第10話 残された者たち
「楽しませてやるから、お前らも全力でかかってこいよぉ!?」
アクィラはバロンとレオンの間に素早く飛び込み、鎌を力強く振り下ろしました。刃がバロン侯爵の武器とぶつかり合い、鋭い金属音が響きます。その後、アクィラは一瞬で距離を取り、ニヤリと笑いました。
床に転がっているフィーダーが視界を邪魔するのを感じたのか、アクィラはフィーダーの襟を掴み、その体を周囲の空間に力強く投げ込みました。
「おい! もう一人の無能もさっさと中に入れ! 戦闘の邪魔だ!」と大声で叫びます。
すると、玉座の後ろから「まったく、人使いが荒い奴だなぁ」とぼやきながら、一つの仮面が空間に入っていきました。仮面の正体は、パルスの本当の姿であるようです。
その頃、ビーリスはグレイスの目線に合わせ、優しく告げました。「いいですか、グレイス。この場は危険です。決して離れないでくださいね」
グレイスは力強く頷き、「分かりました、お父様」と応じました。
ビーリスは忠告を終えると、すぐに空間へ向かって走り出しながら叫びました。
「レオン伯爵、バロン侯爵! リトニア国王の護衛は私に任せて、お二人は戦闘に集中してください!」
「ビーリス公爵! 国王様をどうかお願いします!」
レオンの言葉に応えるようにビーリスは短く頷き、意を決して空間に飛び込みました。
「あ? 虫ケラ一匹に何ができる?」
アクィラが冷笑を浮かべて挑発すると、レオンが怒りを込めて言い返しました。
「公爵を虫ケラなどと言うな。何故、リトニア国王を狙う?」
アクィラは興味なさげに肩をすくめました。
「俺様たちのボスが、あの虫ケラの王に用があるんだとよ。細かいことは知らねぇが、ボスの役に立てば俺様もご褒美として力を与えてもらえるんだ。まあ、本当はハンターギルドの連中にここで暴れさせ、魔道具で城ごと吹き飛ばす予定だったのにな。それなのに簡単に懐柔されるわ、うちの無能どもはなんの役にも立たねぇしよー!」
その時、グレイスの姿が視界の隅に映り、ゼルは声を張り上げました。
「グレイス嬢ーー! 戻ってきてください!」
突如、ゼルの叫びが大広間に響き渡りました。
なんということでしょう、グレイスが自ら空間の中へと飛び込んでしまったのです。その直後、その空間は静かに消えてしまいました。
「グレイス嬢!? どうして!?」
バロンが気づいた時には既に遅く、動くこともできませんでした。
「んあ? 誰か空間の中に入ったのか? まったく気づかなかったぜ。まあ、虫ケラが一匹や二匹増えたところで問題ねぇだろう」とアクィラが嘲笑を浮かべました。
「グレイス嬢ーーーー!」
ゼルは必死にグレイスを追おうとしますが、足がもつれてその場に倒れ込んでしまいます。
メルジーナはゼルに近づき「大丈夫?」と声をかけました。
「俺様は問題ない。でも、グレイス嬢が!」
「ビーリス公爵が一緒にいるから大丈夫だ。君たちは黙って見てるがいい」とソフィアが冷たく言いました。
「ったくー、耳障りなガキだなー。ワープゾーンが消えてるんだから追いつけるわけねぇだろ。お前らの主人が連れ去られたってのに、案外落ち着いてるな? 心配はしねぇのか?」
バロンは冷静に言い返しました。「国王様とビーリス公爵が、お前たちのような者に負けるはずがないのでな」
レオンも続けて「その通りです。我々はここであなたを倒します」と、鋭い視線でアクィラを睨みました。
アクィラは楽しげに笑い、「いいねぇ。俺様の任務はもう終わってるが、せっかくだから少し遊んでやるよ。いくぜ!」と叫び、勢いよく飛び上がると、力強く「はあぁぁぁ!」と声をあげながらレオンに攻撃を仕掛けました。
レオンは瞬時に剣に炎を纏わせ、アクィラの攻撃を弾きます。
その隙を見逃さず、バロンはアクィラのみぞおちに膝を打ち込みました。
しかしアクィラは微動だにせず、不敵な笑みを浮かべて「効かねぇな」と呟きました。
アクィラはそのまま鎌を振り回し、紫色の風を巻き起こしてバロンを吹き飛ばしましたが、バロンは見事に体勢を立て直して着地しました。
「魔力を奪われ、麻痺した体でここまで動けるとは驚いたぜ。だが、これで終わりにしてやる。最後に俺様の必殺技を拝ませてやろう!」
「それは光栄だ。では、我々も力を合わせよう。レオン伯爵、準備はよろしいですかな?」
「えぇ、もちろんです」
アクィラは鎌を高速で回転させると、二人は魔力を高め、迫る戦闘に備えました。バロンとレオンはお互いの剣をクロスさせ、そこから溢れる魔力でアクィラを包囲するように、炎と闇のオーラが一周します。二つの魔力が混ざり合い、黒い炎が燃え上がりました。
「あの構え……!」
「ついに来るわね……!」
ゼルとメルジーナはその構えに見覚えがあるようです。
「君たち、本当は元気だろ?」とソフィアは疑問を投げかけます。
「もう逃げ場はないぞ」とバロンが言い放つと、アクィラは「逃げるかよ! これが最後の一撃だ、『デッドエンド・パープルストーム』!」と叫び、鎌から紫色の竜巻を放ちました。凄まじい勢いで渦巻く紫の嵐が二人に向かって襲いかかります。
「受けてみろ!」とレオンが叫び、バロンが続けて「覚悟しろ!」
「「貴族の絶炎! 『黒炎の支配!」」
二人が放った赤黒い火球は、大広間の半分を覆うほどの巨大な炎となり、まっすぐにアクィラの竜巻へと突き進みました。
紫色の竜巻と赤黒い炎が大広間で激突し、爆発的な衝撃波が辺りに響きます。
「吹き飛ばしてやるぜ!」
アクィラはさらなる力を込めて紫色の竜巻の勢いを強め、火球の勢いを押し返し始めます。
「いいねぇ! 手応えがあるぜ! もっと俺様を楽しませてみせろ!」
「レオン伯爵、魔力をさらに上げられますかな?」
「もちろんです!」
二人は再び魔力を高め、片手を前に突き出して竜巻を力強く押し返し始めました。
「「はぁぁぁぁーーーっ!!!」」
「な、なにぃっ!? この俺様が押し負けているだとぉ!?」
アクィラは鎌を回転させ、威力をさらに上げますが、二人の放った黒炎の火球は徐々にアクィラに迫っていきます。
ついに彼は動きを止め、鎌を後ろに投げ捨てると、楽しげな笑みを浮かべました。
「はははっ! お前たち、なかなかやるじゃねぇか! いいぜ、今回は俺様の負けを認めてやる。だが、俺様がさらに力を得た時には――それが貴様らの最期だぁぁぁ! はははっ!」
黒炎の火球がアクィラに触れると、激しい爆風と共に大広間は黒煙に包まれました。やがて煙が晴れると、そこにはアクィラが立ったままの姿で現れました。
「なにっ!? この一撃が効いていないのか!」と、バロンは驚愕の表情を浮かべました。
「確かにいい威力だったぜ。だが、俺様を倒すにはまだまだ足りねぇな。今日はお前らのコンビネーションに免じて見逃してやる。――あばよ!」
アクィラは再び鎌を拾い上げると、バロンたちを大きく飛び越えて、出口へと向かって消えていきました。




