第9話裏 戦いの後に
アクィラを倒し、一息ついたころのことでした。
アリアは、彼の最後の叫びを思い返しながら、しょんぼりとした表情を浮かべていました。
「なんか、悪いことしちゃったかなぁ……」
不安そうにぽつりと呟きます。
ツバキはすぐにアリアの元へ駆け寄り、背中をポンポンッと優しく叩いて励ましました。
「大丈夫ですよ。アリアちゃんは王様を守ったんです。悪いことなんてしていませんよ。胸を張ってください」
アリアは、これまで獣や竜と戦うことはあっても、人の命を奪ったのはこれが初めてでした。胸の内には重たい罪悪感が芽生えているようです。
「うーん……そうかなぁ? でも、すごく苦しそうだったし……」
ツバキはゆっくりと頷きながら、静かに語ります。
「そうですね。でも、これは戦いです。何かを成し遂げたい者、独裁者になりたい者、誰かを守りたい者――みんな目的は違っても、命を懸けているのは同じなんですよ。身体を傷つけ、心を痛め、それでも守りたいものがある。だからこそ、今アリアちゃんもここに立っているんです」
少し間を置き、ツバキは柔らかく微笑みました。
「僕もこれまで、悪い人間は何人も倒してきました。でも、後悔はしていません。この手がどれだけ血で汚れようとも、大切な人を守れたのなら、誇りに思っていいんです」
「そっか……そう考えると、ちょっと楽になったよ!」
アリアはぱっと表情を明るくし、元気よく笑いました。
「ツバキちゃん、ありがとう! 私も、もっと強くなるね! 下を向いてたらダメだもん! 前に進む!」
「はいっ!」
ツバキも力強く頷き返しました。
その後、アリアは灰となったアクィラの遺骸と、彼の武器だった鎌を拾い上げ、洞窟の近くまで運びました。
地面を手で掘り、灰と鎌をそっと埋め、固めてから静かに手を合わせます。
「お墓を作ってあげたんですね。優しいですね、アリアちゃんは」
「ううん、全然。こんな簡単なのしか作れなくて、ちょっと申し訳ないくらいだよ」
その時でした。
突然、近くで大きな爆発音が響き渡りました。
驚いて音の方を向くと、そこには身長二メートルを超える筋骨隆々とした大男が立っていました。
その男はニタァと微笑んだかと思うと、次の瞬間、大粒の涙をぼろぼろと流し始めます。
「うおおぉぉ!!! 感動したぁっ! 感動したぞぉぉっ!! 敵であるアクちゃんを悲しむだけでなく、お墓まで作るとは……! なんて優しいんだお前は! 俺っちは感動して涙が止まらんぞぉぉ!!」
「な、なんですかあなたは……?」
ツバキが少し警戒しながら尋ねます。
男は涙をぬぐい、その剛腕を振って自己紹介を始めました。
「紹介が遅れてすまなかったな! 俺っちは戦闘型古封異人の一人、アルデバランだ。愛槍の名は爆槍・ミノナルキ、特技はダンスだぜ! 詫びに爆発するダンスを披露してやろう!」
アルデバランは黒いサングラスをかけ、坊主頭に無精髭。黒のミリタリージャケットを羽織り、肩に大きな槍を担いでいます。
彼が槍を地面に突き立てると、ポンッという音とともに、槍の先端からカラフルな実が四つ実り、コロコロと地面に転がりました。
それは高密度の爆実と呼ばれる、可愛らしい見た目とは裏腹に爆発する危険な果実です。
「ミュージック! スタートォッ!」
爆実たちは小さく爆発しながら動き回り、まるでダンスに合わせて踊るように跳ね回ります。
「ヘイヘイッ! 一緒にダンシング!」
「えへへっ……ちょっとだけなら……」
アリアも照れながら小さく体を揺らし、踊りに合わせました。
五分ほど踊ると、アルデバランは高らかに宣言します。
「いいねぇ! そろそろフィニッシュといこうかぁ!」
アルデバランは高くジャンプし、華麗にポーズを決めます。
着地と同時に、爆実たちはクラッカーのようにポンポンと小さく爆発しました。
「いいフィニッシュだったぜ! 今回は時間がなくて第一節のショートバージョンしか披露できなかったが、次に会った時は第十節まで披露してやってもいいぜ!」
「これで第一節のショートなんですね……。一体、何節まであるんでしょうか」
「俺っちの愛が尽きぬ限り、永遠に続くぜい!」
そう言って、彼は満足げに笑いました。
「さて、俺っちの役目はここまでだ。そろそろ退散させてもらうぜ!」
「またねー! ダンスのお兄さん!」
「何しに来たんですかね……」
ツバキがぽつりと呟くと、アルデバランは後ろを指差しました。
振り返ると、アリアが埋めたはずの土が掘り返されています。
ツバキは慌てて土を掘り返します。
「あっ! 鎌がなくなっています!」
「そうなんだー」
アリアは能天気に返事をします。
「俺っちの役目は、君たちの視線をこちらに向けさせることだったのさ! その隙に俺っちの仲間がアクちゃんの鎌を回収する! グワッハッハ!」
「なるほど……だから感動したとまで言って踊っていたのですね。でも、なぜ僕たちにわざわざ話を?」
「ああ、俺っちたちは敵同士。だが、敵の死を悼めるなんて、なかなかできることじゃねぇ。感動したのは本当だぜ」
アルデバランは豪快に笑います。
「これから人間、魔族、そして俺っちたち古封異人との戦いはもっと激しくなるだろう。俺っちたちは大きな進化を遂げる。だから、この三つ巴の戦いに勝つのは――古封異人だ! グワッハッハ!」
ツバキは息を呑みつつ問い返します。
「そんな重要な話を、なぜ僕たちに? 誰かに話せば筒抜けになりますよ?」
「言葉や情報ってのはな……誰かに渡れば、時に新たな戦争の火種にもなるもんだ。覚えておくといいぜ! また会える日を楽しみにしてるぜ! アデュオース!」
アルデバランは爆実を地面に叩きつけ、爆発とともに煙幕が広がりました。
「ゲホッ、ゲホッ……アリアちゃん、離れないでくださいね」
「わぁっ、前が見えなーい!」
煙幕が晴れた時には、もう彼の姿はどこにもありませんでした。
「……消えましたね。僕たちも今日は戻りましょう。今日聞いた話は、まずガーネットさんに相談した方がいいかもしれませんね」
「あとソフィアちゃんと王様にも!」
「うっ……国王様には、アリアちゃんからお願いしますね……」
「うん! 任せて! 休みなのに来てもらってごめんね! すごく助かったよ!」
「お役に立てたなら嬉しいですよ!」
二人は笑い合いながら、仲良く王都へと帰っていきました。




