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魔法使いを夢見る少女の冒険譚  作者: 夢達磨
第4章裏 決別編

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第6話裏 古封異人の女神…その名は…


「い、今のは!? ビーリス君の夢の中に入ったってことなのかい!?」


 リトニアは古封異人の女神の技に驚きを隠せません。


「そういうことです」


 突然、黙ってやり取りを見守っていた人物が口を開きました。


「君は?」


「私は古封異人のバイナリ。あなた方が通ってきたワープゾーンを操る能力と、空間を切り取る能力を持っています」


 バイナリと名乗ったその存在は、性別不明で謎めいた雰囲気を漂わせています。青白く透き通る肌に、虹色に揺れる瞳。人間離れしたその容姿は、異世界の神秘を感じさせました。


 灰銀色のローブが空中にふわりと漂い、まるで地面に足をつけることさえ拒んでいるような佇まいです。


「ご丁寧にどうも。夢の中に入ったというけれど、その時にビーリス君が目を覚ましたらどうなるんだい?」


「その時は、あの方も戻ってこられます」


「なるほど。教えてくれてありがとう」


 そしてリトニアはアリアに近づき、顔をじろじろと見つめました。


「ん? どうしたの?」


「ああ、ごめんね。アリア君はやっぱりグレイス君に似ているなぁと思って。姉妹か何かかい?」


「違うよ! 私、一人っ子だもん!」


「そうなんだね。じゃあ、生き別れた姉妹とか?」


「うーん……そんな話、聞いたことないよ?」


「そうだよね。ごめんね、変なことを聞いちゃって」


「ううん! 大丈夫だよ!」


 その時、ビーリスの額が虹色に輝き、一人の少女を抱えた古封異人の女神が戻ってきました。


「おお! グレイス君じゃないか!」


 グレイスは眠ったままですが、その顔はアリアにそっくりで、美しさを感じさせます。


「ただいま戻りました。最後に見た記憶が炎の中……あれは一体どんな状況だったのでしょうか」


「そうか……。あの火事の時に、グレイス君は亡くなってしまったんだね」


 古封異人の女神は、無言で服の煤を払いながら言います。


「記憶を辿りましたが、あれが最後でした。煙を吸い込んでいる可能性もありますから、特別に手当てをしておきましょう。すぐに亡くなられても困りますからね」


 そう言うと、彼女はグレイスの体に手をかざし、そっと魔法をかけます。


「『パージ』」


「パージ……エルフ族だけが使える浄化魔法だね」


「帽子で耳を隠しているので分かりにくいでしょうが、私はエルフ族の生き残りです。ほら」


 彼女は帽子を少しずらし、尖った耳を見せました。


「なるほど……。絶滅したと聞いていたから、驚いたよ。パージは浄化の力があるんだったね。ありがとう、グレイス君を助けてくれて」


「いえいえ。私はビーリス公爵との約束を果たしただけです」


 二人が話している間に、ビーリスは目を覚まし、大きな声で「グレイスー!」と叫びました。


「グレイス君はここにいるよ」


 リトニアが優しく声をかけると、ビーリスはグレイスの名前を呼びながら、彼を抱きしめました。


 やがて、グレイスの目がゆっくりと開きました。


「ち、父上? ここは……?」

「グレイスー! 良かった……本当に良かった!」


 ビーリスは人前もはばからず、子どものように泣きじゃくります。


 グレイスは父親の頭をそっと撫で、落ち着かせようとしました。


「感動の再会も良いですが……リトニア国王。約束は守っていただきますよ」


「うん、もちろんだ。僕は何を想像すればいいのかな?」


「いえ、リトニア国王の場合は記憶を探りたいだけです。リラックスしていただければ、あとは私が覗かせてもらいます」


「分かった。これでいいかな?」


 リトニアは横になり、目を閉じました。


「ご協力に感謝します。では、失礼いたします」


 古封異人の女神は、彼の額に触れないように両指を動かしました。


 数十分後、「終わりました。ありがとうございます」と彼女は告げます。


 リトニアはゆっくりと起き上がりました。


「あれ? もういいのかい?」

「ええ。お時間を取らせてしまい、申し訳ありません。必要な情報は得られましたので」


「それなら良かった。……じゃあ、僕たちは帰っていいかな?」


「はい。問題ありません。そろそろ解散といたしましょう。バイナリさん、皆さんをお送りください」


「御意に」


 バイナリは0と1の数字を操り、丸い形を作り出して、一瞬で三つのワープゾーンを出現させました。


「どうぞ。左からビーリス公爵家、冒険者学校、王室です」


「ビーリス公爵。我々の目的は果たされました。これにて協力関係は終わりにしましょう。あなたは自由の身です」


 泣き止んだビーリスは深々と頭を下げました。


「女神様、グレイスをありがとうございました! このご恩は一生忘れません!!」


「構いませんよ。こちらこそ感謝しております。では、お元気で」


 ビーリスはグレイスを抱え、左のワープゾーンに入っていきました。


「僕は歩いて帰るよ」

「おや? 警戒されているのですか?」


「いや、そうじゃない。ただ、そういう気分なだけさ。では、これで失礼するね。アリアさん、一緒に帰ろう」


 リトニアはそう言って、アリアの手を取りました。


「うん! またねー!」


 そして歩き出そうとした瞬間――


「きゃーーーっ! 助けてぇー!」


 外から、そんな悲鳴が響いてきました。


「なんだ今の声は……アリア君、危ないから外に出ないように。僕が様子を見てくるから」

「私も行くよ!」


「どんな危険が潜んでいるか分からない場所だからね。すぐ戻るから、大丈夫だよ」

「分かった!」


 リトニアは走り去りました。


 彼の姿が見えなくなると、古封異人の女神はふっと口元を緩め、すぐに穏やかな微笑みを取り戻してアリアに話しかけました。


「アリアさん、少しお話をしてもよろしいでしょうか?」

「うん、いいよ! どうしたの?」


 二人はしばらく、たわいない世間話を交わしました。


 その間に、ワープゾーンは静かに消えていきました。


「お引き止めしてしまい、申し訳ありません。国王様の元へ向かわれるのでしょう? ここは危険な魔物も多い区域です。どうかお気をつけて」


「うん! 分かったよ! ありがとう、お姉さん!」


 アリアは駆け出しましたが、途中で立ち止まります。


「どうかされましたか?」


 アリアは振り返り、にこりと笑って言いました。


「そういえば、お姉さんの名前はなんていうの?」


「私は古封異人の女神――名を『ジュゲナ』と申します。以後お見知りおきを」


「そっか! ジュゲナお姉さん、またねー!」


 そう言ってアリアは出口へ向かって駆けていきました。


「ビーリス公爵との協力関係はよろしかったのですか?」


「えぇ、あれはもう、使い物になりません」


「あの少女の古の魔道具もですか?」


 バイナリが問うと、ジュゲナは不敵な笑みを浮かべながら答えました。


「これで良いのです。私はずっとアリア・ヴァレンティンに殺意を向けていましたが……『魔蔵のペンダント』の反応はありませんでした」


「なるほど。反応がないのであれば、挑んでもあの少女には勝てなかったと」


「ええ、きっと勝てなかった。ここは研究所も兼ねていますし、壊されたくないのもありますが。それに、少し前にフィーダーさんがあの魔道具に言われていたそうですよ。『今回は警告だ。この子に近づくな』と」


「なぜ、魔道具が少女の味方を?」


「分かりません。今回の接触で何か掴めるかと思いましたが……残念です。……まあ、今回の目的は国王の記憶と、その力ですから」


「なるほど。能力を奪う算段があるのですね。さすがはジュゲナ様」


「ふふ……。さあ、この未来を見通せていたかな? リトニア国王」


 ジュゲナは古封異人の中でも“女神”と称される、特別な存在です。

 翡翠色の髪は滑らかに背へと流れ、深緑の和装はしっとりとした光沢を放ち、身につける魔道具は数知れません。時折、魔力を帯びてかすかに煌めくそれらは、彼女の威厳をより一層引き立てています。


 穏やかな微笑を浮かべる彼女の顔立ちは優雅で柔らかですが、その瞳の奥には油断ならぬ光が潜んでいました。まるで相手の心を見透かすような、鋭く冷たい眼差しです。


 ジュゲナは手を大きく上に上げ、嬉しそうに声を上げます。


「さぁ、第二章の幕開けです! オーッホッホッー!」

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