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魔法使いを夢見る少女の冒険譚  作者: 夢達磨
第4章 悪夢の王国記念日編

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第4話 許せ、古き友よ ビーリスvsスパイク  


 アリアがビーリスの屋敷に通い始めて数日が経ちました。マナー講座は順調に進んでいるものの、まだ貴族の前に出られるほどの仕上がりには至っていません。


 そんなある夜のこと、一人の男性がビーリス邸の門前に姿を現しました。その男はチャイムを鳴らすと、執事のパトラーが対応に出ます。


「おや、これは珍しいお客様ですね。どうなさいましたか、スパイク殿?」


 屋敷に現れたのはスパイクでした。


「ああ、パトラーか。久しぶりだな。この数日、ここに俺の生徒であるアリア・ヴァレンティンが出入りしているようだが、何か知っているか?」


「ええ、もちろんです。アリア様は旦那様のお客様としてお迎えしております」


 スパイクの問いに、パトラーは正直に答えます。


「この数ヶ月、複数の少女がこの屋敷に出入りしているとの報告があった。そして、その少女たちは全員、泣きながら帰宅している。何があったのかと問いただしても、『何でもない』や『言いたくない』と口を閉ざすばかりだ。ビーリスの能力なら、口封じなど容易いだろう。だから、直接奴に何をしているのかを聞きにきた。ビーリスはいるか?」


 パトラーは顔色ひとつ変えず、スパイクの問いに答えました。


「確かに複数の少女が出入りしておりました。しかし、旦那様が何をなさっているのかは、申し訳ありませんが、私どもも存じ上げておりません。旦那様は非常にお忙しい方ですので、スパイク殿もそれはご存じでしょう。今回はどうかお引き取りください」


 そう言って、パトラーは頭を下げました。しかし、スパイクは引き下がりません。


「ヴァレンティンは俺の生徒だ! 他の少女たちと同じ目に合わせるわけにはいかない! 俺が来ていることをビーリスに伝えてくれ!」


 パトラーは微笑みを浮かべながら、「フフッ」と小さく笑いました。


「何がおかしい?」


「いえ、申し訳ありません。おかしいのではなく、嬉しいのです。今のスパイク殿は、まるで蝉の抜け殻のような人物かと思っておりましたが、まだ昔の情熱を持ち続けているのが伝わってきたものですから」


「蝉の抜け殻……だぁ? 否定はしないが、俺には自分の生徒を守る義務がある。ビーリスが何を企んでいるのか、俺は知る必要がある。もしも昔からの友人が間違った道を歩もうとしているのなら、奴が道を外れる前に俺が正さなければならないんだ」


 スパイクは普段とは違い、ハキハキと物事を語っていました。


「しかし、旦那様からはお客様以外は通さないようにとのご指示をいただいておりますので、申し訳ございませんが、今はお引き取りを願います」


その時、スパイクの背後から声が掛かりました。


「おや、そこにいらっしゃるのはスパイク先生ではありませんか?」


「学園長? どうしてここに?」


「私はビーリス公爵にお呼ばれしておりましてね。もしかして、スパイク先生もですか?」


「いや、俺はビーリスが怪しい動きをしているので、何をしているのか聞きにきたんです」


「なるほど。それなら、もう少しでビーリス公爵とお会いする時間ですから、ご一緒されたらどうですか?」


「いいんですか? では、お言葉に甘えさせてもらいます」


 しばらくして、ビーリスが姿を現しました。


「時間になってもいらっしゃらないので、見に来ましたが、これはどういった状況でしょうか? スパイクさん、どうかしましたか?」


 スパイクは先ほどパトラーに話した内容をビーリスに伝えました。


「なるほど、事情は理解しました。出入りしていた少女たちに関しては、私が誰にも口外しないようお願いしていたため、それで口を閉ざしていたのだと思います。約束を守ってくれているようで、安心しました」


「何をさせていたんだ? お前の目的はなんだ」


「いえ、ただ現実を教えて差し上げただけです。彼女たちが泣くほどの結果になったのは予想外でしたが、それほど真剣に取り組んでくれたことを思うと、私も嬉しく思います」


「何をさせていたのか、答えろ。ヴァレンティンは俺の生徒だ。彼女を同じ目に合わせるわけにはいかない」


「私の協力者たちが約束を守っている以上、大人の私がそれを破るわけにはいきません。しかし、アリアさんは私の目的のために動いてくれているのです。大切な時期に彼女を奪われるわけにはいきません」


「ふざけるなよっ!」


 そう言いながらスパイクは、ビーリスの胸ぐらに掴みかかります。


「まあまあ、お二人とも落ち着いてください。暴力は良くありません。話し合いで解決しましょう」


 二人の緊張感が高まる中、学園長はなんとか二人を宥めようとします。


 しかし、スパイクは姿勢を低くし、戦闘態勢を取りました。


「スパイクさんは本気のようですね。私も運動不足ですし、少し体を動かすとしましょうか」


「お前の野望は俺が止める! 行くぞ!」


 スパイクは素早くビーリスとの間合いを詰め、その瞬間、ビーリスは細身の剣を抜刀しました。


「はっ!」


 スパイクの鋭い蹴りをビーリスは剣で受け止めます。スパイクは即座にバク転で距離を取り、髪を鋭く飛ばします。しかし、ビーリスはそれも難なく弾き返しました。


「もうあなたの技は嫌というほど見てきました。今さらそんな技が私に通用するとでも思っているのですか?」


「思ってねーよっ!」


 ビーリスは左手をパーの形で突き出すと、白色の鱗粉をばら撒きました。


 スパイクはその場で素早く回転し、鱗粉を弾きます。


「その程度で私の鱗粉からは逃げられませんよ。痺れなさい。『麻痺パラライズする鱗粉・パウダー』」


 白色の鱗粉はスパイクを取り囲むように拡散し、その色が黄色に変化していきます。


「効かねーよ」とスパイクは短く言い放ち、軽々と鱗粉を払いのけます。


「なんとっ!?」ビーリスの驚きは隠せません。


 目を見開いたその瞬間、スパイクは一気に距離を詰め、強烈な蹴りを彼の腹部に叩き込みました。


「ガハッ……ふふっ、いい威力ですね」と苦しげに笑うビーリスは、続けて言います。


「めんどくさい、だるいと言いながらも、きちんと訓練はされているようですね」


「少女集めに夢中になっているお前とは違うからな」とスパイクは冷たく返し、次の動きを準備します。


 ビーリスは剣を横に振り、反撃に出ようとしますが、その動作を見たスパイクは素早く身をかがめ、足払いを繰り出します。


「しまった!」


 ビーリスはバランスを崩して倒れ、スパイクは素早くその上に覆いかぶさり、動けないように抑え込みます。


「お前……弱くなったな。能力に頼った戦闘をするなと教育していたお前はどこに行ったんだ? 今のお前は自分の能力に頼りすぎてるじゃねーか」


「私は弱くなった、認めます」とビーリスはうつむきながら答えます。感情的な声で言葉を続けます。


「ですが、あなたに私の気持ちが分かるはずがありません! ただ、自分の目的を達成させたいだけなのですよ! 私の努力を無駄にさせないでください!」


 その言葉を聞き、スパイクは怒りに任せてビーリスの右頬を殴りつけます。


「な、なにを……」


 スパイクは掠れた声で叫びます。


「お前が努力する方向が違ってるんだよ。お前はいつも貴族として王に、国民のために頑張ってきただろ? 自分のことも大事なのは分かるが、お前はみんなのために努力できる奴だったろうが! いつから自分のためになったんだ! 何がお前を変えたんだ! 俺に教えてくれよ!」


 ビーリスは目を閉じ、静かに答えます。


「それは……言えません」と辛そうな表情を浮かべます。


「そうやってお前は隠すんだな」とスパイクは嘆きます。


「今も昔も国民が大切なのは変わりません。しかし、今の私の気持ちもまた大切なのです!」とビーリスは力を込めて言い返し、抑えられている手から鱗粉を空に向かって飛ばします。


「お前! まさか!?」

「避けられますか? 『鱗粉スケイルズ・爆発デトネイション』!」


 鱗粉は赤色に染まり、数秒後、空中で大きな爆発を引き起こします。爆発の衝撃と共に、激しい風が周囲を巻き込み、爆煙が立ち込めます。スパイクはその中で踏ん張りながら、反撃の準備を整えます。


 ビーリスは爆発の衝撃で門に激しく体をぶつけられ、苦しげに呻きながらフラフラと立ち上がりました。彼の行動を予測していたスパイクは、爆発を避けることができ、今こそチャンスだと見逃しませんでした。


「目を覚ませー!」


 スパイクは叫びながら、ビーリスに向かって拳を振りかざしました。しかし、その拳がビーリスに届く直前、スパイクの背中に鋭い光の光線が突き刺さります。


「ガハッ!?」スパイクは不意を突かれ、その場に倒れ込みます。驚いて振り返ると、そこには杖を構えた学園長の姿がありました。


「が、がく、えん……ちょう?」スパイクはかすれた声で言葉を絞り出します。


「眠りなさい。『スリーブりの鱗粉・パウダー


 ビーリスが技を放ち、スパイクは意識を失い、静かに眠りに落ちました。


 学園長はため息をつき、「あんまり喧嘩に横槍を入れるのは良くないと思いましたが、私の変身時間の限界と、写真のストックがなくなりましたので失礼させてもらいました」と軽く肩をすくめます。


 ビーリスは小さく笑いながら、「助かりました。あのまま続けていたら、私の負けでした」と感謝の意を表します。


「まあ、そうでしょうね。さて、スパイク先生をどう処理しましょうか」と学園長は冷静に言い、杖の先をスパイクに向けました。


「待ってください」ビーリスが止めに入ります。「ここで彼を殺せば、後々面倒なことになります。事が済むまでは、地下に幽閉させてもらいます」


「面倒ごととは?」


「学校が始まって彼が来なかったら、不審に思う人が出てきます。そうなれば、あなたたち古封異人も活動がしにくくなるでしょう?」


 学園長は少し考え、「確かにそうですね。止めていただきありがとうございます。では、そうさせてもらいましょう」と納得します。


「ご理解いただきありがとうございます。パトラーさん、彼を地下室へお願いします」ビーリスは執事のパトラーに指示を出しました。


「承知しました、旦那様」とパトラーはスパイクを運び、屋敷の中へと入って行きました。


 ビーリスはその姿を見送りながら、静かに言いました。


「君なら、私の性格を分かってくれていると思う。許してくれ、古き友よ」


 彼は何かを決心したかのように顔を引き締め、「私は……私の目的のためなら、王だって殺してみせます」と固い決意を口にしました。


 学園長はその言葉に満足げに頷き、「その心意気です」と短く返すと、二人は揃って屋敷の中へと姿を消しました。

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