフードに両手には赤く光る鉤爪を装着した無口なハダルが控えていました。
「あいつのことは知りません。そんなことより聞いてください! このピーコック、姉さんのために『エルフの大秘宝』について情報を持って帰りました」
その言葉にジュゲナの瞳が鋭く光ります。
「おぉ! よくやりましたピーコックさん! 早く聞かせてください!」
ピーコックは少しおどおどしつつも、エルフの里跡地で見聞きしたことを饒舌に語り出しました。
エルフの大秘宝は五つあり、エルフの族長が魔門の先に封印されていること。
そして一つでも手に入れば国家をも傾けるほどの秘術が秘められていること――。
話の合間にジュゲナへの尊敬と愛を混ぜるのが彼の癖でした。
「素晴らしいですわ、ピーコックさん。よく見つけてくださいました」
ジュゲナは満面に笑みを浮かべて褒め、ピーコックは目を潤ませて「ありがたき幸せ……」と零しました。
やがて、ジュゲナは話題を切り替えます。
「魔門。私も調べたことはありますが、起動しなかったのですよ。誰か魔門の動かし方を知っている方はいませんか?」
だれも明確な答えを持たない中、アークトゥルスが手を挙げました。
「オラからもいいだすかぁ? 東のパサラヌ砂漠で魔道具を拾ってきただよー。これを見てけれ〜」
壊れたランタンのような古びた魔具を手渡され、ジュゲナはそれを手に取り、薄く笑みを漏らします。
「古代の結晶の残滓が残っていますね。これはジュゲ……コホンッ。私が作った古の魔道具に違いありません。よく持ってきてくれました、アークトゥルスさん」
アークトゥルスは満足そうに笑い、ハダルは自慢の鉤爪で床に棒人間を三つ描いて見せます。
絵は下手でしたが、その無骨さがまた愛嬌を呼びます。
「うーん、仲良し三人組……? 三人を落とし穴に落とした……? ま、まあいいでしょう。報告ありがとうございました」
ジュゲナは頑張って解読しようとしましたが、結局諦めました。
そこへ、洞窟の奥から大きな笑い声が轟き、アルデバランと銀色の鋼鉄をまとった機械人マグニクスが現れました。
「グワーハッハッハー! もう集まっていたのか! それは愉快愉快!」
「あぁ、早く抱きしめたい、あぁ、バキバキと骨が折れる音が早く聞きたいぃぃっ!」
姿を現したのはアルデバランと銀色の鋼鉄を纏った機械人でした。
「おや、アルデバランさん、マグニクスさん。おかえりなさい」
ジュゲナは二人をもてなします。
「グワッハー! これはこれはジュゲナ様ー! 再会を祝したダンスを踊るぜい!」
「えぇ、それはまた今度で」
ジュゲナは苦笑いで誤魔化します。
「あぁ、ジュゲナ様ぁ。早く人間を殺せとご命令下さい。早く人間どもを肉塊にしてグッチャグチャのベッチャベチャにしたいんですぅ」
「辞めないか二人とも! ジュゲナ様がお困りだろ! ダンスなど一人で隅でやってろ! マグニクス! お前の気持ち悪い趣味に誰も付き合わん! ジュゲナ様には素晴らしい計画があるのだ! 邪魔をするな!」
ピーコックは二人に激しい怒りを見せます。
ジュゲナは微笑を崩さず、しかし冷徹に口を開きます。
「ほっほほ、ピーコックさんありがとうございます。お二人の気持ちはよく分かります。計画が完了した時に、みんなで踊って人間と魔族を皆殺しにしましょう。
そ、それより、マグニクスさん、アクィラの回収はしていますか?」
「あぁ、もちろんです。あぁ、アクィラ先輩の素晴らしい喘ぎ声……素晴らしかった……。また聞きたいぃぃぃ!!!」
マグニクスの熱を帯びた返答に、ジュゲナは小さく頷きます。
ピーコックは拳を握り、アルデバランは狂喜を抑えきれない様子です。
ハダルは相変わらず静かに居眠りを決め込んでいます。
「では、マグニクスさん、鎌を修復してくれますか?」
「あぁ、お任せくださいぃぃ」
「それでは、今日の作業はここまでとします。アルデバランさん以外は、我々の存在はまだ人間にも魔族にも露見していないでしょう。くれぐれも慎重に活動をお願いします」
そして、ジュゲナ以外の人物はバラバラに散らばりました。
ハダルはアルデバランが回収して行きました。
すると、ワープゾーンが現れ、バイナリが姿を現しました。
「バイナリさん、おかえりなさい。例の物は届けてもらえましたか?」
「えぇ、届けて参りました。グロキウスからジュゲナ様への伝言を受けております。『これで例の能力を移植できる』と」
「そうですか。それは良い知らせですね」
ジュゲナは薄笑いを浮かべ、暗い地下室の奥へと歩みを進めます。
その背中は小さく震えているかのようで、期待と冷たい確信が入り混じっていました。




