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眠宿  作者: 堀川士朗
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最終話

おはようございます。眠宿、最終話をお届け致します。ついに最終話!あなたのハートには何が残りましたか?


 「眠宿」(最終話)


         堀川士朗



私は朝風呂を浴びた。

……………………。

………………………………。

………………あれこれ夢だっけ。

……何だっけ。

…………現実だっけ。

…………現実って何だったっけ。


オロロにやられた背中の傷の痛みを癒すため、二時間はずっとお湯に浸かっていた。

刺した際に毒を注入するタイプのムシじゃなくて本当に良かった。



今日は旅の最終日。

チェックアウトを済ませて東京の出版社の人らや妻にお土産を買っていこう。

手持ちのリュウトが少なくなってきた。私はカウンターに行き、ムシ屋の宿の旦那さんに頼んで日本円をネルネ共和国の通貨リュウトに両替してもらった。

レートは1リュウト=1.5円。

五万リュウト両替した。

ネルネ共和国は割りと物価が高いのだ。円安という事もあるのかもしれないけれども。



金を握りしめふもとの小さな商店街を散策する。

あ、チェックアウトするのを忘れた。


熱海にありそうな店構えのスマートボール屋さんがあった。

スマートボールが置かれている。多分五十年ぐらい前の台だ。

台は錆び付いて、色がくすんでいる。

これも後でやろう。


土産物屋があった。

ここの主人もやはりムシ屋の宿の旦那さんだった。人手不足なのだろう。奥さんの姿はなかった。

『ザ・ネルネ』と書かれたホワイトチョコレートを買った。

あと、ホンビノス貝の乾燥した味付けのやつを買う。妻と担当さん用。


「お客さん、うちでお土産を買って大正解ですよ」

「何でですか?」

「斜め向かいの土産物屋では絶対に買わないで下さい。あそこの店主は頭がおかしいから近づかないで下さい。うちで買って下さい」

「ふうん」

「ところでお客さん、もうオロロには刺されましたか?」

「刺されたよ背中を。しこたまね」

「あらら。オロロ避けのスプレーもありますがいかがですか?」

「いやいらないよ。もう東京に帰るからね」

「さいですか」

「うん。娘さんによろしくね」

「え?」

「娘、さん」

「見てしまったのですね。あれを」

「え」

「私は悪くない、私は悪くない!」

「ふーんへーはいはいそうなんだー。ううんまあそうですかー。ごきげんようー」

「私は悪くない!私は悪くない!」


土産物店を後にした私は温泉郷タマノイ中央駅に行き、そこで寝台特急コキュートス号に乗った。

東京までは一泊二日の列車旅だ。

帰りは個室タイプの座席にした。

旅の疲れが出ている。

部屋番号はキオミの201番。

落ち着いた良い部屋だ。

布団がこの上なくフカフカだ。

私は子供のように手触りを確かめた。

そうだ、東京に着いたらホンビノス貝を食べよう。

あんだけ食わされて、何だかクセになってしまったぞい!

ははははははははははははは!

妻にお土産も買ったのだ。

あれ。

そういえばもう何年も妻の姿がないなあ。妻はどんな顔をしていたっけ。思い出せない。


列車はいつまでも発車しない。


もしかすると私はムシ屋の寝床から、まだ一回も目覚めていないのかもしれないな。

私の、寝ているからだは無事だろうか?



           終わり



  (2022年9月~10月執筆)



最後までご覧頂きありがとうございました。奇妙な物語にお付き合い頂きありがとうございます。

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